@na75go
ガヤガヤとにぎわう喫茶コーナーから華やいだ声が聞こえる。
賑わいの最たる物は可憐な乙女たちのさえずりだと店員2名だけならずとも答えるが、今日はどこか趣が違っている。
業務を全てスタッフに任せて店長の青年(巷では王子様と有名)が客席についている。
たいそう整った顔で女性に微笑みかける様も集客につながり、パティシエとしての腕も一流という名物店長だが、今は目の前に座る大柄な男と視線を合わせている。
上品なスーツを着こなしたブルネットの男は目の前に座る店長たる青年の前に幾つかの書類を提示しているようで、二人は真剣な面持ちで額を突き合わせていた。
「コッチのとかオススメだぜ。家からも近いし立地も申し分ないから十分集客も期待出来るしここからも離れすぎてねーから今の客だって来れなくねーし。」
「だがな、ジョジョ。今ここに通ってくれているシニョリーナの中には駅から近いからと通ってくれる遠方の子もいるんだ。ここはちょっと最寄り駅から遠すぎるぜ。」
「えぇ~…さっきからアレもダメ、コレもダメじゃーねぇか!何処ならいいんだよ?」
手にした紙の束をバサリと投げ打って、ジョセフは手を上げた。
カタリと揺れたカップの中で冷めた紅茶が揺れるのを目に止めて口に運ぶ。ぬるくなってはいたが深い香りに満足すると、シーザーは丁寧に紙を纏めていた。
「だいたいココもオープンしてから五年も経っていないし店を移さなくても問題は何もないぜ。」
差し出された紙の束を受け取り、眉を跳ね上げる。
「問題ないぃ~?!」
這うように低い声で唸ると、シーザーは何だと首を傾げる。全く分かっていない様子に、ジョセフは思わずテーブルを叩いて立ち上がる。そのままの勢いでビシリと指先を突きつけた。
「問題ないわけあるか!オメー今はともかく、イベントごとに帰り遅くなるしそしたら一人寝だし、心配すんだろーがよー!!!」
店内と人の目を一応気にしてか声は小さめではあったが、シーザーは慌てて眼前に突きつけられた指を握りつぶした。「さっさと座れ!」と小声で言う顔もほんのりと赤く、声の聞こえた隣席のシニョリーナは目配せをしてわざと視線を逸らす。チラチラと様子を伺うに聞こえていたと、シーザーは思わず舌を打った。
渋々座りなおしたジョセフに改めて向き直ると再びシーザーは顔を寄せて、ジョセフもそれに合わせて顔を付き合わせる。
小さく聞こえた「キャア!」という声は聞こえないフリで目の前の顔を睨みつける。
赤くなった顔じゃあ迫力ねえな、とジョセフは思った。
「オレはもっとシーザーと一緒にいてーのよ。」
先手必勝とばかりに呟かれた声と真摯な瞳に、シーザーはグラリと揺れた。
しかしここで押し負けるわけにはいかないと、グッと目の前の青を見つめなおす。一瞬揺れた視線に、ふと顔が緩んだ。
「帰りが遅くなるのはすまないと思っているが、今はいいだろう。…これからも、ずっと一緒にいるんだし。」
コツンと、テーブルの下でつま先を合わせてやる。
途端に赤みを増したジョセフの顔に満足して椅子に深く座りなおすとジョセフは大きな溜息と共にテーブルに突っ伏して、「それはズリイよ、シーザー。」と呻き声を上げた。