@morimura_a
ヒリュウ改のデッキで、空と海の境目に溶けてゆく雪を眺めていた。
今、この艦が洋上にある幸運を、レオナは心の中で感謝する。宇宙や雲の上を航行していたのでは、この光景は見られなかっただろうから。
闇夜を淡く照らしながら舞い落ちる無数の白に見入るうち、後方から声がかけられる。
「外に出るなら、誘ってくれれば良かったのに」
ごく当たり前のようにやって来たタスクの姿を認めて、彼女は微かに苦笑した。
「よく、ここに居ることが分かったわね」
「そりゃあ、運命の糸で引き合ってますから♪」
いつも通りの軽口にひとつ溜め息を返して、海に視線を戻す。
肩越しに、タスクの声が聞こえた。
「……コロニーじゃ、雪は降らねえもんなあ」
「ええ。こうして見ると、やっぱり綺麗ね」
遠い記憶を手繰るように目を細め、言葉を続けるレオナ。
「子供の頃、カトライア様から聞いたことがあるの。あの方のご実家は日本の京都だったから……冬は寒いけれど、雪が降るとそれは美しい景色になるのだって」
「うん」
「私、ずっとその話が忘れられなかった。戦艦の上で見ることになるだなんて、思いもしなかったけれど――」
いつになく饒舌になっていることを自覚しつつ、後ろを振り返る。
刹那、タスクの横顔に思わずはっとした。
気の所為だろうか。一瞬だけ、彼の面(おもて)に今まで見たことが無い表情が浮かんでいたように感じられたのは。何かを懐かしむような、どこか寂しげな色。
そういえば――レオナは、タスクが自分の幼少期や家族について語るのを殆ど聞いた記憶が無かった。
あるいは、それは単純に『特別に語る程の内容ではない』というだけかもしれないけれど。
テロや戦乱が続くこの時代には、家庭環境に複雑な事情を抱えている者が少なくない。彼がその一人でないと、誰が言い切れるだろう?
「どうかした? レオナちゃん」
口を噤んでしまったレオナを訝ってか、タスクが首を傾げる。
その様子は、普段の彼と何も変わらない。
「……いえ、何でもないわ」
首を横に振って誤魔化すと、タスクはこちらに歩み寄ってきた。
両腕を伸ばし、レオナを包むように抱き締める。
「ちょっと、タスク……っ」
驚いて抗議の声を上げる彼女に構わず、彼は屈託なく笑った。
「いやあ、だって寒いし?」
「もう……仕方ないわね」
呆れ顔を装い、タスクの背に腕を回す。
彼の温もりを感じた時、自分の体が思っていた以上に冷えきっていたことに気付いた。
タスクがどんな子供時代を過ごしたのか。今、家族はどうしているのか。
面と向かって訊けば、「あれ? 言ってなかったっけ?」と、あっさり教えてくれそうな予感もするのだけれど。いつか、彼が自分から語るまで待ちたいという気もする。
恋人の腕の中から、レオナは降りしきる雪を黙って見詰めていた。