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相合傘〜四〜

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2018-01-16 22:55:45

私だって忘れたくて忘れようとした訳じゃない。



油断したら溢れ出しそうな涙を押し殺して、真っ暗な部屋から電話をかけたあの日。



貴方はどんな言葉をくれたっけ?



出会いは小学3年生。

小さい頃からお父さんの転勤が多かったから、もう引っ越しはすでに3回目で慣れっこだ。

どうせここにも長くはいられないんだから、大切な人なんて作らないでおこう。


そう思っていたのに。


毎回、お決まりの挨拶回りはお母さんの後ろにちょこちょこ付いていき愛想よく頭を下げるだけ。

でも「ここのお家にはアンタと同い年の子がいる」と言われた時、少しだけドキドキしたのを覚えてる。


それもつかの間の話。


そこの家の子はお母さんに付いては出てこなくて「すばる!!!」と大きな声で呼ばれ、

ようやく眠たそうに出てきた男の子は、背も同じくらいで顔つきも幼いのに何処か大人っぽく見えて全く仲良くなれる気がしなかった。


そんな彼のくりっとした大きな目とパチンと目が合ったとき、何故か体が固まったように動かなくて彼が目を逸らしたのを見て、私も慌てて目を逸らした。



もしこの時目が合ったのが貴方じゃなかったら、私の人生はすっかり変わっていたのかもしれないね。



クラスも同じ、席も隣でお互い激しい人見知りというのは最悪の状況でしかない。


頑張って話しかけようとしてもツンと向こうに顔を背けられても嫌いになれなかったのは、

私が消しゴムを忘れた時に、いつも大事そうに使っていた消しゴムを半分に切って渡してくれたり、

宿題を写さしてあげた時にこっそりくれた飴玉のおかげかもしれない。


すばるくんが不機嫌そうに鬼ごっこに誘ってくれたのは嬉しかったけれど、あっちの学校にいた時も友達を作らないと決めていた私は「鬼ごっこ」も「かくれんぼ」もした事がなくて、「ケイドロ」が何の略かも分からなかった。


だから、秒数を数えられても動けなかった私を 「なに、ぼーっとしてんねん」って後ろから私の手をかっさらって走ってくれたすばるくんは間違いなく王子様だった。


そのあと、草むらに忍び込んだ時、虫が飛び出してきて鬼が近くにいるのに「うわぁ!」と声を出しそうになった私の口を間一髪塞いで、「俺ひとりで逃げるぞ」と怒ったあとに、ふはっと思わず吹き出した笑顔を私は忘れたことがない。



彼が私に初めて見せてくれた笑顔だったから。



私に、鬼ごっこやかくれんぼだけじゃなくて、バナナ鬼とか氷鬼とかも教えてくれたのはすばるくんだ。


小さい頃に必要な特殊な教養は、全てすばるくんから学んだ。



ずっと一緒にいたせいか、黒板に何度も相合傘を書かれたけれど、毎回すばるくんが「こんなしょーもない仲ちゃうねん」ってあっかんべーしながら消してくれるから何も怖くなかった。


まあ、私が近くにいないことが条件だったけど。




忘れる訳がない雨の日のこと。


たまたま喧嘩してたお母さんからの忠告を耳に入れようとせず、傘を持たずにすばるくんも待たずに家を飛び出た雨の日だ。


雨降らないじゃん、と眺めていた授業中の空は突然表情を変え、運悪く帰る頃にどしゃ降りになった。

覚悟を決めて、一番に学校を出て雨の中を必死に走りながら、私は何をしているんだろうと考えていた。


どの友達に迷惑をかけていいか分からず、すばるくんにさえも「傘入れて」と言えなくて逃げ出した自分に嫌気がさした。


そんな事を考えていたら、突然後ろから「名前!!」と私の名前を大きな声で誰かに呼ばれたんだ。


驚いて振り向くと、傘はささずに何故か右手に持って、びしょ濡れなすばるくんが立っていた。


小学生の頃から十分に整っていた綺麗な顔からポタポタと途切れることなく垂れている雫は、何故か見てはいけないものを見てしまった気がして思わず目をそらす。


「名前…」と弱々しく呟き、そろそろと歩いてくるすばるくんに泣き出しそうな感情が抑えられなくなりそうになり、これ以上近付かないで、私に構わないでって無意識に思っていた。


…それなのに「風邪引くって」と私に傘を立てかけてくれたから、もう限界だったんだ。


どうせ近いうちにまた離れ離れになるから、誰かの優しさに触れたくなくて、それでも誰かに優しくされたかった私は涙が止まらなくなった。


大切な人を作ってしまった、って後悔も少なからずあったと思う。


たまたま転校先で出会った彼がとてつもなく優しかったことが、私の人生の歯車を良くも悪くも狂わせたんだ。


泣き顔を人に見られたくない私は、今日が雨の日で良かったなんて思っていたのに、すばるくんが私の顔を覗き込むから慌てて顔を背けた。


気付いていたと思うけど、すばるくんは「見なかったフリ」が出来る優しさを持っていたから最後まで何も聞いてこなかった。




それがどうしようも嬉しくてずるくて、余りにも切なすぎたんだ。

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