【修学旅行で仲良くないグループに入りました:日常編】
マシュマロで頂いたお話:守崎と日置がダラダラ掃除する話です。後半に渡会も出てきます。
@RcNfe37
季節の変わり目だからか、最近は欠席する生徒が多い。今日も何人かの生徒が休みだった。
本鈴を合図に長い一日の授業を終えると生徒達は掃除分担場所へと散っていく。
俺も掃除場所へ向かう為に廊下へ出ようとすると担任に引き留められた。
「日置くんのところ今日人数少ないよね?」
「あぁ、はい。でも大丈夫──」
「どうしようか……あっ、守崎くん。今日は日置くんの班の掃除場所を手伝ってくれない?」
たまたま休みが多かった掃除の班。
たまたま通りかかった教室掃除当番の守崎に、たまたま担任が声を掛けた。
守崎は「いいっすよ」と頷くと近くの生徒に持っていた箒を手渡した。
「掃除場所どこ?」
「職員室近くの階段」
「あ〜……そこか」
「嫌だった?」
「音楽室とかが良かった」
「それ俺らのクラスの担当じゃなくね」
廊下を歩きながら目的の階段を目指す。
掃除場所でいうと教室が一番不人気である。
いちいち机を運ぶのは面倒だし、ずっと担任の目があるからサボれないし、掃除が遅いと下校するのも遅くなる。
それに比べれば階段掃除は……まぁ、普通か。
「それでは今日もよろしくお願いします」
一応掃除場所にも担当教師が居る。
この場所の担当は教頭だ。もう慣れたけど、初めてここの掃除当番になった時は少し緊張した。校長とか教頭はレアキャラみたいな存在だと思っていたから。
教頭はいつものメンバーの少なさと守崎に気付くと頭にハテナを浮かべた。
「今日は休みが多いのでヘルプで来てもらったんです」
「あぁ、そうでしたか。よろしくお願いしますね」
誤解を生まないように補足を入れると教頭は人当たりの良い笑みを浮かべた。真顔の時は固いイメージがあるけど、普通に良い人なんだよな。
守崎がペコッと頭を下げると、早速掃除に取り掛かる。
階段掃除は箒と雑巾に分かれる。
掃除用具入れを開けると各々好きな方を取るのだが、当たり前に箒の方が人気である。しかも先生が使うようなTを逆さにした箒。名称は分からん。
「俺、箒がいい」
「え、俺もなんだけど」
丁度最後の箒を俺と守崎が手に取った。
もし、守崎じゃなくて堀田か仲里だったら渋々譲ってくれただろう。渡会だったら先に箒を俺に手渡してくれただろう。
守崎を見上げてキュッと口を結ぶと見透かされたように笑みを浮かべられた。
「悪いけど、俺はあいつみたいに優しくないよ」
「まだ何も言ってないけど」
「俺に譲ってよ。俺より歳上じゃん」
「数ヶ月しか変わんないって」
「ほぼ半年違うだろ」
「じゃあ、逆に歳上に……って、いいや。あげる」
「さんきゅ」
こんな事で揉めるのもバカバカしく思えてきた。
パッと箒から手を離すと、用具入れ下の雑巾を手に取った。昨日も雑巾だったのに。
我儘で意地悪で意固地な守崎と階段を登って最上階を目指していると、三年の階で男女グループが屯していた。ネクタイや上履きサンダルの色を見るまでもなく態度的に三年生だ。
俺達が登ってくるのが見えたのか一人の生徒が場所を移動しかけて「あ!」と声を上げた。
「この前、ルナ振った子じゃん」
「え?マジ?!どっち?」
「背高いほう〜」
「うわ顔ちっさ!お前の顔の半分じゃね?」
先輩達は廊下に笑い声を響かせながら守崎を囲むと大量の質問を浴びせていた。
なんで振ったのか。彼女は居るのか。好きなタイプはどんな子か。どこの中学だったのか。
守崎は「掃除しないとなんで」と避けようとしているが先輩達はなかなか道を開けてくれない。
「友達くんは知ってんの?」
「え?」
ついには質問の矛先が俺にも向いた。
一気に先輩の視線が俺へと突き刺さる。
「だから、告白を振った理由とか」
「いや、知らないですけど」
「なんだつまんね〜」
期待外れの目を向けられ、また守崎へと視線が集中する。
早く退いてくれないかなと思いつつも、先程から右腕を守崎に掴まれているので逃げようにも逃げられない。
