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【いつかどこかの悪魔と彼の話】

全体公開 2 3100文字
2017-02-14 18:32:19
Posted by @mugenwars

「邪の神に会う方法、オシえてあげようか」

黒い翼、黒い髪、黒い服、
彼の前に現れたそれはまさしく、悪魔だった。
彼は怪訝そうな顔で悪魔を見る。

「タイミングがよすぎる」

そんな彼の表情を面白がるように、
悪魔は笑顔で答えるのだ。

「タイミングを見てキたからね」

そうして悪魔は
一枚の黒いチケットを男に見せる。

「教えてあげるよ、そのかわり、キミの大切な人をボクに頂戴?」

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【いつかどこかの悪魔と彼の話】

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「こっちだよ」
「こっちこっち」

街の中を、男が二人の子供を追いかけている。
街に人影はなく、
紫色の空が不気味さを尚増量させた。

(逃げ足の早いガキどもだ)

それは男の頭の中の声。
だが双子はくすくすと笑って彼を翻弄する。

「くちのわるいおじさん」
「こどものじょーそーきょーいくにわるいんだよ」

双子の悪魔が課したのは速さの試練。
心の中を容易く吐露してしまう空間で、双子は彼に問う。

「「ねえおじさん、おじさんがしねばみんながしあわせになるとしたら、おじさんはどうする?」」

悪魔というのは面倒なものばかりなのだなとばかりに、男はいつものように眉間にシワを寄せた。

(俺は、)

そして彼は大きく跳躍する。
彼の手が、双子の悪魔のフードを捕らえた。


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男が対峙するのは巨大な鎌をもった山羊頭。
山羊特有の横に伸びた瞳孔が、男の姿を映していた。

「で、お前はなんの試練なんだ」

男がそう言うと、山羊頭の悪魔はゆっくり大鎌を構えた。
「なるほど」と呟いて、男は鞘から剣を引き抜く。

お互いに刃を向け、一拍置いた次の瞬間、
バネのように飛び出した男の刃と山羊頭の悪魔の大鎌がかち合い、火花を散らす。
まるで剥製のように表情の動かない山羊頭は、それでも瞳と手足は歴戦の戦士のように動き続ける。
隙を見つけては首を刈るように鎌が振るわれ、ギリギリで避けて鼻先を掠める。
男は気づいた。
避けきれずに掠めて切られたであろう所に傷がないこと。
肉体的な疲労よりも、精神的な疲労の方が強いこと。
一歩離れ、息をはく。
これではまるで、

「魂だけを傷つける魔法の大鎌ってか」

は、と口の端をあげて男は笑った。
それを山羊の瞳が映して、ようやく剥製のような山羊頭の口が動く。

「強く、なければ、己の、魂すら、守れない」

大きな鎌を構え直し、山羊はまるで威嚇する肉食獣のように牙を剥いた。

「己を、守れぬものに、他者を、守る資格、無し」

それに答えるように、
男も剣を構えて、にっと笑った。


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それはたぶん夢の中だった。
それは男か女かいまいち曖昧で、
囚人のように腕を拘束する形状の服を着ている。
いや、その姿さえ、きっと曖昧なのだろう。

「何故」

夢の中の悪魔は男にそう言った。

「守りたかったんだ」

男はそう答える。

「なにを」

悪魔は尚問う。

「あの世界を、あの人を。でもだめだった。俺には足りなさすぎた」

自嘲気味に男は笑う。

「だから直接文句言いに行くんだよ。あんな良い世界を、あんなに良い女を、ちゃんと守ってやれって」

曖昧な夢の中の曖昧な意識は、それでも穏やかに笑った。

「何故。それを伝える義務も責任も持たないのに」

夢の悪魔は問い続ける。
男はゆっくり首を横に振る。

「理屈じゃねえんだ、俺の心が、魂が、そう言えって言うんだ」

男が答えると、
夢の悪魔は暫く黙ってから、ひとつだけ頷いた。


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で、お前の試練は?」

剣を鞘からすこし抜いてカチカチと鳴らしながら、男は始めに出会った悪魔に訊ねた。
黒い悪魔は降参といったかんじに両手を上げる。

「よくあるヤツさ。ココまで来ることが試練だった、ってネ」

そうして悪魔は、彼に渡した黒いチケットに最後の模様を書き足す。
黒い悪魔はチケットを返して、次の目的地を伝える。
終点はもうすぐだと。




男は、いつものように眉を寄せて怪訝そうな顔をした。

「なんて顔してんだ」

黒い悪魔の顔は随分と疲れているように思えたからだ。
悪魔は笑う。

「いいや、ナンデモナイ。キミはダイジョウブだ。そうだろう?」

悪魔の言葉はいつだって理解不能だった。
だから今日も男は、眉をひそめて首をかしげた。


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長い長い廊下、そこで彼を出迎えたのは褐色の肌で背の高い司書風の男。
男はぺこりと頭を下げると、帳簿を開いて首をかしげた。

「その方はたぶん議会の参加者ではありませんよ」

奥からやって来たのはモノクルをつけた、青い尾を持つ、こちらも司書風の姿。
一枚の黒いチケットを見せると、モノクルの奥で黄色い目を細めた。

「書記さん、奥へ行っていてください。どうやらお客さまのようなので」

褐色の肌の男はそれを聞いて廊下の奥へと歩いていく。

歓迎はしません、ですがようこそ。貴方が私たちの敵ではないことを祈ります」

最後の悪魔は、そう告げた。


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暗い場所
嘆きの声
恨みの叫び
嘲笑の笑み
ここが地獄の底と言われても納得するだろう。
男が進むと、先にいるのは銀色の影。
嘆きを集めて慰めるそれが、訪問者に気づいて振り向いた。

……ああ、さて、なにを聞きたいんだ」

宵闇のような深い色の瞳が、
悲しそうに
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一生あり得ないだろう邂逅の後、
夕闇を歩く彼の前に、彼はいた。

「やあ、神様にあった感想は?」

顔半分を覆う仮面の裏で、
彼は笑った


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「ああ、切れてしまった」

弱々しく光る帯のようなものを伸ばして、仮面の男は嘆いた。
光る帯は、途切れたところから黒く変わり、やがて粒子になって朽ちていく。

「なんとも脆い。直接記憶を抜き取る実験は終わりにすべきか」

顎に手をあて、思案する男の足元には、
一人の男が倒れ付している。
帯はその男の胸の辺りから生えるように伸びていて、
やがてその全てが朽ちて落ちた。

「器に入ったまま弄るのがいけないのか。仕方がない、切り離す実験に移そう」

そう一人呟きながら、仮面の男の手から落ちた重油の用な黒い液体が、
倒れ付した男を飲み込んで、溶けるように消えていった。

「試練を越えたやつなら魂も強かろう、と思ったけれど。期待はずれだ、なあ?」

何処ともなく、
仮面の男は笑った。


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