@pppqqqpq
私が生きていたときに私の名前を知る人はひとりもいなかった。
あなたは病弱だったが、なかでもとりわけ胃腸がひどく弱かった。その夜も弱々しい星々とつよい街灯の下で嘔吐をしているのを私はローソンの店内でレジ待ちをしながら横目にみていた。老いた人のようにかがまっている背中が暗闇のなかにすこしだけ浮き上がってみえた。
そのときに水原希子と目があった。店外に目をやろうとすればしぜんと視界のなかに入ってくる雑誌コーナーのなかで、彼女は笑っていた。きっちりと長方形に切りとられたショッキングピンクの背景のなかで、前髪のあたりに雑誌の名前を浮かばせながら、彼女は笑っていた。その世界中に害悪をふりまくようなつりあげられた美しい唇に塗られたリップの色とグロスの輝きをしっかりと胸のなかにしまいこみ、私は彼女を睨みかえした。
スパークリング・ウォーターのペットボトルを三本とウイーダインゼリーを両手に抱えらえるだけ抱え、順番がまわってきた私はレジにどさどさと抱えた両腕からそれらを雪崩れさせた。店員はなにも言わない。ここの店員はよくしつけられていて、私はそれをとても気に入っている。
お釣りがでないようにきっかりと代金を支払いながら、私ははやく雨か雪が降ればいいのにと思っていた。まるでいつも私自身がはやく老いることができればいいのにと祈りつづけてきたのとおなじ強度で、願っていた。そしたら、あなたがその地面に撒きちらしている吐瀉物もすこしはこの世の善意によって薄められるのではないかと思っていたのだ。
渡されたレシートをそのままレシート入れに投げいれ、もう片方の手でビニール袋に入れられた商品を受けとって、そのときに、その店員の左手の薬指から指輪が外されていることに気づいた。
しかしまあ、なんということもない。私はローソンを出て、もうほとんど吐瀉物にまみれながら道路のうちにうずくまりこんでいるあなたに、ペットボトルとウイダーインゼリーをひとつずつ渡した。その代わりとでもいうように、私はあなたの吐瀉物のなかからプラスティック製の小さな水色のミッキーマウスをすくいあげ、あなたから背を向けて歩きだした。歩きながら、どんどんその歩みのスピードをはやめていった、加速していった。その道すがら、ペットボトルの蓋を開け、スパークリング・ウォーターでそのミッキーを洗った。ペットボトルの中身は半分とはいわないまでもその三分の一以上が失われた。