@mugenwars
お前に与える役割は、"伝令"
数多の事実から真実を見極め、
それを皆へ伝え歩く者。
きっと誰もがお前の言葉を疑うだろう。
だが忘れてはならない。
お前の言葉はだれかを導くための言葉だ。
【未知と悪魔】
彼は実に笑顔でつまらなそうな顔をしていた。
なぜなら彼は何もかもを知っていたからだ。
そこゆくあの子は先日女の子に告白して玉砕した。
この老人は75年と18日前にドラゴンを倒した。
あっちで産声をあげた赤子は実は国王の隠し子だ。
そこの店のからあげがおいしいことだって
この店は5つかうとおまけしてくれるとか
あっちの店はメニューにない注文だって受けてくれる。
これ以上のつまらないことがあるだろうか。
彼はいつだって心の中で肩をすくめる。
歳を経るごとに、彼の知らないものはなくなっていく。
いつしか世界から未知は消え去ってしまった。
心の空腹を満たすように、
彼は出店のからあげを買って口に頬張る。
この味も知っている。
おいしいのだが、おいしい以上の感動は得られないのだ。
なんと、なんとつまらないことだろうか。
ふと、街の角に目を向けた。
とたん、彼は目を丸くして持っていたからあげと取りこぼした。
街の影へと消えるように歩いていく黒い人影は、
彼の知識にないものだった。
”ミタことがないヒト”
ではない。
”ミタことがないモノ”
である。
個人の違いなどほとんどどうでもいいが、
種族として見たことのないものが目の前をすり抜け街の中に消えようとしていた。
それを彼が追いかけないはずもなかった。
気配を殺し、
魔力を殺し、
存在を殺してそれに近づく。
町はずれの森の中、
それはついに正体を現した。
漆黒に染まった大きな翼、
同じように黒に染まりつつある金の髪。
砕けた宝石のような天の輪。
声が出そうになる口を必死で抑えた。
あれはまるで天使だ。だが天使ではない。
彼が知っている天使とは違うし、
かといって彼が知っている堕ちた天使とも違う。
そして、そしてなにより、
あれではまるで。
幾年にもわたって続いていた退屈が、音を立てて崩れていく。
感動と恐怖と期待と希望が合わさって、何とも言えない震えが全身を伝う。
それは彼の転機だった。
たいくつでたいくつで、
主に命じられた使命は果たすべき時を見つけられないまま。
だがその黒い天使との一方的な出会いは、
彼を奮い立たせるには十分すぎた。
「ミていてほしい相手がいるんだ」
彼は兄弟にいう。
「見るだけ?」
「聞かないの?」
耳を塞がれた兄弟と、目を塞がれた兄弟が同じ方向に首をかしげる。
「ミて、キいていてほしい。カレが何をするかを、何を成すのかを、どうなってしまうのかを」
そういう彼を見上げた双子は、大層嫌そうな顔をする。
「悪い顔だ」
「番人に怒られる」
説教役の名前を聞いて、彼は大層いい笑顔で笑って見せた。
「ヒトツこの世の心理をおしえてあげよう。それと引き換えでどうだい」
取引内容に双子は顔を見合わせる。
そして、ひとつだけうなずいた。
「いいともキョウダイ。じゃあ一度しか言わないからよく聞くんだ」
大げさに手を広げて彼は言う。
「買い食いは最高においしい」
おどけたように、彼は笑った。