@flashnotED1
「あるじさま。およびですか?」
あたらしいあるじさまは、まだほんまるのことを、よくしりません。きょうは、このぼくがきんじのやくめをにないました。
「今剣。よく来てくれた」
あるじさまは、とても三日月さまににています。おやこなので、あたりまえなのですが。ひとみのみかづき、しゃべりかた、しぐさや、こえ。ふしぎですね。そだてのおやはちがうというのに。ちがうのは、かみのけ。まえのあるじさまゆずりの、すこしいろのぬけた、かみのけ。
「今日は第二、第三部隊を遠征にいかせようと思う。といってもどこに向かわせようか迷っていた」
「ふむふむ、わかりました。ちょっとみせてくださいな」
すきあり、とあるじさまのひざのうえへ。あるじさまは「はっはっは」とわらうと、ぼくのあたまをなでながら、きかいをよこしました。あつかいがにがてだから、とじぶんではめったにさわりません。
おおきな、あたたかい手にあまえつつ、しゅんしゅん、ときかいをそうさします。
「ぬぬ。あるじさま。とぎいしがすくなくなっています」
び、とゆびさすと、こころもとないすうじがそこに。あるじさまは「おお」といいながら、すこしかんがえたあと、「そういえば、この間の『いべんと』というやつでたくさん使ったぞ」とこたえました。
「では、だいにぶたいを――」
それぞれのぶたいちょうをよびだし、えんせいへとおくりだします。あるじさまは手をふりながらみおくると、またへやへもどります。
「きょうは、しゅつじんしないのですか」
「うむ。そうしようと思っている。いべんとで頂いた褒美の整理をしなくてはなぁ」
つまり、だいいちぶたいと、だいよんぶたいで、てつだえと。それならたたかっていたほうがまだよかったきがします。
「しょーがないですねぇ。みんなをよんできます」
「頼んだ」
そして、みんなでいただいたほうびをあけてみると、なんということでしょう。でてくる、でてくる、とぎいしが、たくさんでてくる。
「あるじさま~!」
「はっはっは」
「あるにこしたことはなかろう。そこらで止さぬか今剣よ」
岩融はあるじさまのみかたですか、とにらむとわらいとばされました。ぽくぽくとあるじさまをたたく手を岩融がばんざーいとつかみました。そのままかたぐるまにのせられて、どこへいくのでしょう?
「主、疲れたろう。厨房でなにか飲み物をもらってこよう」
「ああ、行ってくるといい」
まってください、ぼくのいかりはおさまっていませんよ、と岩融のかみをめちゃくちゃになでまわします。されるがまま、なすがままよ、と岩融がおかしそうにわらっているのをみて、なんだか、どうでもよくなりました。
ちゅうぼうについて、燭台切さまにはなすと、わらいながらこうかえされました。
「それは災難だったね。でも、あの三日月さんの子なんだし、頓着しないと近侍は務まらないかもしれないね」
「確かに。今回の件は、褒美を先に確認しなかったことに落ち度があると言える」
「ええー・・・・・・」
そういわれると、そうかもしれません。まあ、ともあれこんかい、いたいめにあったのですから。つぎからきをつけるとしましょう。
「おや?」
「おっと、ポットは熱いから気を付けてね。カップに粉はもう入れてあるし、こぼさないように」
燭台切さまがよういしたものを、岩融とふたり、はこびいれます。あるじさまのへやはだいぶかたづき、このちょうしならゆうげまえには、なんとかおわるでしょう。
「今日のお八つはなんだろうか」
おぼんには、クッキーがきれいにならべられています。あるじさまの手がのびてきたのを、ぺしり。のみものは、いまからつくります。
マグカップに、ポットをかたむけると、でてきたのはしろい、しろい、ミルク。あたたかく、ゆげがのぼり、カップのなかで、くるくる。しろからすこしずつ、あまーく、こいいろに。
「でーきまーした!」
ただまぜただけなのですが、あるじさまはめを、ぱちくり。「あついですよ」とこえをかけて、めのまえにさしだしますが、うけとったあとも、ぼうっとそれをながめていました。
「あるじさま?」
「ん? あ、ああ・・・・・・」
ふぅ、ふぅ、とさまし、ちょっとだけ、なめるようにのみました。
「――甘い」
「それはそうです。ミルクココアですも、の――」
ぼろり。
ぼろぼろ、ぼろ。
「主?」
岩融のあわてたこえ。あるじさまは、すぐにそれを手でせいしました。ひとみから、ぽろんぽろんなみだをこぼし、それでもココアにくちをつけます。
「甘い。これは、甘い」
そうやってのんだそばから、すいてきがおちていくのです。あまいのが、にがてだったのでしょうか。そうきこうとすると、岩融がそっとかたにふれて、ふりかえると、くびをよこにふりました。
「主。飲み終わったら呼んでくれ」
岩融が、ぼくのぶんのカップをもつと、あるじのへやをでていこうとします。ぼくはそれについていくことしかできません。
へやからでていくとき、あるじさまがつぶやいたなまえ。それはたしかにかれが、あるじさまとともにあった、あかしなのです。
「みからでたココア」