@na75go
2月に入ると、パティスリー・ジラソーレにはカップル客が増える。
バレンタインまでの2週間限定のセットメニューが出来るのはこの界隈では有名で、土日になればオープンからひっきりなしに人が訪れる。
近頃では人数を見越しての数を作るものの、年々噂が広がっているのか夕方にはセット限定のケーキは売り切れ状態になってしまうのが常だった。
忙しい店内ではプレゼント用のチョコレートの詰め合わせも好評で、こちらも大体閉店までには完売してしまうので、シーザーもポルナレフも忙しい。
当然帰るのも遅くなりがちになるが、今日は比較的早くに人も引いて閉店作業を終えた。
通用口から出て手を振り帰っていくポルナレフの背を見送ってからシーザーが踵を返したときだった。
「お疲れーシーザー。」
バサリといささか乱雑に目の前に現れた鮮やかな色彩に目を見開く。
聞き覚えのありすぎる声に「どうしたんだ。」と返せば、「まあ受け取れよ。」とソレを押し付けられる。
街灯のほの暗い明かりに照らされた、おそらく丁寧に包まれた花束。その花びらに埋もれるようにして一枚、控えめなカードが目に入った。
二つ折りにされたソレを、片手で開く。
整った字体で書かれた、バレンタインデーが終わった次の定休日の日にちと、レストランの名前。
シーザーとジョセフの気に入りのイタリアンを出すその店の名前を指でなぞって、シーザーはふふ、と笑った。
「何だ、デートのお誘いか?」
「最近ずっと家にいるだろ。オレからのバレンタインデーねん。」
ウィンクと共に落とされた言葉を鼻で笑ってやった。
「で、お前は何を要求してくるんだ?」
「当然、夜はあつぅ~く過ごしてくれるんだろ?」
大きな花束を腕に抱えなおす。
夜道にはすでに人影はなくて、裏道を通って遠回りすれば家までは距離がある。
空いた片手をスルリとジョセフの腕に絡ませると、シーザーはその肩に頭を預けた。
「grazie、JOJO」
そのまま手を繋いで、シーザーは歩き出した。
数秒遅れて、引かれて歩き出したジョセフが隣に並んだのを認めて月を見上げた。
「残業なんか抱えるんじゃねーぞ。」
「分かってるってぇ!」
軽口をたたきながら家路をゆく。夜の冷たい風も、今は心地よかった。