@SN_fake
※剣切・言切かつ黒アイリ+オルタセイバーも投入したとんでも時空。
プロット+αな煮込む前のおぼえがき。
ラストや設定や攻略法やをようやっと思いついたのでちまちま書いてきます。※
第四次聖杯戦争は、最悪の形で終わりを迎えた。
破壊された聖杯からは大量の泥が溢れだす。周囲一帯を飲み込み焼き尽くし、多くの犠牲者を生み出した。
それから数日後、火災の後も生々しい市民会館の傍で、アルトリア・ペンドラゴンは再度衛宮切嗣の手で召喚された。
***
強引に、水中から水面へ引き上げられたような感覚。アインツベルンの城で行われた時とは違い、半ば強引な召喚の反動にセイバーは現界した直後すぐに動けなかった。
立っているのがやっとで、一歩踏み出しただけで膝から崩れ落ちてしまう。自分をこの世につなぎとめるための力が酷く頼りない。霊殻と現界する為の体がかみ合っていないような不安定な感覚。
そもそも今、ここはいつの時代なのかすら不明瞭だった。聖杯戦争で召喚されるとその時代に必要な知識を与えられるはずなのだが、それがない。結局自分の持ち得た知識を活用して判断する他なかった。立ち上がるのでさえ時間を要しそうなので、ひとまずその場にしゃがみこんだまま周囲を見渡す。
辺りは一面焼け焦げていた。
右手に見えるのは住宅地だろうか、柱まで炭化して地面で燻っている。左手は道路に面しているが、こちらのアスファルトは熱されて路面が奇妙に歪んでいた。背後にあるのはこの周囲で一番大きな建物。その形に見覚えがあった。
冬木の市民会館。
最後に見たときは冬の冷えた空気の中に静かに立っていたそれも、今は周囲の熱にあおられあちこちが崩れ、焼けていた。一息吸うごとに肺が熱くなるような、熱された空気があたりを包んでいる。死臭も混ざっており、それらはカムランの丘を連想させ、わずかにセイバーは眉をひそめる。
次に足元に目を落とす。セイバーが座っている地面に描かれた、召喚の際に用いる魔方陣の出来栄えは完璧だった。ただ、利用されたのは生贄の血でも水銀でも、魔術的な要素のかけらもないただのチョークだ。大した準備もせずに作られたのは明白だった。
おそらくこの不安定な状態も、召喚の儀式の際に起きた不備が原因なのかもしれない。
最期に視線を正面へ動かす。そこでようやく、自分を召喚した術者の足が見えた。見覚えのある黒のスーツ。視線を上げていくと、失われたと思っていた自身の宝具であるアヴァロンを抱えた男――衛宮切嗣が居た。
脳裏を駆け巡るのは、最後の光景だった。
聖杯が浮かんでいる。
それ前に立ちはだかるようにして視界を遮る黄金のサーヴァント。
どけ、寄越せと叫ぶ声が自分の喉から発せられ、それを英雄王はせせら笑う。
その肩越し、自分の真反対側に黒い影が現れる。
確かな希望が沸き上がる。
その絶対命令権を使えば、目の前のサーヴァントのみを撃ち滅ぼすだけの力を発揮できると。
だからゆっくりと右手を掲げたその仕草に身を預けると決めたのだ。
そうして彼が、自分に「聖杯を破壊しろ」と命じる――
「キリ、ツグ…!」
怒気どころかその視線に殺気を込められて尚、切嗣は無表情を崩さない。それどころか一歩ずつ歩み寄ってくる。
間合いに入ったら、叩ききってやる。
そんな凶暴な思いとは裏腹に、体は剣の柄を握るどころかどんどん力を失っていく。セイバーは再度立ち上がろうとしてもがいたが支えていた腕が支えきれず、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。急速に視界が狭まって行く。切嗣はあと5歩もすればここまで来れるだろう。
この世界から離れるような、本来の場所へ引き戻されるような浮遊感を感じ、セイバーは意識を手放した。
***
焼け焦げた世界。
どんよりとした空が、さらに景色の色彩を奪っていた。
死人ばかりの町の中を、切嗣は彷徨っていた。この光景は、「この世全ての悪」を生み出してはならないと、その一心でセイバーに聖杯の破壊を命じた結果だった。
そうして助けられたのは一人の子供だった。
ようやく見つけたその瀕死の子供のために切嗣は自身が持っていたアヴァロンを使用した。既にセイバーはいないが、彼女の魔力はわずかに残っている。
