成立後のΔドラヒナで前提で、みっぴきのお話です。というより、お父さん代わりの隊長が、残業で帰って来なくて、寂しがるロナルドくんをヒナイチくんが面倒見てあげるお話になりました。
暖かくなってきて、きっとシンヨコは忙しくなってくるよね、と思って書いた記憶があります。このお話を書いた時点では、ベッターを書いている6月に自分がスズメバチ退治をするとは思っていませんでしたね。確かに、この時期は女王しかいなかったわ。
新書ページだと上手くページが切れなかったので、省略していた『ヒナイチくんが、ロナルドくんと夜二人っきりでいた』事にモヤる隊長を追加しました。
2023/04/27に上げました。
@kw42431393
「ひゃっほー!出動だ!出動だ!」
やっぱり温かくなってくるといいよな。下等吸血鬼は、元々昆虫とか植物だった奴らが多い。だから、冬場はどうしても出動が少なくなる。俺の出番が少なかったって訳…もう、退屈で退屈で。
ブブブ!
後ろから五月蝿い羽音が迫ってくる。ゾクゾクする、1、2、…5匹か。でも、そんなのこの畏怖い『死を知らぬ男ロナルド様』の敵じゃねえ。
あ~、でもその渾名は、微妙だな。死んで甦る事さえ出来ないんだからさ。
「ロナルド、はしゃぐんじゃない!私とお前は、吸血スズメバチ達の誘導だ。間違えるなよ!」
右前を軽やかに先導する赤い影…ヒナイチにを釘を刺されちまった。チームΔでも、ダントツで強くってよ。大侵攻の時にこいつと戦ったの、すっげえ楽しかったんだよな。
『5歳児のお守りをすまないね、ヒナイチくん。2時の方向に多数確認していたのだ…恐らく営巣しているのだろう。ミカエラくん達が市民の避難を終えるまで、君達は働き蜂を反対側に誘導してくれ。』
耳につけたマイクから、司令塔のドラルクのお小言が聞こえてくる。分かってるって、ガキ扱いしないでくれよな。
「「了解!」」
まあ、そういう事。ここで倒しちまってもいいんだけどさあ、市街地だから駄目だってよ。吸血鬼化した蜂も結構デカイから、危ないんだと。
『半田くんとサギョウくんは、巣と女王蜂の捕獲を頼む。数は私も確認しているが、そちらでも確認を頼む。』
『心得た。ロナルド!後で、そっちへ行くからな!首を洗って待っていろぉ!』
『分かりました。ロナルドさんが向こうだから、先輩も羽目を外しません。楽なもんです。』
程なくして、俺とヒナイチは川原まで奴らを引き寄せて、倒した。塵も川に流したし、半田とサギョウが女王蜂をVRCに送ったらしい。
「何故駆除しなかったのだろうな?」
ズズメバチが営巣していたマンションに合流した俺達は、VRCの車を見送りながらダベっていた。
「ドラルク隊長からの指示でな、この女王蜂はおかしいと言うのだ。」
「何がおかしいんだ?やたら強かったとか…ってヒャバーッ!」
急に目の前に現れたセロリに、飛び上がる。ついでに、変な声まで出たじゃねえか!
