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箒星を探して

全体公開 62 10034文字
2023-06-24 16:03:03

天文部のふたりがいたらかわいいなっていう勢いで書いたぜんねず。高3×高1です。
1、2ページは既に公開済みのもので、3ページ目が新しく書いたものです。プチオンリーではまとめて一冊にしたものを無配にしてます。

『箒星』


午前二時。
腰に提げたラジオの音を聞きながら、待ち合わせ場所の踏切に向かった。予報は晴れ、気温も良し。今から準備すれば明け方に充分間に合う。担いだ望遠鏡が重く感じる。禰󠄀豆子ちゃんは来てくれるかな。こんな時間に待ち合わせをするなんて、お母さんに怒られなかっただろうか。
禰󠄀豆子ちゃんが走ってきた。なんだか荷物が多い。
「すみません!遅くなって」
「俺も今来たとこだよ。荷物多くない?なんか持つよ」
「え、あ、でも、先輩は望遠鏡持ってますし」
「これくらいなら平気。少し歩くから軽くしておきなよ」
荷物を担ぐと歩き始める。星を見るために、見晴らしのよい小高い丘を目指す。

「禰󠄀豆子ちゃん、お母さんに、というか炭治郎に怒られなかった?」
「怒られると思って、こっそり抜け出してきました」
驚いて振り返ると、悪戯っぽく笑っていた。うう、可愛い。トスッと何かが刺さった気がする。
「だって、せっかくの彗星と流星群なのに、反対されて見れないなんて悲しいじゃないですか」
「そうだけど……
「大丈夫です、家族は私が朝ずっと寝てると思ってるから、いなくても不思議じゃありません」
「禰󠄀豆子ちゃんを朝帰りさせるなんて、炭治郎にバレたら頭突きじゃ済まなさそう」
「朝帰り……
あ、やらしいつもりで言ったんじゃないんだけどな。目を輝かせてるのがまたかわいい。確かにワクワクするよね、こんな時間に出かけて朝帰りなんてさ。

こんな風に夜中に天体観測に出るのは初めてだ。夜中に抜け出す必要があるけど、これはれっきとした天文部の部活。二人しかいないけど。廃部寸前だったところに禰󠄀豆子ちゃんが入ってくれて、細々と続けている。
今年観測された彗星と、流星群も見られるかもしれない絶好のチャンスだった。明け方がベストだから、キャンプするかこの時間に少し歩くしかない。俺は慣れてるからいいけど、禰󠄀豆子ちゃん大丈夫かな。担いだ望遠鏡と荷物が、ずっしりと肩にのしかかって感覚もなくなってきた頃に目的地に着いた。口数の少なくなっていた禰󠄀豆子ちゃんが安心したのか、はしゃぐように野原に寝そべる。
「天文部って、思ったより体力いりますね」
「うん。体育会系じゃないけどそこそこ体力いる方だと思うよ。疲れた?」
「いえ、大丈夫です!これからが本番ですよ!」
ムン!と気合を入れて起き上がった禰󠄀豆子ちゃんが荷物を解く。まず出したのは星座早見盤。俺みたいに元々天文オタクではない彼女は、天文部に入ってから少しずつ覚えている。でもなんで天文部入ってくれたのかな。不思議で仕方なかった。
それから取り出したのは小さなヤカンとガスバーナー、インスタントコーヒーにマグカップふたつ。
「見てくださいこのちっちゃいヤカン!ホームセンターで見つけてかわいくて!つい買っちゃったんです」
「マグカップでっか!」
ヤカンに対してマグカップがでかい。たぶん家にあるのを持ってきたんだろう。何回湯を沸かすつもりなのか。笑い出すと、あっと気がついたのか恥ずかしそうにしてる。かわいすぎ。
「もう!笑わないでください!」
「あはは、ごめん。俺のも使おうか」
湯沸かしはちゃんと持ってきていた。めんどくさがりだから普段は紙コップしか使わないんだけど、せっかくだからマグカップを借りる。
禰󠄀豆子ちゃんが湯沸かしに奮闘する間、望遠鏡をセットする。明るい星なら肉眼でもある程度見えるけど、禰󠄀豆子ちゃんにも見せたい。なかなかない機会だ。
「禰󠄀豆子ちゃん、おいで。覗いてごらん」
禰󠄀豆子ちゃんが望遠鏡を覗くと、うわぁ!と感嘆の声が上がって嬉しくなる。箒星と呼ばれるだけはある。肉眼ではわからない、箒のような部分が見える。
「すごい!こんなに見えるんですね!」
「うん。彗星はね、尻尾がホウキみたいだから箒星とも呼ばれるんだって」
「すごい、綺麗」
禰󠄀豆子ちゃんの新鮮なリアクションに嬉しくなってしまう。重かったけど持ってきて良かった。他にもいろいろ覗きながら解説する。こんなに誰かに星の話を聞いてもらえるのも嬉しくて、つい喋ってしまった。

