Δドラヒナ前提のみっぴきで、イースターのお話です。ルーマニア育ちの隊長に、イベント用のイースターエッグの作り方を聞いたりして、みっぴきでわちゃわちゃします。
この話を書くにあたって、イースターを色々調べたのが楽しかったです。
2023/04/09に上げました。
@kw42431393
「おーい、飾り付けもう終わったか?」
上から元気のいいロナルドの声が降ってくる。私も大きな声で、彼らに呼びかけた。
「オーナメントは並べ終えたぞ。そっちはどうだ?」
「上の方はこれでラストだ! ひょー、楽しみだぜ!」
「マリア、騒ぐ。恥ずかしいね。」
木の上から、ロナルド、マリア、ター・チャンが降りてきた。彼らが持っている籠に入っていた卵は、全部空になっていた。
こちらといえば、木の根元のウサギやヒヨコ、白百合等のオーナメントも配置済みだ。
「じゃあ、あとは点灯するだけだな。」
期待の眼差しを感じて私達は、後ろを振り返る。
「ねえ、まだぁ?」
「はやくみたい、みたい!」
「ぼくのつくったたまご、あそこにある~。」
子供達のウキウキした声…フフフ、そうだな。待ち遠しいよな。
「兄さん、頼むぞ!」
「おうよ、じゃあ…3、2、1」
「「「HAPPY!Easter!」」」
イースターツリーに巻かれたLEDライトに反射して、色とりどりのイースターエッグが鮮やかに揺れていた。
今日は、イースターの日だ。最近、日本でもイベントとなりつつあるキリスト教の重要な祭りだが、実はこの中にちゃんと知っている者は少ない。
幸いな事に日本育ちの吸血鬼は、あまりキリスト教に抵抗がない。楽しく騒げればなんでもいいのだろう。
それに、町おこしにもなる。新横浜ハイボールに、他所の土地からも様々な種族の者達が集まり、イースターエッグ作りの体験をし、共に食事をし、エッグハントやエッグロールやレースに興ずる。
ツリーから周りに目をやると、皆がキラキラした目で自分で作った卵を見上げている。
それは、私達が目指す2つの種族の共存を象徴している様で誇らしかった。
「イースターエッグの作り方かね?」
先週、いつも通り吸対にパトロールの報告書を提出しに行った私は、隊長室でクッキーと紅茶を振る舞われていた。うん、今日も美味しいな。
「町おこしの一環でな。最近よく聞くイースターをシンヨコでもしてみようか、と話題になったんだ。」
「イースターって何だ?」
「それが、私も実はよく知らないんだ。あっ、ロナルド!クッキー取り過ぎだぞ。」
「ヌヌ!」
正直、ペイントした卵を隠したり、ウサギを飾ったりする、キリスト教の祭り?ぐらいの認識しかない。
「ルーマニア育ちの隊長なら詳しいんじゃないかと思ったんだ。料理は兄とゴウセツさんで調べてやってくれるんだが…子供達とイースターエッグ作りをしなきゃいけないんだ。教えてくれないか?」
「ウフフ、いいよ。まあ、私はそんなに宗教煩くないけど、東方教会と西方教会では少し違う。まあ、一般的なのでいいかね?」
そういう流れで隊長の非番に、私は隊長の家に足を運んだ。玄関に足を踏み入れると、可愛らしいウサギのぬいぐるみが私を迎えた。
「うわあ、可愛いな、これは…?」
「イースターバニーだよ。縫ってみたんだ。貰ってあげてくれるかね?」
勿論だ、本当に隊長は器用だな。そっとぬいぐるみを抱き上げる。鮮やかなオレンジで赤いジャケットを羽織ったイースターバニー…まさかな。縫ってたら恋人の私に寄せてた、だったりして…。
「おー、ヒナイチ来たな。なあ、ドラ公。ゆで卵まだか?」
「そろそろいいだろう。あっこら。食べるんじゃないぞ?これを染めたり、ペイントするんだ。」
隊長がバタバタとキッチンに走っていく。最近、すっかりロナルドのお父さんじみてきたな。
リビングに行くと、山盛りのゆで卵があった。ゆで卵を冷ましている間に、色染めの配分を教えて貰う。食用着色料に水、酢を容器に入れて、卵を沈める。時間によって染まり具合が変わるのか。
「子供達にはもう染めたのを出すか、絵の具やペンでペイントして貰おうかな。」
「意外と時間がかかるからね。ボンドでこうやって耳を付けたり、ビーズやシールを貼ったりしてもいいよ。」
今のうちに生卵の中身を出して殻で作るのもやっておこう、となった。全部ゆで卵ではないんだな。
「こうやって…上下にフォークの先で小さく穴を開けて、楊枝で中身を潰してだね。」
隊長が穴から息を吹き込むと、トロリと中身が押し出された。容器に受けた中身は、今夜卵尽くしの料理になるのだろう。
バンッ!
