入隊した最初の年くらいの話
@82sousaku
.
『悲しくても、怒っていても、辛くても、どんなに嫌でも、笑って言うことを聞いていれば怒鳴られることなど一つもない。あの人が笑っていればそれが一番平和なんだ』
そうして張り付いた笑顔は癖になった。
別に普通の表情も出来るけれど。
けれど。
「ミコトっていつも笑ってるよね」
「? ええ」
同僚である友人に唐突に言われる。
確かに意識して笑ってはいるけれど。
いや、むしろ癖のようになっている、というのが正しいか。
「封印戦でも笑ってることあるから不思議だったんだけど、でもミコトが笑ってるのはまだ余裕がある時だから安心してる」
そういうつもりではないのだけれど。
と思ったが言う暇もなく、「明日の封印戦もがんばろうね」と自分のデスクへと去っていかれた。
けれど余裕がない時は確かに笑っていないのかも、と頬に触れる。日常でそれは困るが戦闘中はそれでいいか、とデスクに向かった。
彼女との会話はそれが最後だった。
名を呼ばれる。
動けない足が、慣れていない力が
なにも、間に合わなくて
目の前が赤に染まる。
ちのにおい。
あかいいろ。
ひとのなかみ。
鈍いはずの痛みがひどい。
あたまがいたい。
くらくらとする。
目の奥が痛い。
心臓が、ひどくいたい
「■■■……、どうして」
どうして。
なんて。
なんて、もう。
答えはかえってこない。
当たりどころが悪かった。
彼女はもうたすからない。
それだけがわかる。
わかりたくなかった。
それからのことはどうやって戻ったか覚えていない。
彼女をどうしたのかも、自分がどうしたのかも。
いつからかまた笑うようになった。
表情を動かした覚えがないのに笑っている。
張り付けた笑みはもう取れないのだと思う。
それで誰かが少しでも安心するならそれでいいと思った。
私はもっと強くならなければならない。
私を守る人なんかいないくらい、私が守れるようにならなければならない。
いつか、例えば痛みが失われても。
絶対に「守られてはいけない」のだと。
.