@mugenwars
お前に与える役割は、"処刑"
罪を魂から切り取り、
穢れを次へ残さないために導く者。
決して間違えてはならない。
お前の刃は救うための刃だ。
【からあげと悪魔】
今日もそれはぼんやりと建物の屋根の上から人の群れを眺めていた。
遠く地上を歩き回る黒い影たちはまるでアリのように規則正しく歩いたり、横にそれたりする。
「今日も見てるの?」
「今日も聞いてるの?」
兄弟が訪ねてくる。
こくりと一度うなずく。
「ここからじゃ罪人は見えないよ」
「ここからじゃ罪人の声はとどかないよ」
耳を塞がれた兄弟と目を塞がれた兄弟はあたりまえのような口調でそれに告げる。
それが抱える大きな鎌はいまだ誰かに振るわれたことはない。
一度も血を浴びていない恐ろしい鎌は丁寧に磨かれ、
刃は鏡のように持ち主である山羊頭を映している。
山羊頭の処刑人は兄弟の誰よりも与えられた使命に忠実だった。
というよりはそれ以外の生き方を知らなかった。
ただ何もなく人々を眺め続ける処刑人を眺めて、
目と耳と兄弟はお互いに顔を見合わせ、首をかしげた。
そして一つの結論に至る。
「こっちきて」
「こっちいこう」
そういって二人に手を引かれ、
首をかしげながら処刑人は歩き出した。
「目で見てたのしいもの」
「耳で聞いてたのしいもの」
二人はそう説明しながら一つの店の前へ処刑人を連行する。
「耳がない人でもたのしいもの」
「目がない人でもたのしいもの」
処刑人は目を丸くする。
山羊の鼻孔をくすぐるのは香ばしい香り。
目の前に並べられるのは山のように積まれた狐色の塊。
つやつやと油がひかり、けれど決してべたべたした様子ではない。
「私たちが同じ気持ちを共有できるもの」
「僕たちが同じ気持ちを共有できるもの」
二人は自慢げに話す。
その二人もまた、悪い兄弟からこのことを教わったのだが、それは処刑人には内緒にする。
「「買い食いってさいこー」」
声をそろえて言う、処刑人には聞き覚えのない単語。
それをいうなり、二人は店の主人に何かを告げて、
硬貨と引き換えに狐色の塊を受け取った。
「これね、からあげっていうんだって」
「からあげっていう食べ物なんだって」
食べることによる楽しみも知らなかった処刑人が丸い目を何度か瞬きさせた。
そんな彼の口元に、からあげなる物を近づける。
食べ物、であるからには口に運ぶものなのだろう。
そう判断した処刑人は口を開けてそれを噛む。
口にじゅわりと広がる獣の油。
弾力のある肉は、少々火が通りすぎているだろうか。
しかし、濃厚な鶏の味はあっという間に舌を潤し、
火が通りすぎたと思った肉の弾力はむしろ噛み応えがあり、さらなるアクセントになっている。
と、いう細かい感動があったかどうかは定かではないが、
処刑人は目を輝かせた。
「人生に光がさしたとでもいうのだろう!彼はそれ以来、からあげという食べ物に夢中…」
「だから最近油ものくさいんですね」
場所は変わって、番人の私室。
別名説教部屋。
そこで正座をさせられている悪魔の姿。
「で、この領収書は彼の食費だと」
紙束が机の上に積まれている。
「イヤ、それはカレとカレとカノジョとボクの領収書だイタイ!!」
書類の束で頭を叩かれた悪魔が涙目になって叫んだ。
今日も山羊頭が建物の上で人々を眺めている。
肩には大きな鎌を担ぎ、
傍らにはからあげの詰まった入れ物。
もくもくとからあげを頬張っては、
ほんの少し世界の幸せの一端をかみしめていた。