壱樹と多喜の話。多喜合流したて
@lianmiso
深夜2時。
小腹が減った。部屋に腹を満たすものも摘むものも無く台所で何か拝借しようと下に降りた。誰かの菓子だろうと次に買い出しに行った時戻せばいい。
食堂から光が揺らぐ。
火?
火元は全て消したはずだし、コンロとも違う。蝋燭を思わせるが、扉から漏れる強い灯りにはならないはずだ。
誰だ?
ノブに手を掛けた。
多喜がグラス片手にテーブルに肘をついている。
「多喜!」
「壱樹くん。寝れないのかい?」
返事をする前に腹の虫が返事をした。
「今日はご飯の時間が早かったからねぇ。わかる、わかる。」
仕事が終わったのは17時。帰って飯を食べるのが面倒だからと東響都心で済ませたのはいいが、いかんせん早く食べすぎた。腹の虫が夜泣きするのは壱樹だけではなかったらしい。
「食べるかい?おつまみだけどご飯にも合うだろう。」
「いいのか?」
「お通し300円になります。」
「そんなに安くていいのか?」
尻ポケットから財布を取り出そうとする壱樹を多喜は笑って押し留めた。
「冗談だよ。財布を取り出さないでくれ。なんで持ってるの。」
「いざという時はコンビニまでドライブしようとしてた。多喜のおかげで運転せずに済んだぜ。」
ポン酢ときゅうりの和え物、生ハムの切り落とし等様々な物が食卓に乗っている。
「これはサーモンと塩昆布か?」
「サーモンの刺身を冷凍しておいて、食べる時に解凍。後は塩昆布と混ぜるだけ。簡単でしょ。」
冷凍ご飯を解凍し、味の染みた刺身をご飯にワンバウンドさせ、口に入れる。
「うめぇ!」
「いっぱい食べてね。」
多喜はグラスを傾ける。氷とグラスがぶつかり、涼しい音を立てた。
「いつもは缶詰で済ませるんだ。グッドタイミングだったね。」
うん、うんと頷きながら、壱樹はご飯をかっこんだ。豪快に飯を食べる姿は見ていて気持ちがいい。勢い良すぎて何かが喉に突っかかり、咽せる壱樹に多喜はお茶を差し出した。
「正直料理のレパートリーがあるって印象はなかったけどよ、見事な一品料理がたくさん!どれも店で出てくる奴みてぇだ。」
多喜が料理登板の時はカレーかシチュー等大鍋の料理が多い。
「ありがとう。自分で食べるだけだと外食ばっかりで自炊に自信がなくて。でも、こういったつまみならね。」
「十分ご飯のおかずになるって。」
「考えてみようかな。酒の肴は白飯に合うっていうのは本当みたいだね。」
壱樹の茶碗はもうすっからかん。米粒ひとつなく綺麗だ。
「レシピ教えてくれよ!でも、多喜のやりやすいようでいいんだからな!俺は好きでやってるけど、たくさん作んのは大変だろ?」
「レパートリーにもうちょっとガッツリしたものもあるんだ。つまみ用の肉じゃがとか。辛いから唐辛子抜いた方がいいかな。」
「湊なら大丈夫。割と辛いのもイケる口だぜ。」
暗闇の中、LEDランタンの明るいオレンジの灯りがゆらりと不規則に揺れる。
「焚き火みたいだ。目を閉じれば木の爆ぜる音が聞こえるな。」
「想像力豊かだね。」
グラスを煽る。先程から幾度なく多喜の口に運ばれる琥珀色の液体を壱樹はじっと見ていた。
「お茶のおかわりをいれようか。」
「美味い?」
好奇心がグラスに注がれる。これか、と多喜がグラスを掲げた。
「美味いね。これはウイスキーだ。でも君だって料理やお菓子とかでも使ってるじゃないか。」
「料理とかにいれるとコクや深みが出るっつーのはわかる。だが、それとこれとは別だろ?妙信だってめっちゃ呑んでるけど、いまいちわかんねーんだよな。ビールなんて苦いだけじゃねーか。」
「ビールだって焼きそばに入れたり、お肉煮たりするけど………まるで実際に呑んだことがある口ぶりだね。」
壱樹が頭の後ろに手を当てた。
「カラシナロック手伝ってた時に少し。飲ませた奴、兄貴にカンカンに怒られてた。」
兄貴に連れられてきた祝いの場で酔った社員にビールを飲まされた壱樹の舌に走る苦味は鮮明だ。べ、と舌を出した。
「そりゃあ子どもにアルコールはね。好みなんかもあると思うよ。」
「そっかー!そうだな。ゴーヤとかも今は食べれるし味覚も変わってるよな。」
「20歳になったら一緒に呑もうか。」
多喜の頭に自然と壱樹の好きそうな酒やつまみが浮かんだ。まだ早いと分かりながらも頭のメモに取っていく。
あと2年か。すぐだろう。
目の前で未来を思って嬉しそうにチョコレートを摘む青年は一体どんな大人になっているのか。
「多喜?」
「いや、未来が楽しみだな、と。」
きっと甘美な味がするだろう。