@na75go
ぽかぽかと陽気につられて歩いてみれば、風も無く春の陽気でジョセフは軽やかな足取りで目的地に向かった。
今日も今日とて家に飾る花の交換にと遣いに出されたものの気分が良いのは何より目的地には想い人がいるからで、全くゲンキンだなと自分でも思うものの理由があるとやはり会いやすい。
理由は無くても会いにいくけれど。
…なんだか母に自分の気持ちがバレていそうだけれど。
チラと時間を確認すると、すでに昼食時を過ぎてはいるが目的の人物は休憩中だろうかという時間だ。ならば店内に直接向かうよりも外のほうが良いかと目的地を変更して、店の裏手に回る事にした。
フラワーショップ・ベロ フィオーレの裏は従業員の駐車スペースと従業員出入り口、その横には喫煙スペースが設けられている。
喫煙者のシーザーは食後ほぼ必ずと言っていいほどここで煙草をすっているのでジョセフはこちらに顔を出したのだが、珍しい事に今日はそこに求めた姿はない。
先日聞き出したシフトでは今日は休みではないはずだと頭を捻る。
扉は目の前にあるが、いかに従業員全員と仲が良いとはいえ流石に部外者の自分がノックするのもためらうと唸ろうかとしていた時だった。
「あら、ジョセフ?」
軽やかな声に振り返れば、学校からそのままバイトにやってきたらしいトリッシュがいた。
「…シーザーに会いに来たのね?」
「いやまあ…オツカイだけどね?」
何故こちらに顔を出したのか瞬時に察した彼女に苦笑いを返すと、トリッシュはフフフ、と含んで笑った。
「ちょっと待ってて。」
言うと扉を開けて中を確認する。
「シーザー!お客さん!!…じゃ、また後でね。」
口パクで「がんばってね」と言い残して店内に去ったトリッシュにテレと感謝を捧げつつ、さして待つまでも無くシーザーが姿を現す。
「ジョジョ?どうしたんだこんな所で?」
ヒョッコリと顔を覗かせた目的の人物は、ジョセフの姿を見ると直に外に出て扉を閉めた。
自分の為に時間を割いてくれるのだと思うとうれしくて、ぴんと背が伸びる。
「いや、今は休憩中かな~?と思ってウラに来てみたんだけどよー。」
ポケットから皺がよったメモを取り出して手渡す。受け取ったシーザーはザッと確認すると、丁寧にエプロンのポケットに忍ばせた。
「今日は吸わねーの?」
「今日は、禁煙の日なんだそうだ。」
持ってきてもいないと手を上げるのに、へえ、と返す。
普段から香る洗剤だか柔軟剤だかの香りと混ざる煙の匂いがない。それだけで柔らかな香りが立ってシーザーを包むので、ジョセフは少しだけ緊張した。
「吸いたくならないわけ?」
「まあ、多少は…。だがまあ、煙草の匂いが苦手なシニョリーナもいるしな。」
圧倒的に多い女性客の事だろうと思いはしても、ジョセフは内心唾を吐き出す。
全くこういうところだけはいけ好かねえ、と思った時だった。目の前にピランと細長いものを差し出される。
ボヤけたピントを合わせると、赤い紙に巻かれた銀紙。ラベルにはコーラ味。
「お前もそんなに好きじゃないみたいだしな。…いらないか?」
差し出されたガムを無言で受け取る。
心臓に悪いと不意打ちに遅まきながら音を立てる心臓を叱咤するジョセフを他所に、シーザーも横でガムを噛む。
ミントの香りが鼻についた。
「ってゆーか、シーザーこんなトコで油売ってていいの。」
「今は休憩中なんだよ。分かってて来たんだろ?」
あと10分したら戻るから、そしたら正面にまわれよ。そう言うシーザーは残りの10分をこの場所で一緒に過ごしてくれるらしい。
時折吹く風は冷たいが、全く火照ったからだには丁度いいとジョセフはコーラ味のガムを口に放り込んだ。