並んで座って、禰󠄀豆子ちゃんが淹れてくれたコーヒーを啜る。禰󠄀豆子ちゃんはさっきの元気はどこへやら、縮こまってなんだか眠そうにコーヒーをちびちび飲んでいる。子供みたいでかわいい。
「禰󠄀豆子ちゃん、寒くない?」
……寒いです」
「夏の夜とはいえ冷えるからね。これ使っていいよ」
「あ、ありがとうございます」
予備に入れてあった薄手のパーカーを渡すと、ちょっと悩んでから羽織っていた。袖が余ってぶかぶかのパーカーをかぶりながら「あったかい……」って呟かれるのは、ちょっと精神衛生上よろしくない。健全な男子高校生なので。
左側に座る禰󠄀豆子ちゃんとの間には、絶妙な距離感があった。肩は触れそうで触れない、手を少し伸ばせば届く。体の左側だけ熱い気がする。沈黙がくすぐったい。禰󠄀豆子ちゃん、やけに静かだな。
「禰󠄀豆子ちゃん?」
ことん、と首が俺の肩に乗る。ね、寝てる!確かにこんな時間だし歩いてきて疲れてるし眠いよねぇ。流星群までは寝かせておこう。風に吹かれてパーカーがかさかさ音を立てる。ふるっと震えるのを見て、自分の上着をもう一枚追加してあげる。安心したように寝息を立てる姿がかわいい。いつまでもこの夜が終わらなければいいのに、とさえ思ってしまった。




『皆既月食』


皆既月食に惑星食が重なる442年ぶりの天文ショーとなれば、天文部でなくともそのレア度に多くの人々が色めきだった。まだ人々が起きている早い時間に見れるということもあり、ダメ元で天文部顧問にあるお願いをしてみた。
「学校の屋上を?今度の月食の日にか?」
「はい。時間も早いし、部室から望遠鏡を運ぶだけで済みますし、解放してもらえないかなーなんて」
「部活だろう!いいぞ!手続きしておこう!」
「あっ、ありがとうございます!」
職員室中に響き渡るデカい声で、煉獄先生が快諾してくれた。つられてデカい声で返事をして、頭を下げる。ダメって言われると思ってたからビックリした。いい人だなぁ。天文部を作るときに顧問が必要だったから、一年の頃に担任だった煉獄先生におそるおそる聞いてみたら二つ返事で『いいぞ!』って言ってくれた。誰か顧問やってくれそうな先生を紹介してほしい、って言うつもりだったのに。それ以来こうしてたまに相談すると、だいたいなんとかしてくれるから驚いてしまう。

