お別れ会でなんやかんやあって決闘する話です。
↓お借りしたお子さん↓
・リールくん(@李空さん)
@haruhana425_p
四年生と短期留学生を送る為のお別れ会。決闘用に設けられた会場は自由参加の割になかなかの賑わいぶりで、みんな血気盛んだなぁと笑う。まあ、ここに居る自分も似たようなものか。決闘という手段でしか伝えられない想いもあるのだろうし、肉体言語でぶつかり合うのだって悪いことじゃない。
……とは言え、自分自身は特別闘いを挑みたい相手が居る訳でもなく単に他人の魔法を見学したいだけだったので、適当に歩きながら周囲に目をやる。隅の方に見知った姿があった気がして、通り過ぎた視線を少し戻した。盛り上がる生徒に紛れるようにして、薄らと黒い靄のようなモノを纏った背中がある。
近づいて後ろに立っても、こちらには気付いていない様子だった。いつも通り手に魔力を集めて振りかぶる。
「……ってぇ!」
ベシッ、と良い音がした。痛みに声を上げながら振り返った後輩ににこりと笑いかけて、引き続き彼の頭や肩を……正確には、そこに漂うモノをはたきおとす。
「おや、気付きもしないなんて珍しいねえ」
「そういう先輩は今日もお節介ですね!!」
明るい声でそう言いながら、リールはボクの手を振り払った。いつも通りの反応なので特に気にしない。相変わらず祓い甲斐があるなぁ、などと思いながらもう一度手を伸ばそうとしたところで、「おい、あそこでも決闘がはじまるっぽいぞ!」と誰かの声。どうやら、今のやり取りを見て何か勘違いされてしまったらしい。その声を聞いた生徒たちが集まってこちらに期待を込めた視線を向けてくる始末で、予想していなかった展開にちょっと呆けてしまう。
「これやらないと周り収まりませんよー!? も~先輩がこんなとこでやるからー!」
「おや、場所が悪かったかな……反省反省」
「絶対反省してないでしょー!?」
文句を言うリールに笑って返す。いや本当に、こんな隅とはいえ、あちらこちらで決闘が行われている場所でやるべきではなかったかもなぁ、と少し反省。でも、後輩に構う良い口実が出来たと思えば笑みも浮かぶ。
「まぁいいじゃないか、闘る建前を用意しなくて済んだ」
広いスペースへ移動しながらそう言ったボクにリールは何か言いたげだったが、結局は仕方ないという顔をして電子の刃を構える。
「あーもう! こうなったら仕方ないですね!!」
自分も媒体である指輪とローブに魔力を通して、迎え撃つべく構えを取った。
なし崩し的に始まった決闘だったが、気付けばそれなりの時間が経っている。互いに互いの弱点となる魔法を扱うことや、リールの身体能力が高いこと、そしてひとつとはいえ先輩としての矜持を守りたい自分の意地で、戦況はどちらに傾くともわからない様子だった。
振り下ろされた刃を袖で防ぐ。およそ布製のローブから聞こえるものではない硬い音が鳴り、衝撃で腕に痺れが走るが無視だ。距離を取ったリールの顔には、貼り付けたような笑みが浮かんでいる。
――その周囲に、薄らと黒い靄のようなモノが漂っている。大勢の生徒が居て悲喜交々様々な感情が交わるこの場では、確かに良くないモノも集まりやすいけれど。先ほど粗方祓った筈なのに、もう集まってきたのだろうか。それとも、祓いきれなかった分か? 彼が悪いモノを引き寄せやすい体質だということは知っているが、詳しい事情がわからない為に完全な対処をするのは難しい。……わかったところでボクの技量でどうにか出来るとは思わないけども。いつ見ても何かを憑けているものだから、ついお節介を焼いてしまう。
(……自己満足なのはわかっているんだけどね)
知ってしまった以上、放っておけないしおきたくないのだ、この後輩を。
さて次の攻撃の手は、と魔力を練りながら思考した時だった。向かいから舌打ちが聞こえて顔を上げる。瞬間、黒く昏い何かが集まりリールの身体に纏わりついた。その勢いと、色を失くした顔が覆い隠されて消えてしまうのを見て、咄嗟に練り上げた魔力そのままに腕を振り下ろしてしまった。
それをまともに受けたリールが、床に叩きつけられる。
「あ」
間抜けな声が自分の口から漏れたものだと気付き、後輩に叩きつけてしまった腕を見、倒れた相手を見、周囲の歓声を浴びながらどうしたものかと思案する。リールの身体に集まったモノの量とその濃さが今までの比でなく、あのままでは確実に良くない事になると直感が告げていた。だから反射的に祓わなければと思って、焦って、全力を叩き込んでしまったのであって。
「キミ、さっきのは……」
「…………あーあ! 俺の負けっすねー!」
先程見たモノについて聞きたかったが、それを遮るように殊更明るい声を上げながらリールが起き上がった。そこでようやく手を貸す事すら忘れていた自分に気付く。彼の表情は、もういつも通りの笑顔だった。
昏い淀みの向こうに見えた、荒んだ目は幻だったのかとすら思う。それでも確かに、そこには色を失った表情があったのに。
「ちょっと」
「流石にちょっとあちこち痛いから俺は保健室行ってきますね! あ、みんなは勝った先輩のこと好きなだけ称えてあげてねー!」
保健室へ行くなら一緒にと言いたかったが、勝敗の決着に盛り上がるギャラリーを煽るリールの言葉であっという間に囲まれてしまい、後を追うことも出来なくなる。人垣の隙間から去る背中を見送って、未だ震える腕をそっと擦った。