ホワイトデーアカジャにやられて書いたゼンアラのお話です。アイナクは出所してるのに、彼女はまだVRCにいるんだなあ、と思うと物悲しいというか。
正確には、ゼン→←←アラぐらいのイメージです。ゼンラさんは聖人君主なので、一人寂しく突っ張ってる子に声をかけるクラスの体育会系優しい男子、のイメージがあるんですよね。あと、チラッとアイナク×キズの描写ありです。
出所してからの後日談を追加しました。
2023/04/19に上げました。
@kw42431393
「よお。脚高の…お前まだ、所長に反抗してるんだって?」
私の収容スペースのガラス越しに誰かが声をかけてきた。
ああ、あいつ。残念だわ、危険度Aの同胞同士、唯一変態でないあんたには一目置いてたんだけどね。
「ふん!あんたは、今日出所ですって?しかも、自分を捕らえた退治人と会ってたらしいじゃない。同胞喰いの名が泣くわよ。」
ガラス越しで、アイナクは殴りかかる事も出来ない。だから、言いたい放題言ってやる。
人間なんて…私から優しいあの人を奪った人間なんて…信じるこいつも頭がおかしいのよ。
「そうだな、ヤキが回ったよ。まあ、ここのVRCは、出所した後の就職先も住む所も世話してくれるし、ここの住み心地も悪くはなかったぜ。」
何より大手を振ってあいつに会えるんだよ…そう言ったあいつは、嬉しそうだった。
「じゃあな、蜘蛛の同胞。何があったかは知らないが、ほどほどにしときな。」
知らないわよ、人間風情の言うなりになるなんて…まっぴらだわ。
「蜘蛛のアラネアさん、お世話になりました。ほら、メリエンヌ。貴女もご挨拶なさい。」
『私、メリエンヌ。今日、私達もここを出ていく事になったのよ。貴女にはお世話に…』
変態はすっこんでなさい、世話なんか焼いてないわよ。
「うるさいわね!おままごとには、つき合わないって言ってるでしょ。ここを出るんでしょ?今度は、ちゃんと同意取ってからやんなさいよ!」
『ありがとう。これからはそうするわ。やっぱり、貴女は優しいわね。』
ぬいぐるみで喋るの止めなさいよ!なんで、ここ変態しかいないのよ。
「お姉さんはここを出ないプリか?お姉さんなら、最強の魔法美少女間違いないプリよ。」
ああ、イライラする。どいつもこいつも、人間と馴れ合って…私がこいつらと仲良くする訳…仲良く…。
そう思っている間に、私より後からきた同胞達も、出所して行った。そして、後から後から変態が収容されては、出ていく。その繰り返しだった。
でも…皆ここで楽しそうに暮らしてる。出ていく者達も嬉しそうな顔をして、そして、所長に文句を言われながら、ここに遊びに来るのだ。
もはや、ゼンラニウムに野球拳、Y談はここで暮らしてると言ってもいい。
じゃあ、私は何なのかしら?私は何に抵抗しているのかしら…本当に、私はここから出たいの?
久しぶりにいい夢を見た。小さな蜘蛛だった私に優しくしてくれた、吸血鬼の友達だった人の夢。
会いたかった、側にあの気味の悪い人間の男はいなかった。嬉しくって、広げられた彼女の手のひらに飛び込んだ。
とてもいい匂いに包まれて…私は…
「ゼンラ!ゼンラ!」
「もう!何なのよ!いい夢を見ていたのに最悪よ!」
目の前でマイムマイムを踊っていたのは、あの股間満開男の眷属のコゼンラニウムだった。いい匂いは、彼らの匂いだ。
殴りつけてやろうかと思ったけど、主同様、彼らには善意しかないのは知っている。私を気遣ってくれたんだって事を…そう、ただ絵面が最悪なだけ。
「ゼンラ?」
尻の一つが、首(?)を傾げる様に体を傾けた。
「し、心配してくれたの…余計なお世話なのに…。」
そう言って彼らを手に乗せる。傍から見ると、お尻を手や肩に乗せて話をしているイカれた女になるけど…なんだか今夜はそんな気分だった。
「アンタの主人は、お人好しよね。人間なんかに優しくして、私なんかの面倒も見て。」
やっぱり、分からないわ。あの人もアンタも人間に肩入れする気持ちが…でも。
分からずともよいのではないか?
そう言ってくれた。普通は、そこで「人と寄り添わなければ」とか「協力しあって」とか三文芝居の定型文を言うと思ってたのに。
案外それが楽しいかもしれんぞ、同胞!