「あれ?爆発しちゃったぞ?」
いや、知ってた気がするな。ロナルドが、思いっきり息を吹き込んだので卵が飛び散ってしまったのだ。
「ああ!もう加減せんか。これ、じっとしてなさい。服を寄越せ。シミになるだろう…擦るんじゃない!」
クスクスとジョンが笑いながら、ロナルドにタオルを差し出す。半裸でゴシゴシ顔を拭く姿は、彼の目指す畏怖とは程遠い。でも、それでいいんだと思う。
楽しかったな。私はジョンとヒヨコやウサギを描いたり、水玉模様に、クッキー柄…それにみっぴきも描いた。ずっと一緒の想いを込めて、イースターツリーに吊るそうと思う。
ロナルドは…フフフ、何かと勘違いしてるな。でも、あいつらしい。銀色に塗った卵に『畏怖されますように!』って書いていた。
それらも、今この木にぶら下げられて、ライトに反射して光っているはずだ。
「こんばんは、ヒナイチくん。」
「ヌンヌンヌ。」
「こんばんは、隊長、ジョン。おかげさまで、皆楽しんでくれたぞ。」
もうすっかり夜も更けて、食事をしていたお客さん達も、エッグハントやレースではしゃいでた子供達も満足して帰っていった。
私達には後片付けが残っていた。隊長は今回仕事が忙しくて参加出来なかったが、ツリーだけでも見ようと寄ってくれたのだ。
「隊長の卵は、遠くからでも分かるぞ。すごい凝ってるものな。」
指差ししながら、ツリーを見上げる。赤く染められた卵に黄色で不思議な幾何学紋様が散りばめられていたり、真っ青な卵に魚が描かれていたり、ビーズが貼り付けられていたり…一際目立って輝いていた。
「色やモチーフに意味があるんだよ。作ってる時は懐かしかったね。子供の頃に戻った気分だった。」
まあ、5歳児の面倒も大変だったが…と苦笑する。そうだな、ゆで卵のペイントでも、彼はジョンとつまみ食いをしたり、握りつぶしたりと私達を困らせたのだ。
「言ってたな。日本ではまだ認識が薄いけど、向こうではクリスマスよりも重要なイベントだって。」
イエス・キリストが復活した日を祝うのだ…今回の事で隊長から色々聞けて勉強になった。単に卵とウサギを飾る日ではなかったんだな。
「仕事が早く終わったら、ギルドで食事をしたかったのだけどね。この前、君たちとイースターエッグを作った時に、久しぶりにイースターの料理を作ったでしょ?懐かしくて、また食べたくなってしまったのだよ。」
「隊長の教えてくれたレシピで、そちらも大盛況だったぞ。ゴウセツさんもいるから、吸血鬼のお客さんにも大好評だ。」
そういえば、コユキさんがデビルドエッグ(ゆで卵を使ったイースターの料理)をケンさんに振る舞って、大変な事になっていたな。ちゃんと食べてくれたけど…見た目も味も『デビル』だったそうだ。
「アハハ、ケンくんとコユキくんか。それでいいんじゃないか。ケンくんも満更じゃないみたいだし。」
「ヌフフ…ヌヌヌヌ。」
クスクス笑う隊長を見て、時々思う。昔を思い出す様な話題になると、彼は一瞬何かを諦めた様な顔をする。所謂、世間に疲れた顔なのだろう…私に何か出来ないだろうか。
いつも考えるのだが、答えは出ない。
なんとなく、手に下げている籠を見下ろした。子供達に見つけられなくて回収した卵が入っている。透明なプラスチックの卵の中で、イチゴ味のキャンディが光っていた。
「そうだ。余り物だけど、隊長もどうぞ。」
私は籠から卵を取り出すと、隊長に差し出した。隊長が甘党なのは知ってるし、甘いものは疲れが取れる。
単にそう考えただけだったのだけど、それを見た隊長はポカンとした顔をした。
「…。」
「えっ?な、何かおかしな事をしたか?」
ああ、しまった!私ってば、何をしているんだ!そもそも、余り物をあげるなんて失礼じゃないか。
「ウフフ…ありがとう。イースターエッグを頂くよ、可愛いウサギさん。」
「えっ、う、ウサギさん…。」
受け取った卵を手で転がしながら、隊長はフッと笑った。
「そのドレス、似合ってるよ。」
そうだ、忙しくて忘れていたがイベントの格好のままだった。目の前のガラスに映る自分を見る。
