【交流シナリオ】夏が過ぎ、風あざみ

Publish to anyone 2015-09-14 20:31:35 20views

エドウィンさんとスイカ


  「暑い……」
 親の仇か、とも思えるほどの日差しがこれでもかと降り注ぐ。
 自動販売機の駆動音がゴウンゴウンと鳴り響き、この暑苦しさを増している気がする。
 いつも利用する駅が早朝でも深夜でも多種多様な人間で溢れているせいか、閑散とした駅は静かすぎてなんだか落ち着かない。
 遮音壁が無いから遠くまで見渡せるのは新鮮だ。
 次の電車が来るまであと30分。
 さて、どうやって時間を潰そうか。
 手始めに同じように手持ち無沙汰な同行人に声をかけた。

 「暑くねぇの?」
 先程から通り縋った町人は皆極力薄着だったし海神龍至もTシャツにジーンズという軽装で、事件でもなければスニーカーではなくサンダルを履きたいくらいには暑い。
 が、同行人のエドウィン・コートダイクはいつも通りの、見るからに上質そうで一部の隙も無い完璧な英国紳士スーツ姿だ。
 「ええ、平気ですよ」
 電車を一台乗り遅れたのに妙にご機嫌に見える。物知らずな龍至だが、イギリスは夏でも霧が出る日は寒いほどの気温だというのは知っている。そんな国で生まれ育ったエドウィンが暑さに強いというのはなかなかに意外で、なんだか面白い。
 「日本の列車に初めて乗りました。本当に揺れないんですね」
 「イギリスってそんなに揺れるの? 日本の電車だって路線によっては揺れるぜ」
 「そうなんですか? そもそも時刻表通りに運行するということが驚きです。週末なんて特に乱れが多いですからね。代わりにバスが運行されはしますがこれがまあ。列車の数倍時間がかかるので。こんなに便利な乗物ではないのです」
 「都内じゃあ電車の方が楽だからなァ~。バスだと渋滞しそうだから、めんどくさそうで俺ァ殆ど乗ったことねーんだけど」
 二人とも、駅に備え付けのベンチには座らずに立ち話をしている。
 エドウィンの様に英国紳士然とした男性は特に目立つ。駅員ですらチラチラと彼を見ている。
 「外国の電車って、こう、新幹線みてーな高速鉄道ばっかみたいなイメージしかないんだよなァ~。乗ったことねーから一度くらいは乗ってみてぇわ」
 でもアメリカ映画によくある地下鉄は嫌だけどな、と付け加えると、エドウィンはくつくつと笑う。
 「新幹線にも興味あります。確か靴を脱いで搭乗するのでしたね」
 「マジで。俺乗ったことねーからその内ミスるところだったわ。何でも知ってんのな」
 「いえ、ただの聞きかじりです。 しかし日本人なら皆乗ったことがあるのかと思っていましたよ」
 「シューガクリョコーってので乗ったことはあるんじゃあねぇかなァ~」
 「なんですか、それは?」
 「俺もよく知らねェーんだけどよォ~、一学年まとめて旅行いくっぽいぜ。ウチの高校はどこ行ってたっけな……確かどこに行くか選べるタイプで年間の間に一回行けばいいってやつだったかな。国内と国外の好きなほう選べるんだ」
 日差しが幾分か傾いたのか立っていた場所から影になる位置へと龍至が移動する。
 エドウィンは変わらず涼しい顔をしている。もしかしたら、何かの魔術を使っているのかもしれない。
 「さては君、サボタージュしましたね?」
 嬉しそうなエドウィンの言葉からわずかに間を空けて、「よく判ったな」と笑い返す。
 「日本の列車は乗り心地は良いのですが、狭くて圧迫感があったので、ここに到着したとき、降りられたのはホッとしました」
 「狭いとか考えたことなかったなあ。いつも乗ってた路線は大抵混みまくってるのがフツーだからなァ~。ホームの広さだとすぐ判るんだけどな」
 「各駅で違うのですね、やはり」
 「人であふれかえることもあるぜ」
 「通勤ラッシュとというものですね。流石にそれは遠慮したいものです」
 「梅雨時は死にそうになるぞ」
 涼しい顔で天井を見上げ、エドウィンは古ぼけて錆だらけの時計で時刻を確認する。
 「次の列車―電車は何時頃着くのですか?」
 問われた龍至も上を向くが、電光掲示板すらない。今時そんなこともあるのかと、そこそこのショックを受ける。辺りを見回すとさすがに備え付けの時刻表はあった。
 「まだ後25分もあるな。つーか電車で5分以上待つとかありえねぇ。本気で来たこと後悔してきたわ」
 大きくため息を突く龍至を見て、エドウィンも苦笑する。
 ちょっとした騒動があると知らされ、二人で駆けつけたが本当に“ちょっと”した事件で、中途半端に古い鏡が人の心を映し出しはじめるのだが、本音を写すという物ではなく心の美しいものは覘いた瞬間だけわずかに光るだけで、所有者の自宅に町人が殺到したというレベルのもので、エドウィンが宿った魔力を取り除いたらただの鏡に戻り、事態は収束した。
 叩き割ろうとする龍至を止めるのが一番問題であったと思われる。
 当の鏡はエドウィンが所有者から正式に譲り受けた。
 「あ、お客さんたち。スイカ、いかがですか?」
 声をかけられ振り向くと、駅員が小玉スイカを抱えて問いかけてきていた。
 「近所の方から頂いたんですが、ここの駅舎の冷蔵庫には大きすぎるので。次の電車が来るまでの時間つぶしにいかがですか?」
 「スイカ? スイカってあのスイカですか?」
 「なんでそんなにスイカに食いつくの?」
 「食べたこと無いんです。話には聞いていたんですが、日本の夏の風物詩なんですよね?」
 「オチューゲンってやつでもらうぞ。 なんだよ、言ってくれればうちに山ほどあったのに」
 「そうなんですか? それでは今度是非。 そこの方、お願いします」
 「ええ、ええ。ではこちらにどうぞ。扇風機ならありますから」
 人の良さそうな駅員の後に続いて、エドウィンが楽しそうに、面倒くさそうに龍至が続いた。
 
