花夢のようです(前)の続き http://privatter.net/p/293942
@huyutoya
だん、と少女が勢いよく足を踏み鳴らす。濁った海から湧き出る花弁が、動きを緩めた。
同じように少年も足を踏み鳴らすと、澱んだ波が少し引いた。
( ^ω^)「だいじょうぶだお」
緩んだ顔の少年が、にんまりと笑った。
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、しゃんと立ちなさい」
凛とした顔立ちの少女が、服についた花弁を払う。
('A`)「……お前ら、は」
( ^ω^)「僕たちの声、聞こえてるかお?」
('A`)「あ、……ああ」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚ー゚)ξ「やっと、届いた」
('A`)「ずっと……オレに何か、言おうとしてたよな」
( ^ω^)「だお!」
ξ゚⊿゚)ξ「全く、気づくのが遅いのよ」
困惑したまま、それでも手を離さずにいると、やはり心が落ち着いていく。
川 ゚ -゚)「そろそろいいか?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ」
('A`)「って待て、何だ何がだ。ていうかてめえ、よくも」
川 ゚ -゚)「ドクオ。海を見ろ」
('A`)「……え」
川 ゚ -゚)「早く。お前の夢の源はそこだ」
夢の源。さきほど、突き飛ばされる前も同じ言葉を聞いた。
あの海に浸かり、花弁がまとわりつく感覚を思い出す。ぞくりと芯から震えが走る。
だが。
ξ゚⊿゚)ξつ('A`)⊂(^ω^ )
少年と少女が、ぎゅっとドクオの手を握りしめる。
交互に見ると、二人は黙って頷いた。
――腹を括るしかない。
('A`)「……」
昏い、淀んだ波。
曇って先の見えない空。
海底からごぽりと湧き上がる紫陽花の花弁。赤。鮮やか。青。くすんだ。
呑み込まれそうな、空洞を湛えた海。
川 ゚ -゚)「何がある?」
海。花弁。
そんな答えを求められているわけではないことは、分かった。
ゆらり、ごぽり、
奥深くから這い上がってくるものは。
('A`)「……不安」
ただその一言でしか、形容できないもの。
川 ゚ -゚)「そう。ではその正体は?」
('A`)「正体?」
川 ゚ -゚)「夢の形をとって、お前を怖がらせるもの。
いつから夢を見始めた、とお前は言った?」
('A`)「……二週間くらい前」
口が勝手に滑っていく。
するりと言葉が抜け出していくようだった。
('A`)「夜、近道に公園を通ったら、街灯に紫陽花が照らされてて」
('A`)「沈んだ色だと思ったけど、綺麗だった」
('A`)「――赤いもんが、そこに散ったんだ」
何が起きたのか分からなかった。
咄嗟に茂みにそのまま身を隠した。
重い音がして、葉の合間から横になった足が見えた。
赤い、紅い血が、地面を濡らしていく。
ずる、ずる、何かを啜る音がした。
('A`)「逃げなきゃ、オレも。だから」
川 ゚ -゚)「だから?」
('A`)「逃げた。でも枝踏んじまって」
「見たな」
「――決して、逃がしはしないぞ」
背後からの声。
遠くの筈なのに、反響して聞こえるようだった。
そして次の日、公園を覗いてみたら。
( A )「……あじさいが、赤く、なってた……」
まるで血を吸ったみたいに。
川 ゚ -゚)「――十分だ」
強く両手を握られて、自分が震えていたことに、ようやくドクオは気付いた。
少年と少女から、伝わってくる。
「だいじょうぶだ」、と。
ドクオは二人の手を握り返した。強く。
('A`)「そうだ、あの日から夢を見だしたんだ。何で、今までオレ……」
