@roco_buturi
「くそっ!なぜここが知られたんだ……!」
暗い廊下の中を男が走る。
その顔からは大量の汗、そして熱い呼吸が漏れ出ている。
この男は表向きは薬品メーカーを経営する実業家。
しかし、その裏では政府に隠れて違法な魔法薬を製造、密売していたのである。
彼が今いる施設はその製造工場。地下に作られ、巧妙に隠された入口からしか入れない構造だ。
しかし、視察に訪れたこの日……突如施設の隠し入口からランデル機構の舞台が侵入。
さらには非常用の警備装置もほぼすべてが機能していなかったのだ。
直ちに施設内の職員は取り押さえられ、現場はパニック。
彼自身はかろうじて秘密通路へと逃げのび、非常脱出通路を進んでいた。
「すみません、私にもどうしてこのような事態になったのか……!」
そういったのは、彼の背後について走る秘書の女性。
鮮やかな赤髪、長身、そして眼鏡がよく似合っている。
3年前から行動を共にしており、男の行いについても承知の上従っていたのだ。
「誰かがヘマを働いたか、恐れをなして密告をしたか!……あの無能どもめ!」
「ボス、落ち着いてください。続きはこの施設を脱出してからにしましょう」
呼吸があがらずに冷静に助言を与える秘書。
男も、その胆力と頭脳を頼りに、パートナーとして選んでいたのだ。
「ああ、君の言う通りだ、こうなっては一旦表舞台から引っ込んで再起の時を測るしかない」
やがて、非常用エレベーターまでたどり着く。
数人が乗れる球体型のゴンドラで、誰にも知らせていない安全な場所へとつながっている。
誰かがこの通路を発見し、二人を追いかけている様子もない。間に合ったようだ。
「よし……!」
「ボス、私がセットアップします、早く中へ!」
秘書がゴンドラ横のコンソールを触りだす。
「もちろんだ、準備が出来次第君も急いで入りたまえ」
ゴンドラへと飛び乗る男。
秘書はその様子を確認して……ボタンを押した。
「え?」
途端、ゴンドラの扉が閉まる。
まだ自分しか乗っていないはずなのに。
直ぐにゴンドラの操作パネルを触り、秘書が操作するコンソールに接続し、秘書の顔を画面に写す。
「おい、どういうつもりだ!ここに残るつもりか!?」
声をかけるが、秘書は無表情を崩さない。
「申し訳ありません、私は遠慮させていただきます」
「何を言っている!このままでは君もただでは……」
「いえ、こっちのほうが安全ですので……何せ」
ちらり、と後ろを向いて
「エレベーターの先で魔法使いの皆さまが待ち構えておりますから」
「……な、何?」
「それと、向こうに着くまではそのドアは開かないようにしておきました、後はごゆっくり」
「…………ま、まさか!お前がここのことをバラしたのか!?」
激昂し、扉を叩きつけるがびくともする気配がない。
「落ち着いてください、簡単にこじ開けられないようにしたのは貴方が指示した通りですよ」
「このっ……いつから裏切ったんだ!ずっと私に従っていたお前が!」
「ああ、それでしたら……こういうことです」
指をぱちんと弾き。画面に映る秘書の映像が乱れ始め。
次の瞬間、画面には小さな少女が写っていた。
赤い服、黒いとんがり帽子、そして顔面に張り付いた無表情。
『理想投影』が……解除されたのだ。
「だ、誰だ!……お前は一体!」
「あなたを捕える任務を仰せつかった者です。二カ月前から潜入しておりました」
「に、二カ月!?だが君は3年前から……」
「あなたの秘書は事前に拘束させていただきました、ここの情報を吐かせるのは手こずりましたが」
「その後は私が彼女に代わって仕事をいたしました、安心してください。手は抜きませんでした」
「代わりにこの施設の全データを掌握し、警備システムもこのエレベーターも『改良』したうえで通報させていただきましたが」
「そ、そんな馬鹿な……!こんな、こんなところで……!」
「許さんぞ、貴様ァ!その顔、一生忘れんぞ!引っぺがしてやるからな!」
「……その必要はございません、この顔を覚えたところで無駄ですから」
何かが弾けた音、続いて爆発音が鳴って。
ゴンドラの中は火に包まれるように見えた……
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『それで、主犯格の男はどうした?』
夜、ホテルの部屋で少女が電話をかけている。
相手は『教授』と呼ばれる……彼女が所属するバリエル特殊チームの司令官にあたる男だ。
職務の関係で、これまでお互い直接顔を合わせたことは一度もない……声だけの関係だ。
「手配した者どもに逮捕させました、嘘の爆発で気絶させていましたので楽に終わったと聞いています」
「私は別ルートで脱出しました、誰にも姿を見られていません」
『そうか……よくやった『エマノン』、任務はこれで終了だ』
「かしこまりました。それでは『教授』、次の任務を」
『ああ、まずは1週間の休養を命ずる。その後イギリスのロンドンへ向かえ。任務内容は現地で共有する』
「かしこまりました」
『それと、以前から志願していた件だが』
その言葉に、少女の目が鋭くなる。
『上から正式に許可が下りた。3月からは常夏島に行ってもらうことになる』
「………………そうですか、働きかけに感謝します」
『それまではイギリスだがな、くれぐれも失敗しないようにしたまえ』
「もちろんです」
『そうか、それでは電話を切る』
通話が切れる。
「………………」
窓へと歩き、夜景を見つめる。
「ようやく、ですか……何年も待った甲斐がありました」
少女の心のうちに喜びの気持ちはない。
だが、口をつりあげ、紅い目は狂ったかのように渦巻いている。
「今こそ復讐を遂げ、全てを終わらせます……いかなる犠牲を払ってでも」
決意を新たにした少女の目の先には……遥かの人工島が浮かんでいた。