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「喰らってやろうか」

全体公開 オリジナル 1104文字
2015-03-04 04:48:46

#同じ台詞で文字書きの戯れ
お題「喰らってやろうか」

Posted by @huyutoya

「喰らってやろうか」
 と物の怪は言った。
「そのまま生きるのは辛かろう?」
 解放されるのだという喜び以上に惜しむ気持ちがあったのは、何故だろう。
……どうした」
 物の怪にも伝わったようで、怪訝な顔をされた。獣面なのでおそらくは、だけど、最近おおよそ当たるようになってきた。
 ……ああ、そうか。
「何がだ」
 極々小さな呟きを、物の怪はしっかりと捉える。おばあさんの耳はどうして大きいの、だ。はて、するとおばあさんの口が大きいのは。
「喰われたくない、か?」
 そうではない。そうではないのだ。
 むしろ望んでいた。その為に近付いたのだ。
 物の怪は気付いているだろうか。気付いて尚、そう言ってくれてるのだろうか。利用することを許してくれたのだろうか。
……埒があかんな」
 近付いてきた物の怪を慌てて押し留める。
 聞いて、物の怪。
ふん、と鼻を鳴らして、物の怪は続きを促した。
「明日もここに来てもいい?」
 何言ってんだお前は、と顔に書いてある。間違いない。なにせ自分でもそう思う。
 ねえ、物の怪。
 何だ小娘。
 病を持った足をさする。普通の人には何も見えず、取り憑かれた者や物の怪には蔦のように見えるそれ。
 言葉を探す。
 最初来た時とは違う、利用する為でない、心からの思いを。
「物の怪と友達になりたい」
 ああ、だから、何言ってんだお前、って顔をしないで!
「それでたまに物の怪の名前呼びたい」
 物の怪。ねえ、あのさ、物の怪。
 小娘、何だ。やかましいぞ小娘。
 名前を訊く所から始めよう。けどこんな風に呼び合うのも好きになっていた。
 好きになるほど、情が湧いた。
「阿呆だな」
 しみじみと物の怪は呟いた。
「お前の足はずっと旨そうだった。いま喰う気になったのは偶々だ」
 育つのを待っていたのか。
 何と、ここはおばあさんの小屋ではなくて、お菓子の家だったらしい。
「まあ、足ごと喰うつもりはない。如何にも不味そうだ」
 そうだね物の怪。きっとお腹を壊すよ。
「だから、精々運動不足の足を引きずって、明日もここに来るがいい」
 ともだちなぞ、そういうものだろう?
 にぃと口を裂いた物の怪は、全く物の怪で、それが物の怪の笑顔だった。
 白い毛に口の赤さがよく映える。
 気付こうとしないでごめんね、物の怪。
 そう口にする代わりに、背丈の低い物の怪に抱きついた。

「ありがと、うさうさ」
「ええい名を教えるから珍妙なあだ名で呼ぶな!」

 長い耳をぴこぴこ揺らし、口と目元を真っ赤にして、愛しいうさぎの物の怪は、凶悪な顔で叫んだ。




兎にしようか狼にしようか迷った


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