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青葉×ひふみ

全体公開 3521文字
2016-07-12 23:02:06

百合はいいぞ

『一歩、二歩、三歩と少しずつ』



 駅前の木陰にあったベンチで一休み。今日は予報に反して凄く晴れて……しまった? 雨でないのはよかったけれど、まだ六月だというのに夏かと思ってしまうくらい暑い。念のため持ってきた折り畳み傘の出番は、残念ながらなさそう。
 ……それにしても、暑い。
 手でぱたぱたと顔を扇ぎながら、ぼーっと目の前の光景を眺める。私と同じように暑そうにしてる人、手を繋いで歩くカップル、歩きながらスマホをいじってる人……あ、そうだ。
『待ち合わせ場所に着いたよ』
 スマホをささっと操作してメールを送る。いけない、青葉ちゃんに連絡を入れるのを忘れてた……歩きスマホに感謝しないと?
 今日はこれから、青葉ちゃんと一緒に買い物をする予定。私が普段どこで服を買っているか聞かれたから、一緒にいってみる? と誘ってそうなった。正直……誘うときはかなり緊張した。今だって物凄く緊張してる。普段誰かと外出するなんて滅多にないし、呼ばれることはあっても自分からということは……なかったと思う。じっとりと浮かぶ手の汗は、多分暑さだけのせいじゃない。だけど青葉ちゃんを誘うことができたのは、それ以上に強い思いが、背中を押してくれた思いがあったから。
 青葉ちゃんと、もっと仲良くなりたい。
 ……青葉ちゃんは、本当にいい子だ。素直で、優しくて、友達思いで、気配りができて、頑張り屋さんで……夢のために真っ直ぐ。その姿に思わず応援したくなるし、私自身も頑張ろうって……変わりたいなって思えた。……だから――
「ひふみせーんぱい!」
「わっ!? あ……え?」
 突然後ろから大きな声がしたものだから、無意識に変な声が出てしまった。驚いて振り向くと、そこにはいたずらっぽい笑顔を浮かべた青葉ちゃんが立っていた。び、びっくりした……って、そうじゃない!
「びっくりするから……青葉ちゃん、普通に前から来て……!」
「えへへ、つい……すみませんでした」
……もう」
 ……青葉ちゃん、いつもはいい子だけど、たまーにいじわるだ。本人は否定してたけど、青葉ちゃんは仲良くなるといじわるしてくるタイプ。……うん、たぶんそう。だからいじわるさせるのは……嬉しいけど嬉しくないような……うそ、本当は、少しだけ、嬉しいと思っている私がいる。そんなの……言えないけど。
「待たせてしまってすみませんでした。いつから居たんですか?」
「あ……ちょっと前に来たから、そんなに待ってないよ」
「そうですか? ならよかったです」
「うん……それじゃ、行こうか?」
「はい!」
 これから行くお店は、私が好みの服を多く扱っているから、よく利用している。しかも待ち合わせ場所の駅前から十分とかからないから、かなり近い所にある。……そういうわけで、今日はそこにするつもり。
「ひふみ先輩が行くお店、楽しみです」
「気に入ったものが……見つかるといいけど」
「そうですね。……うぅ、それにしても今日は暑いですね」
「そうだね……暑い……
 二人して暑さに参っている内に、目的の建物についてしまった。入った瞬間のひんやりした空気に、思わずほっとため息が出る。涼しい……
「ああー涼しいですね! ここが天国! 生きててよかった!」
 青葉ちゃんも、嬉しそうで何より……
 店員さんのいらっしゃいませを聞いて、早速服選びに移る。……一瞬意外そうな視線をぶつけられたのは、私が誰かと一緒だからかな? そう意識すると……ちょっと恥ずかしい。
「青葉ちゃん……このお店なんだけど、どうかな?」
「はい、いいと思います!」
「そう? ……よかった」
……でも」
……?」
「このスカートとか……いいのが多すぎて迷いますね……
 色んなものを手に取る青葉ちゃんだけど「どれにしようかな……くまったくまった」と一人言を言って悩んでいる。……そんな青葉ちゃんも、ちょっと可愛い。
「うーん……あ、そうだ。ひふみ先輩はどれがいいと思います?」
「え……私が選んでいいの?」
「はい、ぜひお願いします!」
「わ、わかった……頑張る」
 誰かの服を選んだことなんてなかったけど……ちゃんと、青葉ちゃんに合う可愛いやつを選ばないと……よし!
「ちょっと……待っててね」
「はい」
 色とか何がいいかな……派手すぎないのかな……
……
……
 夏前だから暑くないやつ……
……
……
 似合いそうなデザイン……これとか?
……
……
……
「す、凄い真剣ですね……
……うん」
 集中しすぎて、いつにも増して無口になっちゃった。だけど……うん、大事なことだからね、仕方ない。それに今ので、これというのを見つけることができた。
「この水色のワンピースはどうかな……フリルが可愛いし……袖も短いから涼しげだし」
「確かに、夏着るのにちょうどよさそうです。試着してみますね」
「うん」
 青葉ちゃんが試着室に入るのを見て、ほうと深く息を吐く。集中してたのもあるけど、誰かと買い物自体慣れていないから……少しだけ、疲れちゃった。……だけど、嫌じゃない……かな?
 私……少しずつだけど、変われてる。人と話すのはとても気を使うし……私は話すのが得意じゃないから、なるべく避けて生きてきた。だけどこうして誰かを誘って、お話だって……お出かけだって、できるようになった。相手が青葉ちゃんだからというのも……あるかもしれないけど……それもこれも全部、青葉ちゃんに会えたからで……本当に、感謝してもしきれない。
「先輩、着終わりましたー。……どうですか?」
 そうしているうちに、着替え終わった青葉ちゃんが出てきた。……思った通り、淡い青は青葉ちゃんの髪の色に合う……ラインを強調しすぎない控えめなデザインなのも……これは……物凄く似合ってる……
……あ、青葉ちゃん!」
「はいぃ!?」
 あ……つい興奮して大声を出したから、青葉ちゃんを驚かせてしまった……え、えぇと……その……
「か……可愛い、よ……?」
「あ、ありがとうございます……えへへ、なんか照れますね」
 そう言ってはにかむのも、また可愛い。……青葉ちゃんが前に言ってたことが、わかった気がする。よし……じゃあそれにしようか。
「それ……私がお金出すよ」
「え!? そんなわるいですよ!」
「ううん、私が選んだわけだし……プレゼント……ってことで……
 元々そういうつもりで、今日を臨んでいた。感謝の気持ち……みたいなものなのかな?
……あ、そうだ! じゃあ私もひふみ先輩の服選んでもいいですか? それを交換ということで」
「え……いいの?」
「はい! それにひふみ先輩にだけ出してもらうのは申し訳ないですし……
……じゃあ、そういうことなら」
 うん、そういうの……うまく言えないけど、凄くいいな。……少しだけだけど、特別な感じがして、嬉しい……のかな? 初めてのことだから、私の中で……ピタリとくる言葉が見つからない。でもこの温かい感じ……青葉ちゃんと出会ってから、こういうことが増えた気がする。
「よし! 先輩に似合うの、見つけてみせます!」
 青葉ちゃん、ありがとう……



