X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

七十億分の一の確率

全体公開 神無三十一受け 11 49 1871文字
2023-06-08 16:53:20

カルみと SS
シナリオネタバレあり

 

 世界には、七十億もの人間がひしめき合っているらしい。
 こうして神無が呼吸をしている瞬間にも、沢山の人がこの世界に生まれ落ち、そして死んでいくのだ。

 「それなら、どうして俺は俺である必要があったのかな。」

 ぽつりと呟いた言葉に縞斑は手元の端末へと落としていた視線を上げる。
 隣に座る神無は、独り言のつもりだったのか縞斑の方を見ないままぼんやりと付けっ放しのテレビを眺めていた。
 画面に報道されているのは、ニュースの後に掲載されているコラムだった。世界の人口や少子化、今後の世界の行く末を語りながら進んでいくその内容を眺めながら、神無は再び呟く。

 「俺は、だらだら先輩みたいになりたいなと思ったんだよね。」

 今度は独り言ではないのだろう。画面を見たまま伝えられたその言葉に、縞斑は手の中の端末をソファへ置いた。

 「へぇ。」
 「驚かないんだ。」

 膝を抱えた神無は、画面から視線を外さないままそう問い掛ける。縞斑はそんな神無の頭に手を置き、軽く撫でながら口を開いた。

 「俺も、君みたいになりたいと思ったことがあったからね。」

 初めて出会ったとき、自分に持っていないものを持った人間だと思った。誰からも愛される人懐っこい笑顔を持った、優しさと迷いに溢れる神無は、本来縞斑にとって相容れない存在だったのだ。
 それが今、どういう巡り合わせか仲良し以上の関係になって隣り合って座っている。
 神無が自分の余計だと思う部分は、縞斑にとっては欲しくて堪らない失ってしまった部分だ。それと同じ感情を神無も抱いていたことには少し驚いたが、疑問を抱くことはなかった。

 「思ったことがあった?」
 「うん。」
 「……今は?」

 今は、俺になりたいと思ってないの?
 神無はそう呟くと、抱えた膝に顔を埋める。神無三十一という存在を誰かに望まれるのは、神無にとって自分の存在理由を認められることと同じだった。
 今は神無になりたいと思っていない、その言葉を暗く受け止めたらしい神無が黙り込む様子を見つめて、縞斑は口を開く。

 「今は、俺が縞斑狩魔で良かったなって思ってる。」
 「……。」
 「絶対君には出来ないことが、俺には出来るからね。」
 「なんだよそれ、」

 ようやく伏せていた神無の顔が上げられた。少しだけ不満を表すように唇を突き出して縞斑を見上げる紫の瞳。自分の瞳と視線が絡んだことに縞斑は機嫌良く笑うと、彼の髪を撫でながら言葉を続けた。

 「神無ちゃんの恋人でいること。」
 「な、」

 縞斑のことをじっと見上げて瞳が見開かれて、赤い小さな唇がふるふると震える。
 美味しそうだなと考えた縞斑は、ついと顎を掬って呆けるその唇に唇を重ねた。彼が先ほど食べていた、クリームタルトの甘い味がする。
 途端、神無の顔色が一気に真っ赤に変わっていく。その様子を縞斑が思わず声を上げて笑うと、神無は慌てて膝に顔を埋めて隠してしまった。
 隠しきれない真っ赤な耳の端を縞斑が突けば、埋めた膝の隙間から不満げな唸り声が漏れる。

 「んぐぐぐぐ
 「はは、すごい声。」
 「……なんでそういうこと、さらっと言えるんだよ。」
 「君が会話振ったんでしょ。」

 もごもごと呟かれた批判に言い返して、縞斑は神無の前髪に唇を落とす。伏せていてもその仕草を感じ取ったのか、ますます赤くなる耳は熟れた果実のようだった。
 さすがにこれ以上照れていることを指摘をしたら不貞腐れてしまうだろう。縞斑はそう考えて口を閉ざすと、根気強く神無が顔を上げるまで頭を撫でる。


 「……じゃあ俺も、神無三十一がいい。」

 ようやく顔を上げた神無が、そう呟く。
 撫でていた手を止めてその顔を覗き込めば。

 「俺に出来て、だらだら先輩には絶対出来ないことがあるから。」

 神無はいつも通りの眩しい笑顔でそう言った。
 彼には笑顔が似合う、その笑みに何度背中を押され救われてきただろうか。それを独り占めできることも、自分が縞斑狩魔に生まれたからこそだと縞斑は改めて幸せを噛み締めた。

 「良かったね、君が神無ちゃんで。」
 「うん。俺も、あんたがだらだら先輩でよかったよ。」

 くすくすと笑いながら二人はそう繰り返す。
 いつのまにか繋いだ手と、預けあった肩から伝わる心地よい熱に身を任せて、縞斑はそっと目を閉じた。

 七十億分の一の確率で、たまたま出会って重なった二人の時間は、今日も穏やかに過ぎていく。



投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.