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長谷酸の小話

全体公開 615文字
2018-01-25 00:05:58

人にもらったお題 「春なんてこなければよかったのに」
死ネタっぽい


 冬が嫌いだ。

 正確に言えば雪だろうか。まだ怪我をすれば血が流れていた頃なんかは、よく寒い寒いとのたまっていて、てっきり寒いのが嫌いなんだと思っていたが、こうして奇妙な肉体になってからようやくそうではないとわかった。自分の気持ちの出処なんて意外に知らないということも。
 雪だるまを作った経験くらいは誰にだってあるだろう。本腰を入れて作られたデカい雪だるまも、歩きながら適当に作られた雪だるまも、見知らぬ他人が作って放置した野良雪だるまも、見かけてしまえばなんとなく愛着が沸いてしまう。二つ並んだ小さな雪だるまの兄弟に思わず笑みをこぼしたことや、不器用に丸められた完成度の低い雪うさぎにも物語がある。
 そして当然ながら、愛しかった雪細工は大抵数日経てば溶けてなくなってしまう。誰かが作った小さな兄弟は、その場に目玉だけを残して綺麗に姿を消してしまった。いっそなんの痕跡も残してくれなければ、気のせいだったと思うこともできただろうに。
 雪は嫌いだ。寂しくなるから。

 563回目の春が来た。雪は溶け、虫たちは眠りから覚め、新しい芽吹きが始まっている。今年の春に、冬の名を持つ男はいない。春になったからいなくなってしまったんだろうなあ、と残された奴の飼い猫を撫でながら思ったりした。

(春なんてこなければよかったのに)

 まったく人の気持ちは摩訶不思議で難しい。結局俺は、冬じゃなくて雪でもなくて、春が嫌いだったんだ。


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