「じゃあさ、SNSのアカウント教えてよ」
諦めの悪い先輩は最後のお願いというように手を合わせて守崎を見上げた。
下手すれば検索でヒットするのではないかと思ったけど意外とそうでもないのかな。
先輩達につられて見上げると、守崎は何かを考える仕草を見せた後に首を縦に振った。思ってもいない反応に先輩達と一緒に俺も驚きの表情を浮かべた。
「マジかよ!ラッキー!」
「ルナに自慢しようかな」
「てか呼んでくる?」
「やめとけ、未練タラタラだったから」
守崎がスマホを操作する間、先輩達はウキウキした表情を浮かべて待っていた。
守崎がスマホを差し出すと一斉に表示されたQRコードを読み込んでいく。
「もういいすか?サボってると怒られるんで」
「あー、ごめんごめん。ありがとね〜」
スマホの画面に張り付きながら移動した先輩達の間を縫って最上階を目指す。
「よくOKしたね」
「なにが?」
「アカウント教えてたじゃん」
「あぁ、あれ」
屋上入り口前の踊り場に着くと守崎は悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
「俺のアカウントじゃないから」
「え?」
「俺が教えたのは兄貴のアカウント」
「兄……遼翔さんの?」
「そー」
何してんだ。
一番の被害者は遼翔さんだけど。てか、そんなのすぐにバレてしまうのではないだろうか。
「投稿内容とかで違う人だって分からない?」
「まぁ……そん時はそん時で」
「また囲まれるよ」
「次は心温さんの売るから大丈夫」
「極悪人かよ」
溜め息を吐くと雑巾を床に置いてテキトーに拭いていく。雑巾は腰が痛くなるからマジでキツいんだよな。粗方拭き終えると階段に移動しようとして顔を上げた。
守崎は箒を譲って貰ったくせにまだスマホを弄っていた。箒を俺から譲って貰ったくせに。
「使わないなら交換してよ」
「てか気にならないの?」
「何が?」
「兄貴と心温さんのアカウント。何投稿してるか」
「いや、全然」
「あそ。日置が気になるのは渡会だけだもんな」
「そーだね」
守崎はスマホを閉じるとポケットに突っ込んだ。そして、やっと掃除を始めるかと思いきや目線の先は屋上に向けられた。
自分もなかなかマイペースな性格かと思っていたけど、守崎には劣るかもしれない。
「おい、サボってると怒られるんじゃなかったのかよ」
「日置も手止まってんじゃん」
「お前に止められてんの」
「屋上ってなんで立ち入り禁止なん?」
「知らんて」
守崎との会話に集中するのは辞めて階段を拭く作業を再開した。本当は箒が先で雑巾が後なんだろうけど、もうフル無視だ。
目の前の雑巾を動かしながら耳は上から聞こえる守崎の声を拾った。
「日置鍵貰ってきて」
「入りたければ自分で行って……てか、屋上で何するの」
「さぁ?考えてない。立ち入り禁止の場所に入りたいだけかも」
「それは……ちょっと分かる」
「だろ」
ダメと言われたら寧ろ気になってしまうものである。
箒の金具のカチャンという音を聞きながら一段一段下がっていくといきなり腰下あたりにひんやりとした何かが当たった。
「ひっ……!な、なに……」
「背中見えてるよ」
「あぁ……ありがと。普通に声掛けてくれれば良いのに」
「ごめんごめん」
勢いよく顔を上げて振り返ると渡会が笑顔を貼り付けたまま俺のシャツを引っ張った。
「いつから居たん?」
「んー……屋上の話してる時くらい」
「そっか。てか手冷たすぎない?」
「今日は水道掃除だったからね」
そう言って渡会は俺の頬を両手で挟んだ。ひんやりとした感覚と石鹸の匂いに包まれる。
雑巾に触れていた手ではどうすることも出来ず、されるがままに突っ立っていると上から守崎の声が聞こえた。
「てか渡会はなんでここ来たんだよ」
「あぁ、職員室に鍵返しに行ったら階段のところで日置と守崎呼んできてって言われたから」
渡会は俺の頬から手を外すと下の階を指差した。
もうそんな時間だったか、腕時計を確認すると確かに掃除にしては長い時間が過ぎていた。三年生に絡まれた分もあるから仕方ないか。
