@pukapuka_swimmy
夜のうちに虫か鼠が出たのだろうかと思いながら欠けた茶碗をそっと手に取った。するとどうしたことか、さっきまで茶碗が伏せられていたその場所に、碗の丸みに沿うようにちいさな人が膝を抱えて横たわっていたのである。
(あれま、一寸法師が出た。)
咄嗟にそう思った。
ちいさな人は突然に朝の真白い光の元に曝されて、眠りから目覚めた。そしてこちらの視線に気付くと佇まいを直し言うのである。
「これからお世話になります」
深々とお辞儀をされては、呆気にとられながらも頷いてやるほかなかった。
ちいさな人はこまごまとしたちいさな着物を着ていた。紐のような帯もちゃんと着いていて、髪も凛々しい総髪を結ってあるが、足元は裸足であった。気に掛かり、履くものはないのかと問うと、誇らしげに懐から草履を取り出したので、用意が良いものだと驚かされた。
彼は礼儀正しく、気持ちのよい人だった。一口にも満たない僅かな食事を匙の上に乗せて分けてやると、大変美味しいと言いながら喜んで食べ、お礼にと舞を披露してくれる。仕事で使うペンのインクが一滴机の上に零れると、襷を掛け、膝をからげて、彼には大きすぎる布切れを持ってきて、ごしごしと懸命に汚れを拭ってくれる。
ちいさな人と暮らしはじめて三日ばかりが経った頃、呼びかけるのに不便であるので、彼に白(しろ)という名を付けた。白い光で目覚めたからという安直な名であったが、白はおおいに喜んだ。白、と呼ぶと、彼は何処に居てもきちんと居直って「はい」と腹から声を出して返事をする。それが実に耳に心地好く、日に一度は用もなく名を呼んで返事をさせた。
短編『ちいさな人』より