楽しければいい、吸血鬼としてそれが正しいはず。じゃあ、私も…でも…。
「蜘蛛の同胞!所長の許可が…おお!コゼンラ達も来ていたのか!」
ああ。やっぱり、いると五月蝿いわ。
「何か用かしら。アンタが来ると、むさ苦しいのよ。」
「ムン!所長から許可が降りたのだ。最近、元気がないから心配していたぞ。我と散歩に行かぬか?」
本当にこういう所は、お人好しよね。しかも、本気で心配してるんだから、たちが悪いわ。
「分かるぞ、他の者達が出所していって寂しいのであろう。さあ、出掛けようではないか。」
見当外れも甚だしいわ。でも…
「あ…」
「ムン?何か言ったか?」
「うるさいわね!で、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
思わず、ありがとうと言いかけたのは内緒だからね。
「ちょっと、どこまで連れていくつもり?」
「ムン!もう少しだ、もしかして疲れたのか?よかったら、我に乗る…」
「遠慮するわ!」
ハッキリ言うと、少しムンっと落ち込んでしまった。
「疲れてないわ。というより、吸血鬼弱体化処置もしないなんて、どうかしてる。私が何もしないとでも?」
ついつい憎まれ口を叩く。でも、あいつは何でもない顔で、首を傾げた。
「しないであろう。この前、同胞はおばあさんを助けてくれたではないか。しかも、初対面で、弱体化措置で気分も悪かったのに。」
腰に手を当てて、自信満々に言う。調子狂うわね、そうなのよ。こいつがその事を周りに言ったものだから、職員のおばさん達なんか、最近「アラネアちゃん」なんて呼んでくるのよ。
吸血鬼には畏怖欲ってのがあるのよ、気にして欲しいものだわ。
『アラネアちゃん、ゆっくりしてらっしゃい。』
『ゼンラちゃん、お願いね。』
さっきもそう見送られて、VRCを出てきたのよ。この前みたいに、首輪も着けてない…GPSもついてないなら、どこに行っても分からない。
そうよ、こんな奴放っておいて脱走すれば…
「ゼンラ!ゼンラ!」
肩でコゼンラが、声をかけてくる。だから、絵面が最悪なのよ。横を向いたら、尻が間近にあるっておかしいじゃない。
「何よ?」
コゼンラニウムが、お尻を上に向けて(?)振っている。上を見ろって事かしら?
「ムン!着いたぞ、同胞。美しいであろう?」
ずっと、考え事をしていて気づかなかったけど…上には満開のハナミズキが咲いていた。
「本当は桜の時期に連れてきたかったのだ。だが、桜は人間達で賑わってるから、同胞は落ち着かぬと思ってな。」
ほぅ…と見惚れていたのを、我に返る。そこまで気にしてくれるの、アンタだけよ。でも…アンタはお人好しだから、私以外にもこうなんでしょ?
『ねえ、聞いて。好きな人が出来たの。怖い顔で皆逃げちゃうんだけど、話してみるととっても優しくて、楽しい人なの!』
そう言って大好きだったあの人は、白とかいう人間の男の元に行ってしまった。私のものじゃなくなってしまった。アンタだって…寧ろアンタは皆のもの…なんでしょ?
「きゃ!?何すんのよ!」
急に耳元に手の感触がして飛び上がる。耳に何かをかけられた…これは?
「ムン、よく似合うぞ!同胞、この前の返礼だ。」
耳元に手をやる。そこにあるのは、一輪のハナミズキ。
「本当は我のゼラニウムをあげたいのだが、いつも同胞は怒るからな。こちらなら、喜んで貰えるかと思ったのだ。何より…」
ハナミズキの花言葉は、返礼だそうだな?
屈託のない顔で言うあいつに苦笑する。
そりゃ、股間に咲いた花を渡すから怒るのよ。当たり前じゃない。
それに、返礼なら私こそあんたにしなきゃいけないのよ…それに一瞬期待しちゃったわよ。
ハナミズキにはね、「私の思いを受け取って下さい」「私があなたに関心がないとでも?」の意味もあるの。
私に優しくしてくれるアンタに…何も思わない訳じゃない。返礼なんて、私こそアンタに渡したいぐらい。いえ…き、気のせいだわ。
「…あ、ありがとう。」
「ムン、気に入って貰えて何よりだ!」
仮に私が模範囚になって、出所できたとして…どうなるのかしら。
同胞喰いのアイナクは、大手を振って会いたい相手がいる、と言っていた。私にそんな人はいない。あの人は、とっくに家庭を持って幸せにしていると聞いたもの。
野球拳は家族がいるし、ここに来るのは金欠の時にタカりにくるだけだ。
Y談は退屈しのぎに来ているだけだ。
私を気遣ってくれるゼンラニウムはVRCの協力被験者で、彼の協力で有用なワクチン等が作られているのだ。彼はずっとあの施設にいるのに違いない。
ここを出たら、私はまた一人になってしまうの?
『同胞!元気にしているか?様子を見に来たぞ!』
そう言って、ゼンラニウムはまた会いに来てくれそうな気がする。いや、何を期待しているの?