 私は……青葉ちゃんが好き。そうやって、一度でも感情が芽生えてしまったら……ずっとその感情を引きずって、歩くしかない。引きずって歩くしかないのに、私は……自分の意見や感情をうまく言葉にできないから、思うように身動きが取れないでいる。だけど今日、こうして青葉ちゃんを誘えたのは……やっぱり青葉ちゃんが、好き……だから。
 だけどそれを、青葉ちゃんに伝えてしまったら……世界が変わっちゃう。せっかくの関係が壊れちゃうって……とても、とても、恐い。もう二度と……立ち直れないんじゃないかっていう浮遊感が、私をどこまでも臆病にさせる。……だからごめんね、青葉ちゃん。この気持ちだけは、内緒にさせてほしい……いつか、言える勇気が出たら伝えたい……
「うーん、何にするか悩みます……
「大丈夫、ゆっくりで……いいよ」
 お買い物を終えて、そのまま近くのカフェで休憩することにした。一番暑い時間は過ぎたけど、まだまだ外は暑い。冷たいカフェモカのカップは、既に汗をかいている。
 青葉ちゃんはというと、まだメニューのデザートのページとにらめっこしていた……くまったくまったと言いながら……。青葉ちゃん、熊好きだよね……そんな青葉ちゃんのかわいい言動を見ながら、カフェモカを手に取り一啜り。その味は……ほんの少しだけ、苦かった。


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