「フハハハ!油断したな、バカめぇ!」
涙目の俺に追い討ちをかけて、セロリを振りながら半田の奴がゲラゲラ笑う。セロリだけはダメだって、言ってんだろ。
「やめないか、半田。で…なんだって?」
俺は、ヒナイチの後ろに隠れた。本当にセロリは危険なんだぞ、半田。なんでいつもお前は、持ち歩いて俺を苛めるんだよ。
「繁殖力が異常な可能性があってね。」
「ヌーヌー。」
「あっ、隊長。それにジョンも。」
マンションの中から、ドラルクが姿を現した。肩にジョンも乗っていて、手を振っている。
「繁殖力って?女王蜂の?」
「つまりだね。スズメバチは、まだこの時分だと働き蜂がいないのだよ。女王が一匹で営巣し、子育てをしているはずなのだ。それが…」
「5匹も働き蜂がいた…と?」
ヒナイチがドラルクを、見上げる。ドラ公もうなずき返しながら、話を続けた。
「その通りだ。少し前から、このマンションの気配はおかしいと思っていた。多すぎたのだ。だから、カズサくんとゴウセツさんと打ち合わせをして、やっと合同で捕獲に入ったという訳だ。」
「で、どうなんの?」
なんか難しい話になってきたな。つまらなそうだし。
「まずは検査待ちだ。これから、私は署へ打ち合わせに行ってくる。あの女王蜂の姉妹に当たる他の女王蜂を探さなければ…。」
「それもまた、繁殖力が強い可能性がある。そうだな。」
マスクをずらして、半田も軽く鼻を動かした。ヒクヒクと音が鳴る。
「おっ?まだいんのか?」
そうだと、また面白いんだけどな。
「馬鹿め!同じ場所に巣を作る訳がないだろう。臭いを覚えておこうと思ってな、姉妹なら気配臭も似ているかもしれん。」
ああ、そういう事な。また、出動あんのかな。あるといいな。
「君達は、先に帰っているといい。私は打ち合わせのあと、報告書もあるし、上に調査の許可も貰わねばならん。日付を股越えるだろう。」
「ヌイヌイ。」
そっか、今夜はジョンもドラ公と一緒か…寂しいな。俺の使い魔のメビヤツもいてくれるし、ドラルクの家にはゲームとか映画も揃ってる。
暇はしないんだけど…何だろうな。兄貴が親代わりをしてくれたし、妹とも仲よかったから、寂しいってのは今までなくってさ。
そう言うと、メビヤツも首を傾げてる。俺にも分かんねえ。
「ロナルドくん。」
「お、おう。」
急に声をかけられて我に返る。さっきまで眉間に皺を寄せていた顔が、ふっと綻んだ。
「冷蔵庫に、好物のオムライスと唐揚げが入ってる。チンしてお食べ。サラダも残さず食べ給えよ。」
そんな顔すんなよな、ガキじゃねえし。何だよ、親父みたいな…顔しやがって。
「じゃあ、私達は先に帰る。隊長…」
今度はヒナイチが、背を向けるドラルクに呼びかける。泣きそうな顔をして…うん、そうだよな。
「無理はしないでくれ。最近、それで帰りが遅くなってたんだろう?」
うん、俺も心配してた。お前、体強くねえしよ。ヒナイチだって、心配してんだ。早く帰って来いよな。
俺もみっぴきでいる時が、一番楽しいんだからよ。
「なあ、ヒナイチ。」
ロナルドに声をかけられて、私は振り返った。もうすぐ、ギルドに…私の家に着くこのタイミングで。
「どうしたんだ、ロナルド。」
口ごもるあいつを覗き込む。出動命令が出た時は、「やっと仕事が来たぜ!退屈で死にそうだったから、助かった!」とはしゃいでたのに…帰りは何だか静かだった。
「ん~、なんつーか。」
頭をガリガリ掻きむしる仕草…こうして見ると、ロナルドは普通に美青年だと思う。私が好きな人はドラルク隊長だから、ときめく事はないのだが…これで年相応に大人だったらファンもついただろうな。
「どうしたんだ、さっきから静かだな。」
実は、なんとなく察しがついている。隊長がいない家に帰るのが、寂しいのかもしれない。あの大侵攻の後、大勢の人の協力と、麻酔弾と時間をかけてこの男は、確保された。
不死身で、力も超一級で、実は真祖の血を引いているのではないか、とまで言われている男だけど…
『兄貴みたいな、畏怖い吸血鬼になるんだ!』
キラキラした瞳で、本気でそんな事を言うロナルドを、吸血鬼対策課は危険度が低いと判断した。今や吸対の備品として、彼は隊長と行動を共にしている。
