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マジカルミステリーツアー

全体公開 創作話 2845文字
2023-05-18 08:36:08

六花と霧凍

Posted by @lianmiso

「ごめん!霧凍くん。能力の制御失敗したわぁ。」
 パチン、と手を合わせ、頭を下げたのは上から2番目の姉である冬月六花だ。
「あの兄の関係者から逃れるのには役に立ちましたが、本末転倒じゃないですかぁ。」
 仕事中の買い出しだった。多喜も壱樹も外出しており、六花に車の運転を頼まざるを得なかった。東響の中の辺境の地である事務所では車に頼らざるを得ない。資材売り場でコンクリを選んでいたら、雪宗の友人を名乗る男らが追いかけてきて六花が店内の扉を利用してその場を脱出した。そこまでは良かった。
 六花の能力は接続。
 もともと一つだったものはもちろん、別々な物を繋げたり、感覚や神経などを繋いで他人と視覚を共有したり、繋がりを作ってしまえば敵に痛さを伝えることだってできる。道具に能力を込めることができ、通信や脱出に主に用いられる能力は事務所には欠かせない。しかし、別々な物を組み合わせるときはすぐ離れてしまったり、能力を流し続けていないとバラバラになる。感覚や神経などを繋ぐ時は両者に負担がかかったり、敵には能力自体効かない事というデメリットもあった。しかし、暴走したと言う話は聞かなかった。滅多に外で使わないことが災いしたののだろうか。
 目の前に広がるのは雲海。太陽は高く昇り、雲の白さを反射して目に眩しい。何処かの山頂か。霧凍がコートを六花に掛ける。
「いいんだよ。霧凍くん。私は寒さを感じないから。」
 六花は臓器以外全て機械だ。寒さなんて感じない。常に適正な体温を保っている。
「だから、霧凍くんが風邪を引く方が姉さん嫌かな。君が無理矢理体温調節するのもアレだしね。………って。」
 霧凍の格好は最初に来た時のまま。やれやれ、と霧凍が額に手を当てる。
「長々と無駄にしゃべっていただきましたが、予備ありますからねぇ。見ていて寒いんですよぉ。帰って事情を話せばうるさそうな人もいることです。着ていてください。」
「あはは、ありがとねぇ。」
「さ、早く帰りましょう。駐車料金が心配です。」
 買い物をしなければ1時間500円。ポイントカードがあれば1時間無料。まだ大丈夫なはずだ。霧凍が六花を急かす。随分と金にうるさくなった。 
「はいはい。」
 パチンと指弾く。
「見ていて寒いとは言いましたがぁ。だからと言って砂漠に飛ばせとは言ってないですよぉ。」
 そこらに朽ちた石の柱が建てられ、赤みを帯びた砂がサラサラと靴を埋めていく。
「美しいねぇ。」
「この砂の風景がぁ?」
「うん、美しい。人がいる風景も好きだけどこういった自然が作る雄大な風景も好きだなぁ。」
 できる限り人間を模されて作られた肌は焼けることはないがじりじりと太陽が肌を焼く感覚を六花は好んだ。旅行の際にオイルを塗って日光浴をしていたのは記憶に新しい。何が言いたげな視線に気づくと、六花は手を掲げる。
「ごめんごめん。じゃ、もう一度。」
 パチン。
「明らかに海外じゃないですかぁ。瑞西ですかここ。」
 足下は青々とした絨毯。のんびりと羊、山羊が草を食べている。遠くに見える山々は白化粧をしていた。
「詳しいねぇ。」
「多喜さんがアルプスの少女を借りてましたからぁ。」
「リアルタイム勢としては嬉しいものだけど、彼は何を見ているのかな。後で感想聞こっと。」
 パチン。
「地獄の門。」
 パチン。
「白い砂浜」
 パチン。
「氷河。」
 パチン。
「薔薇色の湖。」
パチン。
「ノートルダム。」
 パチン。
「ピラミッド。」
 パチン。
「ハロン湾………っていい加減にしてくださいよ!」
「アナタニチホンジン?イイシンジュアルヨ。」
「いりません!そんな歪んだ質の悪い真珠!」
 片言の日本語で真珠を売りつけにくる商人に霧凍は怒鳴った。すごすごと商人は去っていく。
「あれぇ?おかしいなぁ。」
「帰る気ありますぅ?なんだか楽しくなってません?行く先々で無駄に写真を撮っているし、お土産も買っていますよねぇ。クレジットカード大丈夫ですかぁ?」
「楽しくなってるかもねぇ。なんか映画みたい。」
「やめなさい。」
 霧凍は眼鏡を上げる。六花の目はキラキラとしていた。
「霧凍くんとこんな風に出掛けたことなかったからさぁ。」
 六花は研究所の片隅の培養ポッドの中にいたという。事務所で受けた最初の大きい事件の際にどんな手段を使っても脱出、無理ならば楽にすることを条件に内部の情報を風花に売っていた。何年研究所にいたか。彼女の実の両親は10年以上前に老衰で亡くなっている。記憶の中の彼女は「そっか。」としか言わなかった。
「もう駐車場は最大料金です。どうぞ好きになさってください。」
「霧凍くん………ありがとう。」
「その方が能力も安定しますでしょう。ただし、ここは勘弁してください!」
 物陰から、草陰から2人に真珠を売ろうと虎視眈々と商人が目を光らせている。
「わかったよ。」
 パチン。
 枯れた木が乱立し、霧に覆われている。多喜の生み出す霧に似ている。霧の中から誰かに伺われている気さえするが断言できない。視線を合わせると良くない気がする。
 空は見えない。白い天井がある。室内だろうか。
「ここは?」
「新しい遺跡かもねぇ。霧凍くん知っているかい?」
「は?」
「烏島の埋め立て地の工事の時に遺跡が見つかったんだ。」
「はぁ。」
 なぜ今そんな話をするのか。理解ができない。
「発見された当時、誰もが何があるかを探しにいった。」
「当然じゃないですかぁ?」
「最下層にたどり着いたのは、桜霞春風、涼風夏樹、真布津秋成、冬月風花。」
「いつもの面々ですねぇ。」
「春風と風花姉さんは最初から螺子が飛んでいたんだけど、夏樹さんと秋成さんがおかしくなったんだよね。」
「は?」
「最下層に着いてから。」
 パチン。
 看板が日本語だ。道端の錆びついた看板には【銀米あり〼】と書いてある。今はもう売っているか判断できない。
「やった!日本だ!日本だよ!」
 先程の真剣味や普段の落ち着いた様子は何処へやら、六花が飛び跳ねる。
「一面の田んぼですがねぇ。何処ですか?ここは。能力使わないでくださいよぉ?やっと国際料金を気にせず電話を掛けられる。」
「待ってよ。」
 蛙が鳴く。水を張られた田んぼに冬眠からあるいは成長し、今!いるべきところに帰ってきたのだ!と言わんばかりに大合唱だ。
「蛙が鳴くから帰りましょう、とは言うけどもこれはちょっと賑やかすぎるね。」
 パチン。
 元のホームセンターだ。資材コーナーの隅に現れたこの時期には不似合いの黒いコートを揃いで着た2人が動き出すと、珍妙な2人に注目が集まる。
「コート返してください。」
「もう少しこのままで。」
 六花が着ているコートの中のポケットには真珠のネックレスが入っている。バレたらなんて言われたものかわからない。ポケットの中に手を突っ込んで、つるりとした感触を楽しんだ。


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