@3000_meters
紅葉や錦木、満天星の赤い葉が、夕陽を透かし照り返し、さらに色濃く染まった光を物陰にまで届かせているような暮れ方だった。
神代もきかず、って風情だなあという感嘆の声は、嬉しげな響きを持っている。日ごろ周囲を驚かせてまわっているかれは、実のところ自らの心が驚きに動くことをこそ好む。
「竜田川ならいずれは流れて消えるだろうが、この庭はまるで、永久(とわ)にこのまま染められていようとも見えるなあ」
返った声はやはり感嘆のこもったものだったが、かれは眉間にしわを寄せた。
「君はどうにもそっちのほうに向かうんだな。欠けては満ちるようなものの名を持つくせに。もっとこう、変化するものに思いを寄せてみちゃあどうだ。そうだ、とりあえず抜け、抜け」
腰のものをか? と首をかしげるのに、うんうんと急かすように肯いて見せる。すらりと抜かれた細い刃は、くれないの光をぎらりと映した。
「よし、この夕景を斬ってくれ」
訝しげなまなざしは、確信に満ちた表情に行き当たってあきらめの色に塗りかわる。ゆるりと振りかぶられた刀身が、きれいな弧を描いて空を切った。
ばさり。と音が立ったかどうか。
からくれないの景色はまっぷたつに裂け、静かな夜の庭があらわれた。深く傾いた三日月が宵の頃合いを示している。
「あっはっは、さすがは三日月宗近だ。その気になれば夕映えを斬ることなど造作もないな。早足の月が沈む前に、一杯いきたい気分だぜ」
盃をかかげるしぐさだけつくり、かれはにやりと愉しげに笑った。
「夕映え切り、いや、秋の…秋映え切りの宗近に」
月灯りにけぶる睫毛にふちどられ、ぱちくりと驚きのまばたきがひとつ。
名とて変わるか、なるほど、そうか……。
そうかそうかと繰り返しつぶやく口もとは、やがて、ほのかな笑みのかたちを浮かべるのだった。澄んだ虫の音がりんと響いた。