@na75go
たとえば花束を束ねるリボンを扱う指先だとか。
たとえばセロファンで包んだ鉢の花に向けた視線だとか。
たとえばお客さんと思われる女の子と話す時とはちがう穏やかな瞳だとか。
上げ連ねたらキリがないほど惹きつけられた要因はあったのだろうと思う。
男性客にはあからさまにそっけない態度なのに、花を贈る相手が恋人や母親であると驚くほど真剣に喜ばれるように花を選ぶ。
男性客の向こうの、喜ぶ女性を思って包装される花はいつもみずみずしく鮮やかだったが、ジョセフの手には一輪の花が手渡された。
透明なセロファンで巻いて、シンプルなリボンで結ばれただけの。
「何でこれだけ?」
「お前が本当に贈りたいのは花じゃないだろう。」
面倒な家庭の事情とやらで最近再会したばかりの母親への誕生日のプレゼントだった。
友人にもらったアドバイスを参考に花屋に足を運べば対応した男は大層美形ではあったが人の話を聞いているのだか聞いていないのかといった様子だったのに、捉えるべき情報はしっかりと聞いていたらしい。
「お前には花は切欠で、大切なのは素直な言葉なんじゃあないのか。」
まっすぐ見つめられた視線に喉を詰まらせる。接し方に困って避け気味なのを見透かされたようで思わず泳いだ視線もばれていたらしい。
ふっと緩んだ口元がやけに印象的だった。
店の外からは例の金髪の姿は伺えずに、ジョセフは店内に足を踏み入れた。
やけに鮮やかな色彩の奥で黒い髪が揺れているのに声をかけた。
「よー、ブチャラティ!」
「ジョセフか。シーザーなら今留守だぞ。」
「すぐ戻ってくるんだろ?」
「ああ、まあな。適当に見てるか?」
「そうする。」
迎えた、今やすっかり顔なじみの男と軽く挨拶を交わすと色とりどりの花を眺め始める。
正直何がどの名前だったかさっぱり覚えられないが、これらの世話をあの男が熱心にしていると思うと不思議と見飽きないのだった。
目に留まる緑はどれも生き生きと美しく瑞々しいが、ジョセフは思うのだ。
「何だジョジョ、今日も来たのか。」
腕にバラの鉢を抱えたシーザーが戻って来たらしい。
まだ季節はずれの赤に負けない鮮やかな気配に手を上げる。
「おせーよ。それ今日の仕入れ?」
「ああ、綺麗だろう。」
お前がな。いつくしむように向けられた瞳を見る。
どんなみどりよりも綺麗な色だと、思うのだ。
心臓がはねるのを感じて天井をあおぐ。飾り気のない白いそこが今は目に優しい気がした。
「で、今日はどうしたんだ。」
「リサリサのオツカイ。これメモな。」
渡したメモに書かれた花を包みに行くシーザーの背を追いかける。どこか浮かれた様子の背中の理由がリサリサのメモなのか自分と会えた事に関してか分かりかねて、ジョセフは距離をつめる。
「なあシーザー今日何時まで?」
とりあえず逃がすつもりはさらさらないので、ジョセフは今日も今日とてアフターの予定をもぎ取る事に決めたのだった。