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未来に思いを馳せて

全体公開 3052文字
2017-04-10 04:09:11

たまには光属性のシリアスをと思った

昼頃になると、神殿の一角から賑やかな声が聞こえてくる。

「ブランコまで競争だ!」
「ずるーい!待ってよー!」
「ちょうちょだ、つかまえろー!」
「あ、勇者さんだ!」

広い庭を駆け回る子供達が、従僕の勇者の姿を見つけて走り寄る。孤児院の機能を兼ねる神殿においては良く見る光景だが、この神殿において特筆すべき事があるとすれば、子供達の多くは人間ではないという事だろう。

「皆さん、お昼ですよーぅぐっ?!」
「勇者さん捕まえたー!」
「捕まえた!」
あの、力いっぱい頭突きするのはやめて下さいと何度も

渾身の頭突きを腹に食らい、腹を押さえながら青ざめる勇者からバスケットを奪った子供達はその中身に歓喜の声を上げる。たまごとハムのサンドイッチを我先にと取り合う子供達は皆耳が尖っており、頭に角が生えていた。

「そんなに急がなくても、ちゃんと全員分ありますから順番ですよ、並んでください、ほらほら」

子供達よりは高い身長を利用してバスケットを取り上げた勇者は、そう言って子供達を並ばせる。先にサンドイッチを手に入れた子供達も先に食べ始める事は無く、芝生やベンチなど思い思いの場所に座って他の子供達を待っていた。

「みんな貰いましたか?お茶は自分で取りに来てくださいね。はい、いただきます」
「「いただきまーす!!」」

勇者の挨拶をきっかけに、子供達は一斉にサンドイッチにかぶり付いた。人間の子供も、鬼の子供も、同じ表情をして食事をしている。困っている子供がいないのを確認してから、勇者も自分のサンドイッチを食べ始めた。

食べ終わった子供達は、ごちそうさまと叫ぶや否や再び庭へと駆け出していった。しかし特にお喋りな数人の子供達は、勇者を囲んだままベンチに座って雑談を始める。

「わたしねー、大きくなったらパティシエさんになりたい!神父さんよりもおっきいケーキ作ってみんなにあげるの!」
「おれは大きくなったら魔王さまみたいに強くなるんだー!そんで、副魔王さまになる!」
「あたしはフウマくんのおよめさんになるの!それでフウマくんを守ってあげるんだー!」
「え、ええっ?ぼくが守ってもらうの?」
「フウマはニンゲンだからなー!凜花の方がつよいんじゃねーか?」
「そ、そんなことないよぉ

そんな話をする子供達を、表情を変えないまでも勇者は和ましげに見ている。するとやり玉に上がっていた男の子が耐えかねたのか、勇者の方に話題を振った。

「ゆ、勇者さんは将来なにになりたいの?」
僕、ですか?」

やはり勇者の話ともなると興味があるのか、子供達は自然に黙り込み、勇者に期待の眼差しを向ける。しかし当の勇者は困惑した様子で答えを返した。

「将来、ですか僕はもう勇者ですから
「じゃあ、勇者が終わった後は?!」
「えぇ?」
「ねー、なにかあるでしょ?」

子供達にせっつかれ、何か答えなければなるまいと勇者は思考を巡らせる。しばらく唸った後、彼が出した答えは

「神父さんですかねえ」

だった。
口に出してみると、それは意外にもしっくりと来た。将来の夢、すなわち自分の憧れであり、将来そうなりたいと望む姿。そう考えれば、この勇者が恩人である神父のようになりたいと願うのは至極当然の事であった。

「勇者さん、大きくなったら神父さんになるのー?」
「いいじゃん!きっとなれるよ!」
「そ、そうですかね?」

勇者は照れたように頬を掻いた。そしてその姿を改めて想像してみる。
自分が大きくなり、神父の服を着て神殿を歩いている。神官やシスター達と共に祈りを捧げ、子供達の相手をしながら、穏やかに日々を過ごしていく。思ってみれば、そんな生活も悪くないかもしれないと思える。

しかしそこに今の神父はいない。

その事に思い当たってしまった彼は、慌ててその考えを振り払った。神父さんがいなくなる未来なんて考えたくもない。少なくとも今はまだ、その準備ができていないのだ。

***

「あの勇者さん、あんな柔らかい感じの人でしたっけ?」

狩人レルフは、神父にそう問いかけた。
彼は先日の猪討伐以来は特に森に変化もないと、報告がてら助けてくれた事へのお礼を持ってきたのだった。その過程でたまたま手が空いていた神父に案内してもらっていたのだが、見つけた勇者は以前会った時とは雰囲気が異なっていた。

「ええ、そうですね確か猪の討伐から3週間くらいでしたか。あれから彼が命を落とした事はありませんから、それでかもしれませんね」
「死ななかったから?」

勇者は子供達に手を引かれ、鬼ごっこをしてほしいとせがまれている。渋々ながらそれに応える彼からは、以前会った時の、自分を道具とでも思っているような冷たさがあまり感じられなかった。

「勇者は死んでも蘇るというのはご存知だと思いますが私は、彼は完全な状態で蘇っているのでは無いのではないかと思っているのです」
「蘇り方が不完全だと?でも、特に変には見えませんけど」

レルフは勇者を見る。確かに雰囲気は前と異なる、がそれは逆に雰囲気以外は何も変わらないという事だ。特に体がおかしいわけでも、言動が変わった訳でもない。

「なんと言うのですかね、私も上手く表現できないのですが蘇ったばかりの彼からは、経験や感情から生まれる何か愛着、とも違いますが何か柔らかい物が失われているように思えてならないのです」
「柔らかい物、ですか

神父は慈しみと哀れみの籠った眼差しで勇者を見る。彼は最近神父になったばかりのはずだが、その視線はまるで長い間彼を見て来たようだ。

「蘇ったばかりの彼は、事務的に子供達の相手をします。ご飯を食べさせたり困った事の世話をしたりはしますが、遊びに付き合う事まではありません。けれど慣れていくと、あんな風に満更でもない様な様子で一緒に遊んでいたりするのです」
「でも死ぬと、その慣れ?みたいな物が失われてしまうってことですか」
「ええ、私はそう考えています。ですから、彼にはもっと自分を大事にしてほしいのですが

その時、子供の一人がレルフを見つけて叫んだ。

「狩人さんだ!」
「猪を倒した狩人さんだ!」
「なんかもってるぞ!」
「つかまえろー!」
「ちょっ、待てお前ら、ほんと冗談になんねえからあいてててててて?!」

レルフはあっという間に子供達に群がられ、そのまま庭の方へと連行されて行った。代わりに解放された勇者が神父の元へやって来る。

「何の話をされてたんですか?」
「いや、ちょっとした世間話だよ」

勇者に誤魔化しは通じない。当然神父はその事を知っていたが、同時に勇者が今は自分の心を覗くようなことはしないだろうという事も分かっていた。
ベンチで珍しく表情を変えていた勇者。蘇ったばかりの勇者なら、何かに悩む事すらないだろう。久しぶりに垣間見た勇者の人間的な表情に、神父は安堵していたのだった。

「おーい、見てねえで助けてくれ!これ無くなっちまうぞ?!」

勇者に向かってレルフが必死に助けを求める。持っていた紙袋を子供達から守らんと頭上高く上げているのだが、勇者の時と比べて容赦のない子供達は彼の体をよじ登っては中の菓子を奪っていく。
しばらくからかうように眺めていた勇者だったが、やがて庭へ駆けだしていく。その時微かに笑顔を浮かべたのを、神父は嬉しそうに見ていた。


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