川 ゚ -゚)「お前を守る為」
('A`)「え?」
川 ゚ -゚)「そうだろう?」
ξ゚⊿゚)ξ”
( ^ω^)”
クーの問いに、二人は頷いた。
( ^ω^)「だって、怖がったら呑まれちゃうお」
ξ゚⊿゚)ξ「でも抑えてたら、今度は全部抑えなくちゃいけなくなっちゃって」
( ^ω^)「それで忘れちゃったんだと思うお」
(*^ω^)「あ、でもでも、ドクオが久しぶりに僕たちを見れたのは、嬉しかったお!」
ξ゚⊿゚)ξ「でも全然、聞こえてなくて、……それはちょっと、ちょっとだけよ、悲しかったわ」
('A`)「お前らが、オレを助けてくれてた、のか」
夢の中では、二人の足元から花弁が湧いていた。
だがさきほど、二人が足を踏み鳴らすと、波も花弁も動きを緩めた。
あの声も顔も分からない状態で、二人は、あのうねりを押し留めていたのだ。
でもどうして。
('A`)「……久しぶり?」
( ^ω^)「だお!」
('A`)「前にも、会ってた?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。あんたは二週間前の出来事よりずっと前から、忘れちゃってたけど」
('A`)「……」
記憶の隅にひっかかる。
昔も、こうして手を繋いでいたような。この奇妙に温度のない、柔らかな感覚を、知っている。
('A`)、「……」
川 ゚ -゚)「来るぞ」
記憶を手繰り、口を開こうとした時、クーが低い声を出した。
視線を追って海を見る。
海底からぽつぽつと花弁が浮き上がり――泡立って波立った。
【+ 】ゞ゚)
黒い棺を担いだ、青白い顔の男。
――あの日、公園で見た。
【+ 】ゞ゚)「……ようやく入れた」
反響する声は、低く、喜びに満ちていた。
身体の奥に響いてくる。
青い花弁と赤い花弁が、目の前をよぎる。
(;'A`)「あ、」
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオには指一本触れさせないわ」
( #^ω^)「ぜったい、守るんだお!」
反射的に足が後ずさる。それと同時に、ドクオの前に少年と少女が進み出た。
二つの背中。
ドクオの半分ほどしかない、小さな背丈。
一瞬、その背中が大きく見えた。――既視感を伴って。
【+ 】ゞ゚)「私が来ることを遅めるしか出来ぬ、矮小な者どもに何が出来る」
( ^ω^)「できなくたって守るんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「ぜったい、よ」
『ぜったい、まもるお』
『やくそくするわ。ぜったいよ』
『「だって」』
ξ゚⊿゚)ξ「ともだちだから!!」(^ω^ )
小さな手。大きな手。
笑い声。
いつも傍にいた。
('A`)「――ブーン! ――ツン!」
その単語は、雷光のような閃きをもたらした。
目の前に迫っていた長い爪を、二人は押し留める。
舌打ちが聞こえる。
【+ 】ゞ゚)「だが所詮、この程度では」
川 ゚ -゚)「やあ、吸血鬼。ところで誰かお忘れじゃないか?」
剣呑な空気の中でのそれは、随分と間延びした声にも思えた。
【+ 】ゞ゚)「……何? 貴様、何故他人の夢に」
川 ゚ -゚)「さあて、どうしてだろうな?」
【+ 】ゞ゚)「――魔女か!」
初めて男――吸血鬼の声に焦りが混じる。
にたりと、吸血鬼よりも凶悪に、クーは笑った。
川 ゚ー゚)「大人しく退くなら、見逃してやらんこともない」
【+ 】ゞ゚)「……」
――花弁が吸血鬼の周囲に集う。青と赤の紫陽花が幾つも幾つも。
うねりをあげる波と共に、押し寄せる。
クーが本を開く。
少年と少女が同時に足を鳴らした。