やっぱり…私は研究に協力して、ここを出る気にはなれないのよ。
「そうね、貴女にはもっと落ち着く香りの方がいいんじゃないかしら?」
目の前の女性に、店で一番人気の香水を差し出す。お試しに軽く手首に吹くと、彼女は恥ずかしそうに笑う。その笑顔は、当時のあの人に似て可愛らしかった。
「そうですね。これをお願いします。」
ここは、吸血鬼向けも扱うコスメショップ。今の私の職場…勘違いしないでよね。あの所長の言うなりになって、VRCを出てきた訳じゃないわ。
『貴様のデータは、ほぼ全て取れた。もういる必要はないぞ。』
そんな雑な理由で、私の出所許可が降りた。無防備にも程がある。確かに、アイナクが言う様に、住むところから就職先まで世話をしてくれるのはいいけど。
『コスメショップの店員ですって?できる訳ないでしょ、その場で吸血事件でも起こしたらどうする気よ。客は皆女性なのよ?』
危ないとは思わないの?…そう言った私を、ゼンラニウムは笑って言った。
『蜘蛛の同胞は、やらぬよ。ここに来た頃と違うのだ。それに、元々ここにいた同胞が経営している店なのだ。近いから、我も時々見に行ってやれるぞ。』
疑いのないその笑いをやめなさいよ。そもそも来ないでよ。全裸の男が来る様な店じゃないわ。
そうよ。落ち着いたところで、今度はバレない様に…やれば…いい、のよ。
それから、1ヵ月。この仕事にも慣れてきた。正直、私好みの美味しそうな女性達が化粧品を買いに来る。食指が伸びそうにならない訳がない…でも。
『蜘蛛の同胞は優しいぞ、自信を持つがよい。』
脳裏にゼンラニウムが、ちらつくのだ。うるさいわね、買い被り…よ。
「ありがとうございました。明日のデートに使ってみます。」
「うまくいくといいわね。」
結局、今夜も黙って送り出してしまった。アイナクの奴も、真っ当に働いていると聞く。私もそうなるのかしら。
「ムン、蜘蛛の同胞!元気そうだな!」
「ゼンラ!ゼンラ!」
店に戻ろうとすると、後ろから声をかけられた。嘘…本当に来たの?
「ちょっ、ちょっと!アンタ、何してるのよ?」
肩に飛び乗ってくるコゼンラ達に手をやりながら、私はゼンラニウムを見返した。
「同胞の様子を見に来たのだ。それに、香水や美容液の材料を、店長に渡す用があってな。」
え…今、香水や美容液って言った?
「あら!?ゼンラちゃん、いらっしゃい!」
「ムン!店長、持って来たぞ!」
奥から、店長が姿を現した…まあ、コスメショップだから仕方ないの…かしら。若干、線が細くてオネエの吸血鬼だ。そんなに変態ではないわ。
あいつが店長に渡していたのは、ゼラニウムの花や種…まさか?
「助かるわあ、ゼンラちゃんのゼラニウムや種で作った化粧品や美容液。皆に喜ばれているのよぉ、いい匂いでお肌も艶々だって!」
「ムン!照れるな!皆の役に立って何よりだ。」
やっぱり、そうなの!?ショックなんだけど!あの子にあんたの股間に咲いた花で出来た化粧品、売っちゃったじゃない。
「しかも、その美容液…私も使ってる。」
も、もう考えるのはやめるわ…そうよ。ここはシンヨコなのよね。そう、考えたら負けよ。
彼らを追って店に戻る…その時。
「お母さん、こっちだ!」
「桃ちゃん、待って~。」
懐かしい声に振り返る。私の心に今もいるあの人の優しい声。
向こうの雑踏で、楽しげ走る二人連れ…あいつは。
「一緒にいるあの男は…そう。そうだったの。」
あのハムカツ男に捕まった時に、捕手の中にいたダンピール…あの人の息子だったのね。幸せ、なのよね。
私が、危険度Aの連続吸血事件の犯人だったなんて知られたくない。だから…まだ。
「蜘蛛の同胞?どうしたのだ?」
「…ううん、何でもないわよ。」
まだ、声はかけられない。心の整理がつくまでは。
「店長から聞いたぞ!お客からの評判もとてもよいとな。」
だから、言ったであろう?
屈託なく笑うゼンラニウムに苦笑する。でも、今はそれでいいのかもしれない。
「おっと、そろそろ我も帰らねば。蜘蛛の同胞、また来るぞ!」
「ゼンラ!」
だから、全裸のおっさんとお尻が来ていいところじゃないわよ。そう言ってもよかったけど。
「…ええ。またね。」
そうね。アンタは私のモノじゃないけど、私にも優しくしてくれる同胞で。
あんたと素直に話が出来る様になったら…もう一度、皆にも優しいあの人に…私は声をかける事が出来る気がするのよ。
私は、離れていく彼らに手を振った。今の私が素直に出来る、精一杯がこれだから。