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鬼のおじさんと兎のようじょ

全体公開 1221文字
2014-04-03 12:16:47
Posted by @midori_tya

 
 それはなんの前触れもなく、俺の足にへばりついてきた。
 ゴミでも魔物のたぐいでもないのは見ればわかるため、乱暴に振り落とすわけにもいかない。
 ひょこりと兎の耳を揺らす獣人の幼女を、俺は困惑しながら見下ろすしかなかった。

「お金ちょーだい!」

 この台詞も、もう三度目だ。
 最初は小遣いでも欲しいのかと思ったが、それにしては必死すぎる。
 これも何かの縁だろうか、と俺はため息をついて、あきらめることにした。
 関わらないでいることを、あきらめたのだ。

……なぜ金が欲しいんだ」
「お家が、たいへんなの! お金ないとこまっちゃうの!」
「どう困るんだ」
「なくなっちゃう!」

 俺の問いに、幼女ははきはきと答えてくれる。
 多少、わかりにくくはあるものの、この年頃ならそんなものだろう。
 とにかく、金がないと家がなくなる、という単純な等号までは理解できた。
 それさえわかれば問題はない。

「お前の家まで案内してくれ」
「お金くれる?」
……多少の融通は利く」

 無邪気な幼女の問いかけに、俺は腹を決めた。
 幸い俺は少し前まで軍に属しており、最終的に中将にまで上り詰めた。
 退職金もたんまりともらい、一生かけても使いきれないほどに金はあり余っている。
 家の一つや二つ、支援してやることくらい朝飯前だ。
 偶然の出会いは、その金で人助けをしろと神が言っているのかもしれない。
 金のかかる趣味もなく、使い道がないのだから、それに異論はない。

「ゆーずー?」

 俺の言葉が難しかったのだろう。幼女は不思議そうに首をかしげた。
 こんなに幼い子どもが、家をなくそうとしている。
 助けてやりたい、となんの含意もなく思った。
 素直に人の心配をしたことなど、いつぶりだろうか。
 そんな気持ちにさせてもらっただけでも、金を出す価値はあるというものだ。

「少しなら、あげてもいいということだ」
「わぁい!」

 喜ぶ幼女を抱き上げ、道案内を頼んだ。
 高さにはしゃぎながらも幼女はきちんと来た道を覚えていた。
 そうして、連れて行かれた先が孤児院で。
 俺は兎の獣人の幼女が孤児だったという事実を知る。
 経営難でつぶれかけた孤児院に金を渡し、またこんなことにならないようにと相談先を紹介する。
 何から何までありがとうございます、と涙をこぼす院長に、俺はなんの気まぐれか、こう告げていた。

「代わりにこいつはもらっていく」

 幼女は俺の腕の中できょとんとした顔をした。
 俺のものになるか、と聞いてみると、花が開いたかのような笑みを見せた。



 これが、鬼族の俺と、兎の娘が一緒に暮らすことになった経緯のすべてだ。




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