だから、本当は吸対の一室を宛がってやれば事足りるはずなのだが、隊長は彼を毎日自分の家に連れて帰る。
「朝起きたら、ロナルドくんのお遊びで、署が破壊されていた…なんて事になっては洒落にならないからね。」
苦笑いしながら、隊長は私に言ったけど…私もなんとなく知ってるんだ。
『ここにいると飯は旨いし、騒ぎに事欠かないし、退屈しねえんだよな。』
『ああ、そうかね。私は君が来てからクソゲーする時間が、さらに削られて困っているのだよ。全く。』
憎まれ口を叩きながら、私とジョンとおやつを食べているロナルドを見る、あの人の目は優しかった。
あの時、大侵攻に関わった他の吸血鬼達は、普通に市井で生活している。考え様によってはロナルドだけ、吸対の備品として監視下にあるのだ。彼は気にしていないが、勝手に行動する事は許されていない。常に吸対か退治人の誰かと一緒に行動する事になる。
『それって…俺が監視が必要な程、畏怖い吸血鬼って事でOK?』
ウキウキした様子で聞いてきた彼にため息をついたのは、いつの事だったか。
そのずば抜けた戦闘力が、関係しているのだが、隊長が嫌っている本部長の思惑による所もあるらしかった。
『あの男に情を移し過ぎだ。何だ、父親にでもなったつもりか?奴は手駒として、うちに置いている備品だろう?あのお方の悲願を果たす為の…』
『喧しい、このクソヒゲ!お祖父様と彼は関係ない!あの子は、あんたが押し付けたんだ!今更、ロナルドくんをどうこう言う権利は、あんたにはない!』
いつだったか、隊長を探して喫煙所に向かう途中で、本部長と喧嘩をしている所を見てしまった事がある。その時の隊長は、本気で怒っていた…本気でロナルドを大事にしていると分かって、私も嬉しかったのを覚えている。
どうも分かりかねるが、たぶん隊長はその何か反発して…監視対象としてでなく、一人の吸血鬼として彼を扱っている様に私には見えた。それが、いつの間にか彼らを親子の様な間柄にしているのだと思う。
私もそこの一員で、私達は署の隊長室で、そしてあのマンションで、家族の様な関係を築いていたのだ。
「帰っちゃうのか?明日、お前休みだからさ…泊まってってくれるのかなって、実は期待してたんだよ。」
だって、最近そうじゃん…と泣きそうな顔で続ける言葉は、爆弾ものだった。
でも、確かにそうだった。少し前から、私と隊長はつき合っているのだ。そして、成人してからは…その…関係もある。兄も外泊を許してくれる様になったから、私が休みの前日と隊長が非番の前日は、隊長の家に泊まっていく事が増えた。
鍵っ子みたいな顔をするな、お前は私より年上じゃないか。
困った事だ、けれども悪くはない。思わず、幼子にする様に頭を撫でてやりたくなる。
『なんというか、すまないね。こぶつきのやもめ男につき合わせている様で。』
だから、なかなか二人っきりになれるタイミングが少ない。隊長は、そこを気にしてくれていた様だった。
『いいんだ。色々あったが、ロナルドもいるこの時間が一番楽しい。』
『ヌン!ヌン!』
『どうしたんだ?何の話?』
『…君のせいで、なかなか進まないって話。』
「…悪ぃ、気にしないでくれ。じゃあ、またな。」
空へ飛び出とうとする彼をひき止める。そうだな、寂しいよな。
「ううん、そのつもりだったんだ。待っててくれ、家から着替えを取ってくる。」
振り返ったあいつは、輝く様な笑顔をしていた。頭を撫ではしないが、軽く肩をポンッと叩く。そのまま、あいつを置いて家に向かった。
私は子供っぽくて、まだお前のお母さんにはなってやれないけど…
「おうよ、待ってる!」
大事な家族になってやれる事は、出来ると思うんだ。
現時点までで分かったVRCの検査結果の受け取り、カズサくんとゴウセツさんとの打ち合わせ、報告書の作成…「まあ、いいだろう」と聞きたくもない本部長の許可を得た頃には、深夜の3時を回っていた。
「はぁ…」
帰りの途上で息を吐くと、こめかみを押さえる。少し前まではこの程度でも動けたのだけど、30を越えるとさすがに堪えるな。
ドラルク様、大丈夫かヌ?
