@eri06hp
小学生の頃、好きな人にチョコをあげた。これだけ聞くと素敵な想い出のように聞こえるがあげた俺と渡した相手どちらも男である。
ちょっとした出来心だった。もちろんそこには好きな人にチョコを渡したい、という純粋な気持ちもあったが少しでも彼の記憶に残りたかった。後に笑い話にされてもいい。俺のことをかすり傷程度でいいから心に置いて欲しかったんだ
パリパリと割れる氷の結晶を踏みつけながらマフラーに顔を埋める
白い息を吐きながら歩幅を広げた。時間に余裕はあるが気持ちが急く
周りを見渡せば同じように制服に身を包みいそぎ歩く学生の姿がちらほらと目に写った。
門をくぐり抜けその先にある板を見上げると番号が羅列されておりそれに目を走らせながら手元の番号と比べ見る
ゆっくりとゆっくりと目線を下ろすと探している数字に辿り着いた
そのことに安堵しながら見慣れた番号へと電話を掛ける
「母さん…受かってたよ。うん…本当にね良かったよ。……うん分かった。じゃあまたあとでね」
嬉しそうな母の声を聞き顔が綻ぶのを抑えながら道を引き返そうとした途端つよく後ろに手を引かれた
突然のことに驚きながら振り替えると焦ったような顔をした男が立っていた
「蓮…だよな?」
そう聞いてくる男の顔はどこか見覚えがある。
「もしかして小橡(ことち)くん…?」
まさか、と思いながらもそう尋ねるとホッしたように目の前の彼は顔を緩めた
「そうだよ、覚えてくれてたのか」
「…もちろんだよ」
覚えてるに決まってる。
なんせ彼は俺の初恋で更にバレンタインにチョコを贈った人なのだから
「久しぶりだね…」
「そうだな小学校以来だからかれこれ3年ぶりくらいか?」
また会えて嬉しい、と笑う彼に胸がざわつく。それを悟られないように当たり障りの話をしながら足を早めた
「小橡くんもこの高校に通うの?」
「あぁ、無事受かったからな。蓮もだろ?」
「うん。春からよろしくね」
それじゃあまた入学式で、そう言って別れるつもりだった。このままではいつかの想いがぶり返しそうな気がしたから。しかし彼は帰り道を急く俺の手を引き止める
そんな彼を訝しげに見上げると困ったように笑ったあと真剣な顔つきで言い放ったのだ
「あの…さ、あの時のことってもう時効か?」
その言葉にどきりとした。あの時のことっていうのは恐らくバレンタインのことだろう。それ以外考えられない。なんで今更?とか、時効かってどういう意味?だとか気になることが多すぎる。
しらばっくれる…のは無理だ。忘れたふりもできる気がしない
そうとなれば気になること正面切って聞くしかないだろ
「あの時のことってバレンタインのときのことだよね。それに対して時効か、ってどういう意味…?」
「…あの時のこと後悔してて。」
「後悔?」
それは俺からチョコを受け取ったこと後悔してるってことか…
そう思うと喉がつまる様な感覚に襲われる
「そうだよね迷惑だったよねごめん。あの時のこと無かったことにしてくれていいから」
これ以上話したらきっと嗚咽が溢れてしまう。その前にここから去りたい。ただその一心だった
そんな俺の気持ちを遮るように両手で頬を挟まれ顔を見つめられた
「違くて…っ、その、あの時返事もなにもできなかったことに後悔しててチョコ貰ったのは純粋に嬉しかった。本当に…!」
全て言い終わらないうちに小橡の頬が染まっていく
頭が追い付かず呆然とする俺を横目に小橡は続ける
「だからっ…なんていうか、あの日から蓮のことずっと気になってて。あの時そういう意味でチョコくれたのかとか考えると堪らなくて…」
そう言うと一度深呼吸をして真剣な瞳をむけ
「その、恋人とか大それたことからじゃなくてもいいんだ。…俺と恋愛してみないか?」
言い終えた途端に小橡の頬が朱に染まりつられて俺も赤くなる
「恋愛…?」
「そう。少しづつでいいんだお互いのことを知っていって大事にできる関係になりたい。しばらく時間が空きすぎたのに突然恋人になってくれなんてのは気が早いか、と思って…。やっぱり時効か?」
そう聞く小橡くんの不安げな顔が可愛く見えて思わず笑いがこぼれた
驚いたような小橡くんの手を握って小さくよろしくねと呟くと彼は小さく微笑みを返した。