@na75go
今日もにぎわう店内の声に、シーザーは気に入りのコーヒーを淹れながら満足げにカフェスペースを眺めた。
カフェに足を運ぶ人のピークも過ぎた昼下がりに、束の間の休息。
久方ぶりに座っていたときだった。
「すみません、店長~。」と呼んだバイトの声に顔を出すと、ショーケースの前には大男が立っている。
キッチリ着こなしたスーツに柔和な笑みを浮かべた紳士が、「やあ、久しぶり。」と笑った。
「ジョナサン?お久しぶりです。今日は?」
「もうすぐバレンタインだろう?当日はどうしても帰れないから。」
考古学の分野で名を馳せるジョナサンは各国を転々とすることも多い。パートナーへの贈り物だと聞いてシーザーは直に納得した。
ドライにみせかけて実はウェットな性質の彼のパートナーは、シーザーの作るケーキには文句を言わないのだと聞いていたので。
「今日は何が良い?」
「折角だし、チョコレートの…」
「ガトーショコラ、ザッハトルテ、チョコレートタルト。それとも生チョコレートショートケーキ?」
「うーん、迷うなぁ…。…全部一つずつだと多いと思うかい?」
「そもそもそんなに甘いものばかりは食べないでしょう、二人とも…」
「そうなんだよねぇ…」
でも全部おいしそうなんだもの、と微笑みながらも真剣な様子に、シーザーが思わず笑った時だった。
カランとドアの開く音と共に不機嫌な顔が目に入って、シーザーが笑う。
「…ガトーショコラとショートケーキ。」
どこか棘のある声で男が告げた。新たな金髪にジョナサンが目を見開いていると、声の主はフン、と息を吐く。
「あとこの阿呆にはザッハトルテとタルトを包め。」
「ああ、箱は分けるか?」
「一緒でいい。コイツが持つ。」
「少し待っていてくれ。」
言われた通りに箱に詰めようとして、巨漢の2人に慄いた様子のバイトに声をかけてリボンを用意させた。
「ディオ、そんなに食べるの?」「折角のイベントとやらだからな。それにオレが残してもお前が食べるだろう。」「シーザーのケーキは残さないくせに?」「フン。」と何やら話す得意先に包装をサービスするようにバイトに仕事を与えて、シーザーが会計を終わらせる。その際についでにと渡された紅茶の茶葉を包装の終わったケーキと一緒に渡したシーザーの手に、ディオが綺麗にラッピングされた箱を乗せる。
「これは?」
「知り合いに渡されたが量が多い。」
ホットチョコレートと表記されたラベルを指で撫でる。2箱も二人では飲めないよね、と穏やかなジョナサンの声に視線を上げる。
「ムースかプリンか、美味く出来たら受け取ってくれ。」
瞬間にキラ、と瞬いた瞳の色に、シーザーはジョナサンと笑った。
雪のちらつく夜道を震えながら帰宅したジョセフは、暖房のついた暖かい部屋に足を踏み入れた。
「たーだいまー…」
リビングに顔を出せば、ふんわりと甘い匂いに出迎えられる。「おかえり」と聞こえたソファにくつろぐシーザーはが、手にマグを持ってジョセフを見ていた。
おや?とキッチンに目を向ければ、見慣れない箱が目に止まる。何時の間に傍に来たのかシーザーがジョセフのコートに手を添えるので、ジョセフは素直にそれを脱ぎ始めた。
「なにあれ?」
「ホットチョコレート。ディオに貰ったんだ。」
「ディオォ?!」
「後でいれてやるよ。美味かったぜ?」
手にしたコートの冷たさに口をへの字に曲げたシーザーに、ジョセフは眉を寄せた。
「ナカヨシだことぉ~。」
「今日ジョナサンと二人で来てくれたんだよ。」
「…ナカヨシだことぉ~。」
「オレはお前ともっとナカヨシなんだから、別にいいだろ?」
ハンガーにコートをかける背を見る。
思わずジョセフが赤面して、シーザーに抱きついた。
「てめ、冷たい!」
「あっためてー。」
丸出しのうなじに額を寄せれば、みぞおちを狙ったかのように肘を繰り出されて想わず離れる。
「くそ、とりあえずメシだ!いいな!用意しておくからさっさと風呂で暖まって来い!!」
ほんのり染まった耳に期待が透かして見えて、ジョセフは笑顔で頷いた。
おそらく温まった頃には暖かい夕飯が用意されていて、きっとその後にはホットチョコレートが待っている。
そしてその後には、もっと二人で温まれる時間があるのだ。