 ついでに包丁も借りたのか備え付けなのか、大降りの包丁で器用に八等分に切り分けていく。
 「いい香りですね。甘くて瑞々しい」
 「まー、喉渇いていたし丁度いいっちゃいいかな」
 扇風機の生温い風が行ったり来たりする。蝉の鳴き声が街中にいるより騒々しい。
 「どうぞ、召し上がってください。 -っと、電話だ。私はちょっと失礼しますね」
 レトロな呼び出し音の元へと駅員は走っていく。黒電話の音など、外国人であるエドウィンも今時の子である龍至も知らない。
 丸かじりする龍至を、エドウィンがスイカと交互に眺めているので、どう食べればいいのか気になるのだろう。見られている当の本人は全く気にせず種までガリガリと食べている。
 「……かぶりつくんですか、これ」
 「バナナも皮むいて食べるだろ。それと同じだよ」
 「そんな行儀の悪い食べ方!?」
 「えー? じゃあスプーンでも探すか」
 台所と思しき場所の引き出しを躊躇い無く開けて、ガチャガチャと金属音を立てて無造作に食器を探し出す。
 間も無くスイカのお供である先割れスプーンの発掘に成功し、しつこいくらい丹念に洗い、キッチンペーパーで水滴をふき取ってからエドウィンに放り投げる。
 「龍至。マナーが悪いですよ。僕が取れなかったらどうするつもりだったのですか」
 「ストックがまだあるからヘーキヘーキ」
 平気で2切れ目にかぶりつく。潔癖症の割りにそういうあたりは無神経な男だ。
 「ドラゴンフルーツなら食べたことがあるのですが……少しドキドキしますね」
 きれいな山形の天辺をさっくりと切り取り、なんだかはしゃいだ様子で口に運ぶ。一口食べ、シャリッとした食感が口の中を爽快にしていく。じんわりと広がる甘さと水分が一気に体中に行き渡る。
 「え? 何? ドラゴンバトル?」
 「何ですかこれは! こんなに瑞々しい食べ物があるなんて信じられません!」
 「いやスイカよりドラゴンユルフワって何。ドラゴンが食うの?」
 「種は僕には硬過ぎますね。申し訳ありませんが残させて頂きましょう」
 初めてと言う割には上手に種を取り除きスイカの赤い部分を実に優雅に食べていく。
 「皮は食わねーとこだからな。 で、ドラゴニックパッションって何」
 「少し食べてしまいました。確かに苦味が強いですね。しかし実の部分……で良いのでしょうか。そこは本当に美味しいです。僕は何故今まで食べる機会を持たなかったのでしょう」
 まだ駅員はは戻ってこないが、なにやら楽しそうな話方が聞えてくる。
 「貰っちゃえよ。あの言い方だとしょっちゅう貰ってるっぽいじゃん」
 「良いのですかね。頂いちゃいましょうか」
 皮には白い部分だけをキレイに残して、次のスイカへと手を伸ばす。
 蝉の鳴き声、古い扇風機の音、芽に痛いほどの日差しとスイカの味。
 「正しい日本の夏だなあ」
 「これがそうですか。 なかなかに良いものですね」
 「蚊取り線香のにおいがあればパーフェクトだったな」
 わずかに自然の風が吹いて木の葉がガラス窓に当たって小さな音を立てる。
 エドウィンがスイカを食べながらイギリスの夏の風物詩について教えてくれた。
 イギリスのベストシーズンは6~9月のようで、何時のその頃に行く機会があるとしたら良いスポットを教えてくれるそうだ。
 「小さな事件を解決しに来たはずなのに、日本の夏を満喫してしまいましたね」
 気付けば二人で6切れも食べてしまっていた。
 「こんだけ残しておけば十分だろ」
 「しかし龍至、貴方は種まで食べるのですね」
 「だってチョコだろ?」
 「―その割りに硬かったような」
 「それよりドラゴンフルエルコドーってなんだよ」
 「ああほら、電車が入ってきたようですよ」
 ホームに入るのんびりとした音が二人の耳に入ってくる。
 「あー疲れきったわ。早く地元に帰りてぇー」
 「僕はいい体験と品物が手に入ったので大満足です。 また来ましょう」
 「スイカならどこでも食えるんだから、わざわざこんなド田舎来なくても良いだろ。今度貰ったら譲るから」
 「ではそのときには是非連絡を」
 「ところでドラゴニックフルーチェって何?」
 その疑問は電車がホームに到着する音でかき消された。
 夏はまだ続くようだ。


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坂上きらり @syha6
炎のレンチン術師。 最近FGOのことばっか。
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