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Diamond.2

全体公開 2003文字
2015-02-07 23:59:25
Posted by @na75go

 冷たい水を触る時間が長い。冷たさと水に油分を取られて手ががさがさになるのだと聞いた。
それでも花を束ねる手の動きはすべらかで迷いが無いから、そんなのは嘘じゃないのかと一瞬疑ってかかったが、間違いなくその指先がささくれ立って赤みがかっていたのが印象的で、お綺麗な顔の割りに仕事人の手なんだと思った瞬間に顔に熱が集まったので、ジョセフはごまかすように顔を伏せた。



 ガヤガヤと人の気配の煩いデパートでかけられた声に、ジョセフはくるりと背後を振り向いた。
自分より低い場所にある特徴的な金髪に、よう、と返事を返した。
「どうしたんですか、こんな場所にいるなんて。」
「オメーこそ珍しいんじゃないの。コスメに興味あんのォ?」
女性のコスメブランドが並ぶフロアに男が二人、それも見目の整ったのが並んで経っている様は一種異様で、偶然その場に通りかかった女性は思い思いの視線を投げ掛ける。
金髪はまだ少年の面影を残して、ジョセフの目の前に並ぶそれを一つ手に取った。
「ハンドクリーム?」
「ハンドクリーム。」
ジョセフの手には既に幾つかのサンプルが握られている。ふわふわと漂う香りは雑多で、交じり合った香料は既に何の香りか分からないほどだった。
「真剣に選んでおります。」
真顔でキリリと視線を向ける従兄弟に、ジョルノは肩をすくめた。
「そんなに出しては、もう元の香りなんか分からないでしょう。」
「どれが良いかわかんねーじゃんかよ!」
ホレ香れ香れ、と手をひらひらさせるたびにふよふよと鼻腔をくすぐる香りは決して不快ではないが、やはり雑多に過ぎた。
顔をしかめる程では無いにしろ元が分からない香りがこれ以上届かないように手を振った。
「一度手を洗って。ハンドクリームなら向こうのシリーズの方が保湿力が段違いにいいですよ。」
指差したのは店の奥にこじんまりとコーナーを設けられた小さなシリーズだった。
パッケージは今手にしているものより随分と地味で、ジョセフは首を傾げた。
「女性相手には向いていると思いますけどね、貴方が贈りたい相手にこのシリーズでは不向き。」
きっぱりと言い切ってさっさと背を向けた相手を見送りながら、ああ、と納得する。
偶然にも、あの年下の従兄弟も自分が通う店に足しげく通っているのだった。



 ジョセフがベロ・フィオーレに着いたとき、目的の男は女性を送り出したところだった。
小さくない花束を手にした女性が会釈して笑顔で立ち去っていく背中を見送ったシーザーがジョセフに気がつくと、機嫌良く笑顔で迎えられた。
「今日もおつかいか?」
「今日はちげーーよ!おめーに用事。」
ひゅうと吹き付ける風にシーザーが肩を上げるのに、ジョセフは勝手知ったる様子で店内に足を踏みいれた。
ゆったりとしたジャズの流れる店内はほんのりと暖かい。
追って入ってきたシーザーが扉を閉めれば、暖かさが増した。
まだまだ寒いというのに鮮やかな色彩に囲まれた作業台の前に引っ張り出された椅子に、シーザーとジョセフは並んで座る。
途端に雑務に手を出すのを目に止めながら、ジョセフは肘をついてシーザーを眺めた。
ぼんやりしながらカサカサと紙の音が響く中で、俄かに聞こえた「いて、」という声に意識を引き戻されてジョセフは瞬く。
気付いたのか、罰が悪そうに「紙で切っただけだ、気にするな。」言いながらシーザーが立ち上がる。
救急箱でも取りに行くのだろうその指先が感想で白んでいて、ジョセフはその手を掴んだ。
「ジョジョ?」
「傷口洗っておけよ、バンソーコーくらいオレが貼ってやるぜ。」
迷い無く救急箱を取り出しながら、聞こえてきた水音に耳を澄ます。目的の箱から予備を含めて3枚ほど抜き取ると、ジョセフはさっさとシーザーの隣に戻った。
「拭いた?」
「ああ。」
水気のふき取られた指先にペタリとバンソーコーを巻きつける。
余ったバンソーコーをシーザーのギャルソンエプロンに突っ込んでから、ジョセフはカバンから包装もなにもされていないチューブを取り出して、その手に握らせた。
「オメー手ガッサガサじゃねーの。そんなだからすぐ怪我するんだぜ。」
虚をつかれた様子で握らされたハンドクリームに目を落とす。
シンプルなデザインのそれを見るシーザーを、ジョセフが真剣な目で見ていた。
やがてむずがゆい気分でそわそわと視線をさまよわせるジョセフに、シーザーが笑った。
「grazie、JOJO」
思わず見とれるままに「おう」と返した目の前で、シーザーがチューブから中身を搾り出す。
するすると手に馴染ませてから、満足げにそれを先ほどジョセフがバンソーコーをねじ込んだポケットに忍ばせた。

 自分が贈ったものがシーザーの日常に寄り添うかもしれないという事実に思い至ったジョセフが、夜になって奇声を上げたのは日付も変ろうかという時刻だった。


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