頭にはうさ耳のカチューシャをつけて、ドレスは春らしいレースをあしらった薄紫色のミニスカートだ。そして、白いファーの付いた黒いブーツを履いている私の姿…可愛いウサギさんか。
さっきまで、マリアさん達も似たようなイースターバニーの服装だったので気にしなかったが…そう言われると照れ臭いな。
「ねえ、ヒナイチくん?」
「な、なんだ?」
呼びかけられて、我に返る。いつの間にか、隊長の肩にいたジョンが姿を消していた。
怪訝な顔をしていると、両頬に手をかけられる。私の好きな金色の瞳から、不思議と情念が感じられて釘付けになった。
「その服って、レンタルかね?それとも、自分で買った服?」
「いや?」
今回のイベントで、皆が着ていた服は吸血鬼のシーニャさんが縫ってくれたものだ。
『やだあ、自分で縫ってなんだけど皆かわい~!ヒナちゃんなんか、ほんと卵を隠しに来たウサちゃんって感じ。』
そう抱きつかれたっけ。イースターの前夜は、サンタさんみたいに春の女神に仕えるウサギが卵を隠していくのだとか…。それでか。ウサギの格好をした私が卵を渡したから、隊長がそう言ったんだな。
「シーニャさんが皆に縫ってくれた服だ。あげるって言ってくれたから、来年も着ようと思ってる。」
「そう、それはよかった。じゃあ、頼みがあるのだけど…来週の日曜日、私が非番なのは知っているかね?」
「うん。知って…いる。」
期待と不安に胸がドキリとする。
イースターは、宗派によって日にちが変わる。隊長はルーマニア出身なんだ。だから、東方教会になる。使う暦が違うから、隊長のいう今年のイースターは来週の日曜日だ。
「丁度と言ってはなんだが。ロナルドくんはジョンと、フットサルの試合と打ち上げに行くから、家には私一人だけ…分かるかね?」
耳元で言われて、かっと顔が赤面するのが分かる。正式につき合いだして、成人もしたのに何もしてくれないから、私が子供だからかも…と心配していた所だった。ただ、いざ言われると言葉が出ない。コクコク頷くのが、精一杯だ。
「その格好で来ておくれ。美味しい料理をたくさん用意して待っているよ。」
チュッと音がして、頬にキスをされたのに気がついた。それだけ、いっぱいいっぱいだったのだ。

「うん。分かった…。」
「その時は、『Tristos a inviat』って言ってくれる?」
「えっ?何だって?」
「こちらの『HAPPY!Easter!』だね。逆に私が言ったら、『Adevarat a inviat』って返してくれればいい。」
そっと、隊長が私から離れる。何か、私から言える事はなかったのだろうか。
「じゃあ、おやすみ。ヒナイチくん。」
「お、おやすみなさ…い。」
パカッと音を立てて、彼女から貰った卵を開ける。中のイチゴ味のキャンディを口に放り込むと、舌の上で転がした。
ヒナイチくんは、そういう事はニブいからたまたまだろうけど…イチゴ味の飴には『恋、結婚、子孫繁栄』の意味がある。
それを渡してくれた、ウサギに扮した彼女には…私に行動を起こさせる何かがあった。幻滅されたくなくて、ずっと後回しにしていた事を…。
ドラルク様、上手く話できたヌ?
さっきまで、姿を消していたジョンが戻ってきた。私は、彼をいつも通り胸に抱く。
「気が利くね。お陰で約束は出来たよ。すまないが、来週ロナルドくんを頼むよ。」
勿論だヌ。お互い仕事があるから、結婚はまだ先ヌけど…ドラルク様も頑張ってヌ。
「言われると辛いね。体力ないし、若いあの子を満足させられるか…実は経験も浅いんだよね。」
憧れの眼差しでいつも見上げてくれる彼女を思い出して、軽くため息をつく。
ヒナイチくんは、初めてだ。年上の私が、リードしてあげないと…。
それにしても…私の前以外では、本当はあの衣装を着て欲しくなかったな。
おそらく、ヒナイチくんは知らないだろう。
ウサギは確かに、春の女神の遣いで、繁栄、豊穣の象徴でもある。その反面ね、浮気者で淫乱の象徴でもあるんだよ。
ずっと私を見ていてくれたヒナイチくんには、当てはまらない事は知っているけれども…すまないね。
半分人ならざる者の血を引く私も、執着心はそこそこ強いんだよ。