@morimura_a
元日。約束の時間に数分遅れて、彼女は待ち合わせ場所にやって来た。
「ごめんなさい、仕度に時間がかかってしまって……」
すまなそうに詫びる恋人――レオナ・ガーシュタインの装いを一目見た瞬間、タスク・シングウジは思わず言葉を失う。
ブロンドの髪をアップに纏め、青を基調とした振袖に身を包んだ彼女は輝くばかりの美しさで、彼は暫し見惚れずにはいられなかった。
駄目で元々と『初詣デートに晴れ着を』とねだってみたのだが、まさか了承してもらえるとは思わなかったので嬉しい誤算である。何事も、言ってみるものだ。
黙ったままのタスクを訝ってか、レオナが首を傾げる。
「……どうしたの?」
「いや、可愛いなーって思って♪」
「ほ、褒めても何も出ないわよ」
頬を紅潮させて横を向く彼女に手を差し出し、「じゃ、行こっか」と笑うタスク。
駅前から神社を目指す人々の流れに乗って、二人は歩き始めた。
元日ということで、このあたりは初詣の参拝客でごった返している。それでもレオナの美貌は充分に人目を惹くと見えて、周囲からは幾つもの視線を感じた。
少し居心地が悪そうな恋人を人混みから庇いつつ、彼女をエスコートして神社へと向かう。
重ねた掌の体温を感じながら、タスクは密かな優越感に浸っていた。
参拝を済ませると、二人は人混みを避けて木の下に身を寄せた。
「レオナちゃんは何かお願いした?」
「そういうことは、口に出すものじゃないでしょう」
タスクの質問に素っ気無く答えてから、レオナは彼を軽く睨む。
「……あなたこそ、また『可愛い子と縁がありますように』とか祈ってたんじゃないでしょうね」
わあ、昔のことまだ根に持ってる。
苦笑いを浮かべて、タスクはバンダナに覆われた頭を掻いた。
以前、星に願いをかけようとして声に出してしまい、迂闊にも彼女に聞かれてしまったことがある。もっとも、それはついでに祈った二つ目の願いの方で、肝心の『レオナと結婚できますように』という一つ目の願いは知られずに済んだのだが。
あれは純粋に目の保養が増えることを求めただけであって、自分にとって愛情の対象はレオナ一人しか居ないと告げたところで、彼女は納得するまい。
今更になって言い訳するのも見苦しいので、タスクはさりげなく話題を変えた。
「足、痛くない?」
「平気よ。慣れないものを着ているから、少しだけ窮屈だけれど」
「苦しかったら、帯緩めてもいいけど」
「ここでそんな事出来るわけないでしょう、バカ!」
予想を裏切らない反応に形だけ肩を竦めた後、タスクは再びレオナの手を取る。
「お御籤、引きに行こうぜ。あっちで甘酒も配ってる筈だし」
先に立って人混みの中を歩き始めると、不意に声がかけられた。
「……タスク」
「ん?」
タスクが振り返ると、レオナは微かに頬を染めて。控えめな声音で、彼に囁いた。
「その……誕生日、おめでとう」
考えてみると、この晴れ着デートも元を辿れば『元旦は俺の誕生日だし、折角だから着物でも着てきてよ』と冗談まじりに言ったのが切欠だった。
軽い気持ちで告げたリクエストに応えてくれた彼女の心遣いが嬉しく、愛しさがこみ上げる。
「ありがと」
満面の笑みを湛えて礼を返し、繋いだ手にきゅっと力を込めるタスク。
手を握り返すレオナの指先から、彼女の温もりが伝わってきた。