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ましろしゅき コトノハオトのはなし

全体公開 2635文字
2015-08-09 01:54:36
Posted by @siroinouto

草の地、岩の地を経て水の地へと足を踏み入れた私とエイル。
植物が生えない岩の地との境界を超えてから再び姿を現した植物たちには草の地の景色をふと思い出したものだ。
ところが、空気が湿気を孕み始めると足元はぬかるみ、水たまりは人が沈む深さが当たり前となり、あちらこちらに沼が見えるまでとなればその景色はすっかり変わり、樹木のなりがすっかり変わった頃には足は常に水に浸かり、寝床を確保するには高台を探さなければならなくなった。
じゃぶじゃぶと音を立てながら進む私たちの目の前には、いまや広大な湖が広がっていた。
(ここからが本当の水の地です。)
「地は見えないけど。」
湖というよりもはや海かな……と見渡す限りの水の世界を眺めていた私にふと疑問が浮かぶ。
「目指す図書館はどこにあるの?」
(この先の……町です)
エイルが指した先に見えるのは水平線だけであった。あと今跳ねた魚。
「このまま歩いて行けるの?」
(ちょっと難しいですね)
ざぶり 遠くて大きな何かが跳ねた。
ちょっとではなさそうだな。
(どこかに船着場があるはずですまわっていきましょう)
びちゃびちゃとエイルが湖に沿って歩きだす。
船着場を探すのも苦労しそうだ。
そう思った時に。
とぷり。
とぷり。
船を漕ぐ音が聞こえた。
湖のほうを見ると少し遠くに小舟を漕ぐ人影が見えた。
エイルを呼び止め、小舟のことを知らせる。
エイルが何がしか意思を伝えると小舟を漕いでいた誰かがあたりを見渡す。
こちらを見ると舟の方向をこちらに向け近寄ってきてくれた。
(気づいてくれたようですね)
舟には漕ぎ手の1人だけであった。
エイルが近くまできてくれた漕ぎ手と意思の疎通を始めた。
もしかしたら乗せてくれるかも。
と淡い期待を抱いた時。
(乗せてはくれないようです。)
現実は甘くないらしい。
(この船はこの地域の漁師用のもので特殊な処理がされてないため、この湖を超えるにはこの先にある船着場から行かなければいけないそうです。)
「そっか、じゃあ仕方ないね。船着場探そう。」
船着場の位置を教えてもらえただけでも収穫だ。
漕ぎ手にお礼をいい別れようとしたその時。
「あなた、二フォンの人?」
「え?」


ぎこぎこ、ちゃぷちゃぷ。
私達を乗せた小舟が水海を行く。
漕ぎ手はにこにことこちらに微笑みいろいろと話をしてくれている。
まさかこんなことになるとは思いもしなかった。


「に、日本?」
「そう、二フォン。」
この知らぬ土地の湖岸でにほんの三文字を聞くとは思うこともなかった。
呆然とする私に漕ぎ手は言葉を続ける。
「あなたが、二フォンから来たなら、乗せることできる」
「な、なんで」
なんで日本を知っているのか、という意味だったが漕ぎ手は
「サカナが襲ってこない」
と乗れる理由を教えてくれた。
「サカナ、二フォン人見えない。襲われない。だから乗せることできる。」
水上の小舟を襲う大型の水棲生物は、私のような外界から来た人間は感知せず、襲わないというのだ。
それはこの世界で気になっていた疑問の答えだった。
この世界で幾度か遭遇した危険生物、例えばセキスイハネカクシ、コウベツリ、イワダタミ。
そのどれも、私を見てもそこらの石のように扱った。
魔力と思われるもので獲物を感知する生き物は魔力を蓄える器官を持たない私達を積極的には襲ってこないということだ。
イワダタミに襲われたことがあったが、廃坑という、いつ生き物が通るかもわからない環境で、かつしばらく獲物を得ていないなら振動のみの感知で動く状態に切り替えていてもおかしくはない。
あくまで仮説なので無茶ができるということではないが、疑問は解決することになる。
そして、その体質が旅の障害を払うことになった。
そこで、ふと気になった私はもう一つ問う。
「エイルはどうしたらいい?」
この世界の住人であるエイルは乗せることができるのだろうか
「デュオネミの人には寝ててもらう 電気使うことできるなら寝るいらないけど」
デュオネミとはこの地でのデュラハンの呼び名だろうか。
確かにデュラハンは活動を止めることで魔力の放出をやめるとエイルは言っていた。
ただ、電気を扱えるエイルなら問題はないようだ。

こうして、私達は水海を最短ルートで進むことができる運びとなったのだった。
漕ぎ手の彼は近くの町の漁師らしく、今回は図書館のある大きな町へ行く前に彼の住む町に運んでくれることになった。
彼の話ではこの付近で漁をやっているものの多くが、日本人の子孫ということらしい。 湖上に水棲生物の対策なしで住めるのは外界の住人くらい、ということなのだろう。この地で子孫を作るまで生活を続けた者もいることは、さして不思議ではなかった。
私ももしホンノムシが見つからなければ、それだけこの世界で生きていくのだ。
また、この世界を去りたくなくなるようになってしまえば、もしかしたら。とも思う。


ぎこぎこ、ちゃぷちゃぷ。
船はゆっくりと水面を進む。
彼らの歴史を聞いたあと、私は図書館でも探している日本語の書籍のありかを聞いた。
残念ながら虫が集まる本は彼の住むところにはないらしいが、本に集まる虫に関して伝わる唄を教えてくれた。


「コトノハオトが空を行く。

ちりちりとなくその声を、聞き詠むモノ は多くない。
ひとつふたつと落ちる影、群に集いて雲と風。
厄介者の航行跡、嵐の前のパンドラの箱。
開くつもりは無かっただろう。
けれど惹かれた事もあったのだろう。
心の磁石と風舞う砂鉄。
気まぐれな邂逅もあったもの。

ユメのようなこの世界。
乾いた地を行く者は、彼女自身が一番のユメ。
枕元の向こう側、容れ物のバンニンは眠 り続け。
見知らぬ世界を眩しく眺めるかもしれな い。
疲れたならば立ち止まればいい。
時には全力で駆ければいい。
世界は案外、彼女に優しい。

モノクロ写真に色がつく。
ぽつりじわりとしみていく。
広い大地が震えだし。
透明な警鐘が鳴り響く。
世界は時折、彼女に厳しい。

振り返る余裕ができた時。
置き去られた"時"に気づくだろうか。

コトノハオトが空を行く。
ホタルのような点の影、結び付くにはまだ遠い。」


ぎこぎこ、ちゃぷちゃぷ。
船は唄も運んでゆっくりと進む。
航路の先に待つのがやさしい世界であると願う。


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