煉獄先生のおかげで、月食の夜は部活のために屋上の使用を許された。そのことを禰󠄀豆子ちゃんに伝えると、大きな瞳をキラキラさせて喜んだ。星みたいだね、ってちょっと言いそうになったけどやめた。
「うわぁ、夜に学校残っていいなんて、しかも屋上で月を見るなんて!ワクワクしますね!!」
「そうだねぇ、なかなかできないからね」
「何持ってこようかなぁ〜、我妻先輩ごはん何食べます!?」
「ごはんかぁ、考えたことなかったな。1人の時はカップラーメンくらいしか食べないから」
「そうなんですか?もったいないですよ!せっかくだから任せてください!」
ムン!と腕まくりしそうな勢いの禰󠄀豆子ちゃんに思わず笑い出す。

皆既月食当日。授業が終わってから一度家に帰った禰󠄀豆子ちゃんが、やたら荷物をたくさん持って部室に戻ってきた。日が落ちかけた部室の電気を点けると、いつもと違う雰囲気にソワソワする。
俺のアドバイス通りにあったかそうな格好をした禰󠄀豆子ちゃんが、タッパーやら食器類やらいろんなものを引っ張り出してきた。だいぶ重そうだな、帰りは荷物持ちで送っていかないと。
「どうしたの、それ」
「カレー作ってきました!食べましょう?」
「カレー!?うわ、いい匂い!」
まだ何かありそうだ、ちょっとドヤ顔してるのがかわいい。じゃーん!と言いながらもうひとつタッパーを出して開けてくれる。
「なんと、ハンバーグもあります!」
「えっ、作ったの?」
「はい、さっき焼いてきました」
「わ、美味しそう!」
禰󠄀豆子ちゃんの手料理が食べれるなんて、部活やっててよかった。学校でハンバーグカレー食うのなんて、人生で最初で最後だろうなぁ。ウキウキしながら二人で屋上に荷物を運んでいく。

日が落ちて一気に冷え込んだ屋上に、望遠鏡と食べ物を持ち込んで座り込む。ほかほかのカレーとハンバーグを禰󠄀豆子ちゃんがよそってくれたので「ありがとう、いただきます」と手を合わせる。スプーンを持つと、あっと呟く。
「ニンジンが星の形だ」
「ふふ、気付きました?弟たちがくり抜いてくれました」
「みんなお手伝いするんだね、偉いなぁ」
「こういう楽しい仕事は取り合ってやりますよ」
想像してちょっとなごむ。ぱく、と一口食べて「美味しい!」と禰󠄀豆子ちゃんを見ると、じっと見つめられていたみたいだった。急に緊張して、喉に詰まりそうになったのをごくん、と飲み込む。ハンバーグも小さく切って、カレーと一緒に口に入れる。めちゃくちゃ美味しくて、つい顔が綻ぶ。
「うっっっま!!」
「ふふ、よかったです」
禰󠄀豆子ちゃんもスプーンですくって口に運ぶ。一口がちっちゃくてかわいい。ニコニコしながら美味しそうに食べるところを、まじまじと眺めてしまった。
「あっ、もう欠けてきてますね、満月」
「ほんとだ」
見上げると、ぽっかり浮いた満月の左下が欠けてきていた。カレーを置いて、望遠鏡の位置を調整する。
「綺麗ですね、いい天気でよかったです」
「そうだね、俺の天文部最後かもしれないからねぇ」
「最後……そう、ですね」
俺は今年で卒業する。こうやって、後輩の禰󠄀豆子ちゃんと一緒に活動できるのもこれが最後かもしれない。来年はどうするんだろう。もし来年後輩の男が入ってきたりしたら、禰󠄀豆子ちゃんは同じようにごはん作ってあげたり深夜に待ち合わせて星を見に行ったりするんだろうか。そう考えると、まだ存在すらしていない未来の部員に苛立ってしまう。そういうことするの俺とだけにして欲しい、なんてワガママすぎるよな。彼氏でもあるまいし。スプーンを置いてちょっと俯く。
「禰󠄀豆子ちゃんは、さ」
「?」
……来年、誰か後輩が入ってきたら……その、今日みたいに……同じように、する?」
えっ」
「カレー作ってきたり、夜中に一緒に丘に登って星を見たり……
きょとん、とした禰󠄀豆子ちゃんが俺を見てから、視線を外す。薄いピンクのかわいい唇が、小さく動く。
……私は

