@kiritoro_428
女子高生にとって、口紅は化粧入門というかなんというか、とにかく初めて買うコスメティックに向いている。と思う。
ママはまだ早いと言いつつ、目立つ場所では軽く化粧をして行きなさいと言ったり今イチ定まらないので、あまり自主的にしようとは思わない。化粧道具もママが買ってきた最低限のものしか持っていないし。
しかし今の私はといえば、少し畏まって背伸びをするようなデパート地下の化粧品売場にいる。正直に言って女子高生のお小遣いには渋い買い物になることは分かり切っているのに、果敢にも制服で挑んでいるわけだ。先程から薄く汗をかいているが気付かないふりをしている。
「ねえ紅葉、聞いてる?」
「は、はいっ?」
こちらを覗き込んでくる親友と目が合ったことで、明後日を見ていた私の意識は引き戻された。親友――舞惟は、両手に口紅を一本ずつ持って、怪訝そうな顔をしている。私をデパ地下の緊張エリアに連れてきた張本人だ。私が正直に「き、聞いてませんでした」と答えると、呆れたような溜息を小さく吐かれた。だって緊張するんだもの、しょうがないじゃない。
「こっちとこっちの色、どっちが好きかって聞いたの」
そういって眼前に差し出してきたのは、どちらもピンクを基調とした控えめな色味だ。向かって右の方が少し鮮やかで、粒の小さなラメも入っているようだった。
正直、舞惟の印象とは違うので意外だった。舞惟はいつも凛とした表情で、性格もそれに負けず劣らず。小柄なのに堂々としているから、むしろ大人びて見えるくらいだ。だからきっと、鮮やかな赤色なんて似合うだろうと思っていたのに、手に持っているのは可愛らしいピンク。しかし、中学生にも見える童顔の持ち主でもあるので、甘い色味もとてもよく似合うと思う。
「うーん……こっち、かな?」
差し出されていた2本のうち、より鮮やかな方を指差した。舞惟の華やかな顔立ちを引き立てるのにぴったりだと思ったからだ。舞惟は満足そうに頷いて、私が選んだ方をいそいそとレジへと持っていった。
そんなに口紅が欲しかったのかな、私も買えば良かったかしら、などと考えながら、レジから少し離れた場所で待っている。たしか他にお客さんはいなかったはずなのに、舞惟の会計はやけに遅い。何かあったのか、と心配し始めたちょうどその頃、ようやく舞惟が紙袋を持って小走りに帰ってきた。紙袋は特別可愛く、リボンなんか掛けられていて、まるでプレゼントの包みのようだった。さすが高いお店は違うんだなあ、と吞気に考えて、「おまたせ」と言った舞惟に「全然」と返す。
「はい」
舞惟が綺麗な包みを私へ差し出してきた。反射的に手を出して受け取ったが、これはどういうアレだろう。荷物持ちかな?でも舞惟はあんまりそういうことをしないはずだけど。きょとんとしながら首をかしげて、舞惟に目で訴えてみる。
「プレゼントよ」
なるほど合点がいった。これは高い店だから包みが可愛らしいのでなく、ギフト用だから綺麗なんだ。なるほどーなるほどなるほど納得。
「……って、え?なんで!?」
突然の出来事に面食らって、少し大きな声を出してしまったので、はっと口を押さえて辺りを見回す。大して目立ってはいなかったようだ。
「なんでと言われても……なんとなく?」
そして大きな声を出させた犯人はというと、やはり怪訝な顔をして小首を傾げている。ああもう、そんなに可愛い顔をされてもどうすれば。
ここはデパ地下で、緊張エリアで、口紅1本だとしても、高校生が友達になんとなくで買えるものじゃないでしょ。どういうことなのよ。
「紅葉の髪の色に合わせてみたからきっと似合うと思うわ。そうだ、そこの化粧室で付けてみてよ」
私の困惑を知ってか知らずか、舞惟は若干はしゃいだような様子で笑顔を向けてくる。なんでよ。これ4千円でしょ。誕生日でもないのにこんなプレゼント貰えないわよ。なんなの。第一、そもそも、大体……
「ずるいわよ!私も舞惟の口紅選びたい!」
今度はそこら一帯に響いたため、私は真っ赤な顔で舞惟に似合う口紅を探す羽目になった。