@snzasi
深夜、普段なら誰も居ない厨で何か音がする。周囲を気にしてか窓付近に付いている手元を照らす電気をつけただけの薄暗い中、もうすぐ一人遠征から帰還する和泉守兼定にと堀川国広は夜食を作る支度をしていた。
米を炊きながら食材のあまりを確認するとウインナーと沢庵を切り始める。その横でふと、目の端に何か映った気がして警戒すると堀川によく似たもちが卵を転がして来ている。
…何か作れって事かな?
食品のある所には必ず居ると言われる黒い者かと警戒していた分、拍子抜けした堀川をよそに一人だけかと思われたもちはもう一人いたようで、気付けば白い布を被ったー山姥切によく似たーもちが反対側から皿を運んできた。
これはどうやらもちの分も作らなければならないようだ。眉を八の字にして仕方ないなと笑うと堀川は卵を割って溶き始める。もちはその様子を見ながら時折なにか話しているようだがその言葉は堀川には分からない。ただ二人並んでにこやかにしている姿はなんだか微笑ましく思えた。
夜の闇に夕飯時のいい匂いが溶けていく。
日課消化のために単身、数時間とは言え遅い時間から遠征に出された和泉守の機嫌は少なからず良くなかった。夕飯もお預けの状態で出され帰る頃にはもう夜だ。空っぽのお腹と文句を抱え、門をくぐった辺りで厨から何か匂いがするのに気付いた。玄関へ向かうはずの足はそのまま勝手口へと歩を進める。
夜目が利くおかげで太刀だった頃なら確実に苦労したであろう、月明りが頼りの狭い道を難なく進むと遠目に厨の明かりが見える。腹を空かせた誰かがコッソリ夜食でも作っている可能性が無いわけではない。ただなんとなく、その時は国広のような気がしてそのまま勝手口の戸に手をかける。
「兼さん、おかえり!」
ドアノブに手が触れるか触れないかのところで戸が開き、と同時に堀川が顔を出す。
一瞬反応の遅れた和泉守を気にかけることなく堀川は「お腹空いてるでしょ?夜食あるよ。」と手を引く。
見れば奥におにぎりとおかずが少し乗った皿が置いてある。その様子にさっきまでのささくれだった気持ちが嘘のように消えていくのを感じながら自然と口角が上がる。
崩れにくく綺麗に握られた焼きおにぎりを頬張る和泉守の向かいではもちが堀川に焼いてもらった卵焼きをかじっている。まだほんのり温かいのか湯気が薄っすら見える。そういえばこれも温かいなとおにぎりを眺める。もしかしたら温めなおすのも兼ねて焼いたのかもしれない。そういえば添えられたウインナーもまだ温かい。ータコの形に切られているのが気になるのかもちが少し気にしているのが面白くて一つ皿に乗せてやると喜んでいるのか興味津々なのか、二人して食べるのを止めてウインナーを見ている。ー
こちらが不機嫌で帰ってくるのを見越したかのような気遣いに心まで温かくなったような気がした。