X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

愛しの君はドルチェの後に。12-2

全体公開 1728文字
2016-04-13 22:02:10
Posted by @na75go

 久しぶりに揃っての休日、ジョセフはシーザーをつれて桜並木を歩いていた。
昨夜随分と荒れた様子で帰ってきたシーザーを宥めて落ち着かせて聞き出したところ、この春の新作に納得の行くものが出来上がらないらしい。
だいぶ煮詰まった様子にノンキに「あらまあ」と声に出したジョセフをギンと睨んだ目は昔を彷彿とさせるものがあったしどうやら自分が疲れているという自覚は無いらしい。
長男気質で面倒見たがりの恋人はどうにも甘え下手で、気の抜き方が天才的に下手糞だ。
おかげでジョセフはシーザーに気づかれないように息抜きをさせる術を身に着け、そして日々その技術は上達の一途をたどっている。
シーザーと言えば気の抜けた顔でジョセフの隣を歩きながら晴れた空を見上げ、風に揺れる桜を見ていた。
シーザーのみどり色の瞳に溶けた薄い空と淡い花びらのコントラストが美しくて、ジョセフは顔をゆるめてヘラリと笑う。
「で、何処に行くんだ?」
「ン、とっておきの場所。」
ほらほら転ぶなよと手を繋いでも、桜に見とれているらしいシーザーはジョセフを振りほどかなかった。



 桜並木が終わりに差し掛かる頃、ジョセフはカフェのテラス席にシーザーを座らせ「注文は任せろ」と店内に入っていった。
座ったまま視線をやれば、親しげな様子で長髪の店員と話しているのが目に入る。
クラシカルで落ち着いたカフェは店内にも空席があるようだったが、ジョセフは中に座る気はないようだった。
ふいにコトリと音がして人の気配に気づいて、シーザーは座ったまま少年を見上げた。
テーブルには水の入ったグラスとおしぼりがいつの間にか用意されていて、傍に立つ金髪の彼に「ぐらつぇ」と気のない礼をこぼす。
店員らしい金髪の少年はサッとシーザーを見てふうん、と薄く笑った。
「なるほど、愛しの美人。」
耳に心地よいアルトがからかいの色を乗せる。ニコリともニヤリともつかない不思議な笑みを残して店内に戻る少年とすれ違うようにジョセフが戻ってくる。
「何か話してたの。」と首をかしげるジョセフに何でもないと返せば、チラチラと淡い花びらが落ちてくる。
「良いな。」
と小さくこぼした声はしっかり聞こえていたらしい。ジョセフは、満足げに笑いながら頷いた。

 まだ肌寒い風が2人の体を冷やし始めた頃、長髪の店員が2人分の紅茶を持ってやってきた。
「サービスな」と置かれた桜の塩漬けの入ったクッキーにジョセフが喜びのハグを迫り、避けられてふてくされるが、男は気にした様子など一切なくシーザーに向き直った。
「あんた、ケーキ屋やってるって?」
「ああ。」
「今度2人で遊びに行かせてくれ。」
「もちろん。」
先ほどの少年を指差しながらニカリと笑う青年に頷けば、青年はシーザーにハグをして軽やかに店内に戻っていく。一部始終を見ていたジョセフはますますジトリと目を細めてジャイロに文句を言って紅茶を手にした。
口を尖らせながらも音もなく紅茶を口にするジョセフを眺めるともなしに見ていると、「冷めるぜ。」と促された。
瞬間、ひらりとテーブルに花びらが落ちてくる。
カップを持ったまま見た景色に、フとここがジョセフの会社の近くであると気づいて、ジョセフの言ったとっておきの場所という言葉に口元がゆるむ。
仕事の休憩にでも足を運んでいるのだろうと思うと自分の知らない姿のジョセフを感じるようで、シーザーはゆるりと目じりを下げた。
そのままようやく紅茶に口をつけて、二口、三口。あれ、と思いながらもう一口飲んでジョセフを見やると、驚いた様子で目を丸くした。
「え、気づいた?」
「これ、去年のやつか?」
「そうそう、覚えてたのかよ、流石シーザーだぜ。」
丁度1年ほど前ジョセフが持って帰ってきた茶葉の香りだ。さわやかな香りに滲む苦味が独特でよく覚えている。
引きずり出されるように思い描いたのは割れたカップの破片と、2人で買いなおしたカップで飲んだ同じ香り。
今も食器棚に並んでいる色違いのカップを思い浮かべて、シーザーが「そうか。」と笑う。
昨夜の眼力が嘘の様に甘くなった瞳の色にジョセフも笑う。
飲み干されたカップの中に、花びらが一枚踊るように落ちた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.