「ん…大丈夫だよ。あとは、明日ギルドへ行って、再度打ち合わせを。おや?」
私のダンピールとしてのセンサーは、優秀だ。だから、街中に住む吸血鬼達、潜む下等吸血鬼達の場所だけでなく、姿や声まで拾ってしまう。市民を守る為には必須能力だが、ただでさえ疲れている時には、さらなる頭痛の種になる。
ドラルク様、ほどほどにしとくヌ。
「アハハ…職業病だねえ。」
だから、多少でも気になる反応に気づくと、懐の手帳に書き込んでおく。日時と場所、似顔絵や特徴を…後で事件が発覚した時に、参考になるかもしれないからね。今回もそうだった。帰宅途中に気づいて、メモした所を昼間に捜索して今回の流れになったのだから。
「あの女王蜂の姉妹らしい反応は、今のところは感じられない。経過観察で済む事を祈っているよ。」
幼い頃から共にいるジョンと話している内に、やっと我が家に辿り着いた。ほっと吐息が漏れる。本当ならヒナイチくんが泊まりに来て、翌日の出勤前まで一緒に過ごせる予定だったのに…私がいないからそのまま家に帰っただろう。そう思っていたのだが…
「あれ?」
玄関を開けると、見慣れた女物の靴がロナルドくんの靴と並んでいた。
「え…?ヒナイチくん、来てるの?」
元々、ヒナイチくんが泊まりに来る日だったヌけど。
みっともないが、かなり動揺した。だって、ロナルドくんと二人っきりだよ?確かに彼は5歳児だ…それは『あくまで』精神年齢なのだ。体は立派な成人で、黙っていれば読モレベルの美男子なのに?
「お~!ドラルク、おかえり!」
いつもの無邪気な声が、私を出迎える。いつもなら「ご近所迷惑だから、静かにしなさい。」と嗜める所だ。しかし、今回はその余裕がなかった。
「あ、ああ…ただいま。」
センスのない赤い柄つきパジャマのお子様は、そろそろ寝る用意に入っている。もう、5時半だったのだ。
「ヒナイチ、来てるぜ。」
「…知ってる。」
知らず、ムスッとした顔を背けた。たぶん、今の私は酷い顔をしているだろう。
「ヒナイチくんは?」
あぁ、今回ばかりは君に出迎えて欲しかったのに。そして、安心したかったのに。
「ん?さっき寝ちゃった。お前の朝飯作ってたぜ。『帰った頃には、夜食と朝食のどちらか分からないだろうから』ってさ。」
「…そう。」
「一緒に朝食食べたいからって、ずっと待ってたんだけどさ。疲れて寝ちゃったんだよ。お前のベッドに寝かしてきた。」
「…。」
さっさとシャワー浴びて行ってやれよ、そう言って、彼は棺桶に戻っていった。
ドラルク様、疲れてるんだヌ。また、10時には署に行かないとだから、少しでも休んでくるヌ。
「…そうするよ。情けない所を見せて、すまないね。」
カーテンの隙間から朝日が差し込んで、彼女の寝顔を照らしていた。起こさない様に、私はそっと隣に潜り込む。そして、額にキスをした。
「…ぅ…たい…ちょう。」
起こしてしまったかと心配したが、そんな気配はなさそうだ。眠っているのをいい事に、自分の胸の中に囲い込む。
「すぅ…すぅ…。」
「…ヤキモチ妬いて、ごめんね。」
本当は知っていたはずだ。幼い頃に、私を初恋の相手に選んでくれて、ずっと追いかけてくれた君の事は。
父親役の私が残業続きで、家で寂しがっていたロナルドくんの面倒を、見ていてくれただけだって事は…。
「う…?隊長?」
寝ぼけた顔がこちらを向いた。罪悪感を隠したくて、強く抱き締める。
「あぁ…。」
「おかえりなさい、どうしたんだ?」
「……。」
「ん?何て言ったんだ?それより、朝御飯もう出来てるぞ。」
「少し…眠ってからでもいいかね?君と一緒に食べたい。」
勿論だ…そう続けてくれた君の肩に顔を埋めた。私の大好きないい匂いが、さらに眠気を誘う。
「何だ?隊長も甘えん坊か?」
「ん…そんな気分だねえ。」
こんな事では、君と所帯を持った後が思いやられる。しっかりしなければとは、思うのだけれど。
「ウフフ、仕方ないなあ…。」
背中に回される暖かい手と、鈴を転がす様な忍び笑いに安心して、私の意識は落ちていった。