「呼びにきてくれてありがとう」
「うん。逆になんで守崎はここいんの?掃除場所違くね?」
俺に微笑むと渡会は守崎を見上げた。
守崎は箒を片手に降りてくると俺達の横に並んだ。
「頼まれたから来ただけ」
「誰に?」
「担任だよ」
階段を降りながら渡会は俺に「本当?」と首を傾げたので、コクンと頷いた。
渡会は俺の反応を見ると僅かに眉を顰めた。
あぁ、嫉妬してるなと感じて思わず笑みが溢れた。
「今日もご苦労様でした。お疲れ様です」
「「「お疲れ様でした〜」」」
教頭に報告を終えて挨拶をすると呼びに来てくれた渡会も混じえて二年の教室へと足を向けた。
ホームルーム前だからか職員室付近の廊下では学年問わず何人もの生徒が行き交っていた。
「そういえば、さっき三年生に絡まれてさ」
手洗いを終えて廊下を歩いていると先程の出来事を思い返した。
俺の言葉に守崎は顔を顰め、渡会は心配そうな表情を浮かべた。
「日置が?」
「いや、俺じゃなくて守崎が」
「なんだ良かった」
「おい。俺が可哀想だろ」
守崎が渡会を小突いたが渡会は気にせず話の先を促すように俺に目を向けた。
「SNSのアカウント聞かれた時に遼翔さんのアカウント教えてて」
「あー……よくやってるよ。それ」
「え」
渡会の返事に目を瞬いた。
学校ではほぼ一緒に居るが、俺が見たのは今回が初めてだった。なんだ、常習的だったのか。
尚更、遼翔さんが可哀想に思えてくると渡会は思い出を振り返るように話し出した。
「日置と仲良くなる前だったかな……4人でファミレスに居た時に。窓際だったんだけど、他校の子がQRコードを窓に押し付けてきて」
「えぇ……」
「全然居なくなんなかったから、俺が逆に兄貴のQRコード見せたらどっか行った」
「へぇ……」
そんな事あるんだ。
俺の知らない世界に思わず感嘆を漏らした。
それにしても、一番気になるのは。
「それについて遼翔さんはどう思ってんの?」
「いつでも俺の印象下げ放題じゃんって楽しそうにしてるよ」
「あ〜……お酒とか投稿されたらヤバそうだしね」
「今んとこそういうのは無いけど。まぁ、俺は常に印象を人質に取られてるわけ」
じゃあ辞めればいいのに、と思うが簡単な話ではないのだろう。多分。
哀れみの意味で眉を下げると守崎はなんて事なさそうに笑った。
「てかアカウント何個か持ってるから、酒とかタバコが映ってるのは他のアカウントで投稿してるよ」
「そうなんだ」
それはそれで面白くないな。
スンッと表情を戻すと隣の渡会が声を上げて笑った。
「あはは!今つまんないなって思ったでしょ」
「いや?ゼンゼン」
「顔が正直すぎて隠しきれてねーって」
守崎に溜め息を吐かれると後ろから女子生徒の声が掛かった。
「ねぇ!アカウント教えてくれるってほんと?」
振り返ると三年生の女子生徒が二人立っていた。手にはカラフルなステッカーが入ったスマホが握られている。
もう広まったんだなと思いながら隣を窺うとと、守崎はポケットからスマホを取り出した。流れるようにQRコードを表示させると先輩達は慌てて読み込んでいた。
それもそうだ。ここは職員室が近い廊下だから。
「ありがとう〜!」
「ね、これ他の子にも教えていい?」
「あぁ……はい。どうぞ」
守崎はスマホに目を落としたまま、無愛想に答えた。
先輩達は守崎の了承を得ると嬉しそうに笑い合った。そのまま帰ると思いきや、今度はチラッと渡会に目を向けた。
「君は?ダメ?」
「俺SNSやってないんで」
「絶対嘘だよ〜!」
そう言って先輩は甲高い声で笑うとスマホ見ながら考え込んだ。
「まぁ、フォロー欄見れば分かるか〜」
「それな〜!じゃあバイバイ〜!」
先輩達は手を振ると教室へ向かってパタパタと駆けて行った。
小さくなる背中が見えなくなる前に俺達も教室へと足を向けた。
「大変だね、色々」
「とりあえず、しばらくは大丈夫だろ」
「遼翔さんが気紛れでアカウント消さなければな」
「「…………」」
やりかねないから冗談と笑い飛ばせない。
渡会の言葉に顔を見合わせると乾いた笑いを賑やかな廊下に落とした。