「やあ少年!月は見えているか!!」
バターン!と豪快に鉄扉が開いて、煉獄先生が入ってきた。ギョッとして二人で振り向くと、ガスコンロと鍋を抱えた煉獄先生と、食材らしきスーパーの袋を提げた宇髄先生がいた。なんでアンタがいんの!?明らかに嫌そうな顔をした俺を見て、現担任の宇髄先生がニヤニヤした笑みを浮かべている。
「おい煉獄、今ものすごいタイミング悪かったんじゃねぇか」
「そうか!?すまない!出直そう!!」
「いやもう遅ぇから!見てみろあの善逸のツラ」
「む!いい匂いがするな!カレーか!?」
「食欲のままかよ!んじゃ、こっちも始めるか」
この二人、仲良かったんだな……あっけに取られているとゴソゴソと何やら準備し出した。えっ、嘘でしょ!?
「ちょ、教師が屋上で鍋すんの!?」
「ああ?地味なこと気にすんじゃねぇよ」
「せっかく月が綺麗だからな!天文部顧問として一度見てみたいと話したら、宇髄が準備してくれたんだ」
「なんで月見るのに鍋の準備!?」
このまま鍋パでもされたら禰󠄀豆子ちゃんとのいい雰囲気台無しじゃん!こちとら最後の機会なんですけど!?そんな俺をよそに禰󠄀豆子ちゃんは楽しそうにニコニコしてる。
「そうだったんですね!先生達もカレー食べますか?」
「いいのだろうか!ぜひいただこう!」
食べるのかよ。宇髄先生がコンロに火をつけると、鍋の素をパーン!と鍋に入れて、具材をボチャンとぶち込んでいく。擬音がいちいち派手だな。煉獄先生はちょっとキラキラした顔で、禰󠄀豆子ちゃんにカレーをよそってもらっていた。キャンプに来た小学生かよ。
「うまい!うまい!うまい!!」
「いやぁ、鍋もいいけど米がやっぱり欲しいよなぁ。カレー美味いな」
「ふふ、お鍋も美味しそうですね」
「おうよ、そろそろ煮えるぜ。お前らも食うだろ?煉獄、皿取ってくれ」
「うむ!肉を入れてくれ!」
俺が言うのも何ですけど、男子高校生みたいな食べ方しますね」
「そうだな!教師は体力が何より重要だからな!ほら、君もたくさん食べなさい」
「多いです」
わいわいしながらふと夜空を見上げると、もうほとんど月が欠けて赤みがかってきていた。皆既月食の始まりだ。
「あっ、もう月食始まっちゃう。禰󠄀豆子ちゃん、これ見てみて」
禰󠄀豆子ちゃんを手招きすると、望遠鏡を譲る。
「うわぁ、綺麗!」
禰󠄀豆子ちゃんが望遠鏡を覗きながら感嘆の声を上げる。教師二人の視線が背中に刺さってる気がするけど、気にせず続けることにする。
「左下の小さな星が天王星ね。これがどんどん月に近づいて、そのうち見えなくなるの」
「これが珍しいんですか?」
「皆既月食中にこの惑星食が起きるのは珍しいんだよ。皆既月食も惑星食も数年に一回あるから、それ自体はそこまで珍しくはないんだけどね。重なるのは442年ぶりだってさ」
「よんひゃくよんじゅうにねん!?」
わぁ〜かわいい。もともと大きな瞳がさらにまんまるになって、キラキラ輝いている。自分の好きな話でこんなに楽しんでくれるかわいい女の子、うっかりすると俺のこと好きなんじゃないかって勘違いしそうになる。違う違う違う思い上がるな!とブンブン頭を振ると宇髄先生に見られていた。ニヤニヤ笑うんじゃねえ!と禰󠄀豆子ちゃんに聞こえないように低く唸る。
「難儀な奴だなぁ、お前」
「どういうことですか」
「ド派手に言っちまえばいいじゃねえか」
「なっ……!」
「どうせお前三年だろうが、もしフラれても卒業すれば後腐れないだろ」
「それが嫌なんですううう!!俺のいないところで変な虫がついたりしたら……っていうか生徒のそんなことにいちいち首突っ込まなくていいでしょお!?」
ケタケタ笑いながらビール飲んでる。ダメ教師が。
「いやー、楽しいから」
「少年、悔いのないようにな!一生に一度きりの高校生活だ、何か手助けが必要なら遠慮なく言うといい!」
「いや、手助けは必要ないんですけどね!?」