ばちばちと激しい音を立てて、ドクオに襲いかかる花弁が逸れていく。
同時にそれは、二人の頬や手を切り裂いていった。
(;'A`)「っや、やめろ!」
( ^ω^)「だいじょうぶだお、ドクオ」
ξ゚⊿゚)ξ「こんなの全然平気なんだから」
(;'A`)「馬鹿言うなよ、こんなのオレは――!」
川 ゚ -゚)「大丈夫さ」
('A`)「! お前、ちくしょう何なんだよ、無責任にそんなこと――」
川 ゚ -゚)「大丈夫さ」
クーは繰り返す。
開いた本から、ばらばらと白いページが舞い踊った。
川 ゚ -゚)「お前がその二人の名を思い出したのと同じように」
ξ゚⊿゚)ξ ( ^ω^)
川 ゚ -゚)「お前がまた、信じるのならば」
('A`)「――――」
紫陽花が渦を巻く。
少年――ブーンを見る。ブーンは、満開の笑顔を見せた。
少女――ツンを見る。ツンは、大きく頷いて見せた。
二人の間に足を踏み出す。
手を、握った。
(*^ω^)
ξ*゚ー゚)ξ
赤と青の花弁、真っ新なページ、握った手から溢れてくる、ひかり。
【+ 】ゞ )「―――ー!!」
花弁の向こうの吸血鬼が叫ぶ。
視界が真っ白に塗り潰されていく。
だがもう、怖くはなかった。繋いだ手が、そこにあるから。
「――さあ、お前の悪夢を解き、消そう」
確かに聞こえる声が、そこにあるから。
目を開くと、穏やかな海が広がっていた。
透明ではないものの、あのごちゃりと濁った色ではない。
空は明るく、高かった。
川 ゚ -゚)「何だ、ここも暑くなってしまうな」
クーが肩を竦める。
我に返った。
('A`)「な、なあ、あいつ、消え――」
両脇の二人に問いかけようとして、言葉が詰まった。
半分ほどの背丈しかなかった二人が、同じくらいの背になっていた。
ブーンに至ってはドクオよりも背が高い。
('A`)「」
( ^ω^)「お?」
(;'A`)「んなあああああああ!?」
思わず手を振りほどいて後ずさった。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょ、うるさいわよドクオ」
(;'A`)「だっ、なん、おま、うおあお」
ξ゚⊿゚)ξ「人語喋ってちょうだい」
(;'A`)「何でお前らでっかくなってんだよおおおお!?」
( ^ω^)「あ、ほんとだお。ドクオよりおっきくなってるおー」
のほほんとお気楽に笑い、ブーンは身体を曲げ伸ばしし始めた。
一気にドクオの身体から力が抜けた。
と同時、目の前が霞がかっていく。
川 ゚ -゚)「そろそろ時間切れか」
('A`)「え」
川 ゚ -゚)「夢は覚めるものだろう?」
('A`)「でも、まだ」
二人が何なのか。
記憶の底にある。もう少しで分かる。
('A`)「オレ、オレは」
視界はもうかなり揺らめいて、白くけぶっている。
手探りでブーンとツンに手を伸ばす。
( ω )「ドクオ」
ξ ⊿ )ξ「だいじょうぶよ」
手が届いた。
優しく握り返してくれる手。
「だって、思い出してくれたから」
「だから、また」
ああ、待って、少しだけ。
これだけは言わなきゃいけないんだ。
('A`)「――ありがとう!!」
もう何も見えない。
けれど、きっと、二人は笑っていた。
――次に目を開けると、そこは既に時計塔の二階だった。
('A`)「……ブーン。ツン」
呟くと、その名前はすとんと胸に落ちる。
思い出した。
川 ゚ -゚)「ふう。喉が渇いたな」
('A`)「……なあ」
川 ゚ -゚)「何だ」
('A`)「知ってたのか? あの二人のこと」
川 ゚ -゚)「知らんよ」
('A`)「やっぱりとか何とか言ってたろ」
川 ゚ -゚)「お前の話を聞いて、予想はついていた」