切嗣はその子どもを抱き上げて、安全な場所へ移動しようと歩き始めたが、視界の隅を銀色の何かが掠めてその歩みを止めた。それがあった方角へ顔を向け、そのあり得ない光景に目を見開いた。
「アイ、リ……?」
くるくると、荒廃し燃え上がる町の中を舞い踊るように歩いていたのはアイリスフィールだった。特徴的な赤い瞳と同じような豪奢な深紅の色味のドレスを纏い、銀の髪を靡かせている。距離が離れている為その表情や細かい様子はわからないが、その背丈や髪の色、立ち居振る舞いはまさしく彼女だった。
しかし、アイリスフィールは聖杯が出現していた以上既にこの世にはいない。だとすれば、あれは泥の中で見たアイリスフィールを象った「この世全ての悪」だろう。高密度の魔力をぶちまけた結果受肉してしまったのかもしれない。
このままあれを放置しておくわけにはいかない。無謀であることは承知の上で、子供を再び地面に寝かせて唯一持っている武器であるのコンテンダーに弾を装填する。
周りの住宅街は燃え落ちてしまったため見通しが良すぎる。今から隠れてもどうにもならない。幸い先ほどまで体内にあったアヴァロンのお陰で傷は癒えている。魔術を使って一気に間合いを詰めれば、一撃を食らわせることも出来るかもしれない。
幾つかの可能性を考えた上で、ある程度の成功の公算を立てる。
方針が決まったところでコンテンダーを握り直して駆け出した。
アイリスフィールが何かを口ずさんでいる。
今は距離が遠くて何を言っているのか分からない。
彼女の周りで魔力が練られていく。
大規模な魔術を行うつもりかと身構える。
手を大きく広げた直後、光が弾け、そうして「それ」を呼び出した。
***
夢、にしては生々しい光景だった。
セイバーは目を覚ましてわずかに身じろぎをした。その振動で何かが隣で倒れる音が続く。目を向けると、力なく地面へと倒れているのは先の夢の主である切嗣だった。隣に、セイバーにもたれるようにして座っていたらしい。倒れてなお離さない手からは僅かずつだが魔力が供給されている。じんわりと、触れ合っている箇所が暖かい。
寝ている間もずっと傍にいて魔力を供給し続けていたのだろうか。その様子に、つい先ほどまでの怒りがわずかに収まったのを感じた。
聖杯戦争中は一度も見なかったマスターの夢をまさかこんな場所で見ることになるとは思わなかった。今の身の周りの光景と照らし合わせるに、あれは数日以内の出来事だったのではないだろうか。つまり、セイバーは聖杯が破壊されてからまだ一週間とたたずに再び召喚されたということになる。
あれだけ召喚の直後不安定だったのも、聖杯というバックアップが一切なかったからだと考えればいろいろと得心が行った。現代の知識が自然と与えられることも無かったのも、つまりはそういうことなのだろう。
それでも、あれほど不安定だった体が今はしっかりと機能している。原因は自分の体の中に還されたアヴァロンのお陰だろう。切嗣が触媒として使った後、セイバーに返すことなく利用していたそれは、持ち主に返ったことで本来の性能を発揮し始めた。傷を癒し、不老の身を与えるそれのお陰で、セイバーの体は安定したのだ。
それよりも「あれ」はなんだったのだろうか。
あのアイリスフィールが召喚したのは自分と同じ顔立ちをした「セイバー」だった。その甲冑も、携えている剣も何もかも同じだった。唯一違うとすれば、あのセイバーは何もかもが「黒色」だということだろうか。
切嗣はあそこにいたアイリスフィールを「敵」と認識した。その相手がセイバーという強力な武器を手に入れた。
サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントのみ。
つまりセイバーが対して間も
取りとめもなく思考していたが、ふと隣で寝ている切嗣の様子がおかしいことに気づいた。
もともと気配の希薄な切嗣だったが、あまりにも静かすぎて心配になる。
体を横向きにして倒れたままなので、恐る恐る体をゆすって起こそうとした。力が抜けた体がごろりと仰向けにさらされる。
顔面は蒼白、呼吸も浅い。
「キリツグ!?」
慌てて呼びかけてみるが、当然反応はない。額に手を当ててみるとわずかに体温が上がっているようだった。とにかくここにいてもしようがないと、セイバーはアイリスフィールと共に使用した拠点、武家屋敷へ運び込むことにした。