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いつかは

全体公開 創作話 2 2401文字
2023-05-15 21:38:35

無限住宅後

Posted by @lianmiso

 スマートフォンの電源が入らない。
 暗い画面には顔を顰めた自分が映る。
 隣の席にスマホを投げた。車の椅子に落ちたスマホがばいんと跳ねる。くるくるとハンドルを回しながら多喜が壱樹に尋ねた。
「行き先はうちの研究所。そこでいいんだね?」
「受付に渡すだけ。悪りぃな、多喜。足になってもらってさ。」
「忙しいだろ。」と壱樹は助手席のヘッドレストを抱え込む。擽ったがって湊が笑った。
「気にしないでよ。」
「なんで壊れたんだろ。衝撃は魔法かけてもらったから平気なはずだろ。水没も平気なはずなんだけど。」
「無限住宅が原因なんじゃないかい?壁紙の模様、結局魔法陣だったんだろ。ああいったところで写真で撮ると携帯が壊れることがあるんだよ。」
………携帯?」
「嘘だと言ってくれよ、壱樹くん。」
 確かな絆が築けていたと思ったが、年代の溝を感じる。ハンドルを握ったまま肩と首を落とす。信号は赤。止まれだ。自分の時も止まっている。
「携帯は、携帯電話は、スマホですよ?」
 壱樹より下の子が出来上がった溝をすぐ埋めた。
「湊くん………!」
「写真撮った時、あいつ何にも言わなかったぞ?」
「そりゃあ霧凍くんだもの。実験したんじゃないのかい。」
 あぁと壱樹が座席に倒れる。あいつだものなぁ。
「この後はオフだし、研究所で霧凍くん回収してたまには東響でも観光しようか。」
 信号が瞬いて青になる。車は再発進した。

「イラッシャイマセ」
 受付に座る銀髪の女がぎこちなく礼をした。確かスノードロップという女だ。風花が突然連れてきたという。
「よう、SD。スマホ直して来んない?」
「壱樹様。YES。お話はお聞きしております。畏まりました。」
 壱樹から機械的な動きでスマートフォンを受け取ると、ジップロックに入れて受付横の箱に入れた。壱樹以外の人間も破壊しているらしく箱の中はスマホやタブレットの山だ。
「今日は運送はないんだ。」
「多喜様。NO。深夜に出発です。無限住宅の品のテストのためです。」
 自分たちが行けない間、雪宗と理央、柳が登っていたと聞く。90階まで上がったそうだ。珍品、奇品がザクザクと出てきているらしい。
「SDさん、気をつけてね。」
「湊様。OK。承りました。」
「霧凍くんは?」
 多喜の問いにギィとスノードロップの関節が軋んだ。
………何かあったんだ。」
………YES。無限住宅で回収した魔具の謎の栓抜きを手にした所、霧凍様が雪宗様の心臓を止めました。」
「えぇ!?無事か!?」
 湊が壱樹の服を引く。
………壱樹さん、雪宗さんは、ちょっとしたことで、心臓が止まるのです。精神的ショックでも。」
「なんだと!?」
「すぐ、復活しますけど。」
 多喜も知っていたようで苦く口の端を歪める。
「で、具体的には。」
「無限住宅で拾った栓抜きを手にした途端、風花様と雪宗様に正座させ、説教を………
 SDが時計を指差した。
「現在11時。8時から説教開始。3時間経過しています。」
「魔具の効果は?」
「霧凍様の様子を見ると思いの蓋を取り除く能力と推測されます。」
 あぁ………と3人はゲンナリした顔をした。
「今も魔具を持っているのです。」
 ラボの中心で霧凍はまだねちねちと風花に説教をしていた。鉄板の上で風花は正座をしている。斜めの跡がつくだろう。この時期では暖房がついていてもヒヤッとするかもしれない。部屋の隅には白い塊が転がる。雪宗だ。背面の霧凍の表情は伺えない。
「霧凍。」
 壱樹が遠くから呼び掛ける。振り向きかかった霧凍の顔を見る前に壱樹はアイマスクをつけた。湊も多喜もだ。耳も塞いである。
 本心を知られるのが嫌いな男だ。見るのも聞くのも屈辱だろう。3人の意見の一致だった。
 壱樹の肩が前から叩かれる。
 アイマスクを解き、耳栓を抜く。
 いつもの仏頂面だ。
「何故ここに。なんで目隠ししているんですかぁ。新たな遊びですかぁ?私以外で楽しんでくださいねぇ?」
「違う、色々と事情があんだよ。」
 栓抜きを持っている時は記憶がなくなるらしい。
「なんで湊くんはぶつぶつと柳さんを褒めつつも文句を言っているんですかぁ。」
 栓抜きを回収したのは湊。多喜の幻覚で柳の姿が見えているらしい。疲れた笑顔で長所と欠点、改善点を小声でボソボソと述べる。
「やば、多喜!多喜!湊回収して!」
「風花さぁん。時と場所を考えてください。」
 風花に前回の無限住宅の件について質問責めにされている多喜を引き離し、湊を誘導して栓抜きを魔具保管専用の箱に入れさせた。
「これでよし、と。」
………僕は一体。」
「霧凍、なんでお前あの栓抜き持ったよ?」
「理央さんが持っても何も起きなかったんですよぉ。安全だと踏んだんですがぁ油断しました。湊くんの様子を見ると本音を引き出す能力ですかぁ。」
 朝霧理央は本音そのままで生きている人間である。効果はあってもわからなかったのだろう。医務室で診てもらった結果、2人とも体に異常はなかった。
「なんでお前俺にスマホで写真撮らせたんだよ。」
「実験ですよぉ。」
 予想通りの答えだ。別の意図があったとしても決して口を割らないだろう。
「風花さんみてぇ。」
「一緒にしないでください。」
「車用意できたよ。すっかり夜だね。夜景でも見に行こうか。」
 多喜が玄関先で呼びかける。霧凍がいち早く横をすり抜けた。壱樹は手を頭の後ろにやる。
 何も見えなかった。聞こえなかった。けれども、呼び掛けた時の霧凍の空気は柔らかだった。いつかあんなもの使わなくてもあの時の空気を引き出して見せる。冬の窓辺で向かえる午後3時のような暖かさを。
 「よっし!」と壱樹は拳を握る。湊が洋服の裾を引っ張って微笑んだ。思いは同じだ。きっと多喜も。
「競争するか!」
「ハイッ!」


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