('A`)「……」
クーは台所へ向かう。
魔法瓶からケトルに湯を移し、火をつけた。
('A`)「友達だった」
川 ゚ -゚)「ああ」
('A`)「初めての。オレにしか見えない」
川 ゚ -゚)「イマジナリーフレンド」
('A`)「何ていうのかは知らないけど、あいつらは居た。幻なんかじゃない」
川 ゚ -゚)「空想の果てにしては、質量があったからな。実際そうなんだろう」
('A`)「オレを助けてくれたんだ……それから見えなくなった。忘れた」
いつも一緒に居た。
寂しくなかった。
昔もそうだったのだ。怖がるドクオの手を握り、だいじょうぶだと約束した。
ぜったいにまもる、と。
('A`)「ずっと、忘れてたのに」
ブーンもツンも、また助けてくれた。
川 ゚ -゚)「義理堅いんだろう、あいつらは。それか」
湯がドリップに注がれる。
コーヒーの香りが立つ。
川 ゚ -゚)「お前のことが、よっぽど好きなんだろうさ」
――ああ。
そうだったら、それはどんなに得難く嬉しいことで。
('A`)「……もっと……大事に、したかった、のに」
後悔してもしきれない、大切な出来事だったか。
川 ゚ -゚)「まあ、飲め。私も疲れた」
('A`)「……おう」
川 ゚ -゚)「今日は特別なんだぞ。わざわざ夢の中に繋げてやった」
('A`)「あれ何だ、って聞くだけ無駄だな」
川 ゚ -゚)「そうだな。ああ本当疲れた」
('A`)「じゃ、何でその疲れることやったんだよ。特別ってことは、別の方法もあったんだろ?」
川 ゚ -゚)「涼しそうだったからな」
('A`)「は?」
川 ゚ -゚)「予想通り、海辺で曇ってて涼しかった。一時のことだったが」
この女。
あまりのくだらなさに脱力感を覚える。
じとりと睨んでみるものの、当然の如く堪えた様子はない。あるわけがない。
クーがコーヒーを啜る。ため息をついて、ドクオも啜った。
('A`)「……なあ」
川 ゚ -゚)「何だ。占い料か? それなら――」
('A`)「やっぱマズいって、このコーヒー」
川 ゚ -゚)「なに?」
もう一口啜って、クーは首を傾げた。
川 ゚ -゚)「……そうか。これはマズいのか」
('A`)「マズいな」
あまり美味くない、が正確だが、あえて断言してやる。
そうか、ともう一度クーは呟いた。
川 ゚ -゚)「お前は美味く淹れられるのか?」
('A`)「お前よりはな」
川 ゚ -゚)「ならこれから来る時は、お前が淹れろ。そうすれば解決だ」
('A`)「何だそりゃ。そうそう占い頼むことなんかねえぞ」
川 ゚ -゚)「だから、修行だ修行」
('A`)「はぁ?」
川 ゚ -゚)「また会うんだろう? なら見えるようにならないと」
一瞬、聞き違いかと思った。
('A`)「……え?」
川 ゚ -゚)「別料金を取るつもりだったが、お前がこれより美味いコーヒーを淹れられるならば、少しは考えよう」
('A`)「会える? ブーンとツンに?」
川 ゚ -゚)「ああ」
('A`)「本当に? 本当か?」
川 ゚ -゚)「居るんだから会えるだろう。お前さえ、見えればな」
身体が震える。
クーはまた一口コーヒーを啜り、やはり首を傾げた。
川 ゚ -゚)「……ううむ。これ以上の味を知らんからな。お前の出来次第だな」
( A )「……ああ」
川 ゚ -゚)「期待してるぞ、ドクオ」
( A )「……クーよりマズくなんて、淹れらんねーよ」
震える声を、クーは聞き流す。
ぽたりと、コーヒーに波紋が一つ出来た。
(了)
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改訂版をまとめて頂きました
短編とかの保管庫さま