真っ赤に染まる月の下で、情緒のカケラもなくギャーギャー騒いでしまった。赤い月が光を取り戻して満月に戻るころ、片付けをして部室に戻る。もう午後十一時近かった。施錠するから気をつけて帰りなさい、と言う教師二人は普通に酒を飲んでいた。全然酔ってなさそうだったけど。
禰󠄀豆子ちゃんの荷物持ちも手伝いながら送っていく。二人で星が見れる最後の機会だと思ってたらまさかの教師同伴鍋パとは。はあ、と溜め息をついてしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「んん〜、疲れたねぇ。まさかあの二人来ると思わなかったから」
「そうですね、でも楽しかったです」
「まあねえ……禰󠄀豆子ちゃんの料理も食べれたからいいけど美味しかったよ、ありがとう」
「ふふ、良かったです」

禰󠄀豆子ちゃんがちょっと顔を伏せる。長い睫毛が月明かりに照らされて影を落とす。綺麗だな、と見惚れてしまった。
「あの、さっき言いかけたことなんですけど……来年、どうするかって」
「あ……うん」
「私も迷ってて……その」
禰󠄀豆子ちゃんの歩いていた足が止まって、俺を見上げる。
「先輩は、天文部がこの先も続いてほしいですか?」
……えっ」
「あっ、ご、ごめんなさいこんなこと!続いてほしいですよね、もちろん」
「ね、禰󠄀豆子ちゃ」
「でも、先輩としてきたこと全部、他の人とするつもりがなくて、その考えたこともなくて、他の誰かと、なんて」
予想外の言葉に口ごもる。口元が緩みそうだし、心臓が急に存在感を発揮する。禰󠄀豆子ちゃんもそう思ってくれてたなんて、嬉しくて顔が熱くなってきた。
「でも部の存続を考えたら、それじゃダメですよね」
「ダメじゃない」
「え
「俺も、禰󠄀豆子ちゃんが他の奴とこういうことするの、ヤダ」
なんて子供っぽいワガママなんだ、と思いながらも禰󠄀豆子ちゃんを見ると、ちょっと嬉しそうにはにかんでくれた。かわいすぎてそのまま好きだ、って言いそうになったのを深呼吸して飲み込む。危ない。代わりにひとつ、覚悟を決める。
「今日で最後にしようかと思ってたけど……あの、正月に流星群があるから、一緒に行かない?」
「うん、行きたいです」
「よかった。寒いから、うんとあったかくしてきてね」
「はい。またコーヒー飲みましょうね」

へへ、と笑い合う。もう少しだけ、先輩と後輩の関係でいたい。



『流星群』


「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」
……………ねむぅい………
「午前0時だもんね」
……………さむぅい………
「マイナス2度だからね」
年が明けたばかりの正月休み。禰󠄀豆子ちゃんとふたりで最後の流星群観測に来ていた。二人ともニット帽を被ってダウンジャケットをモコモコに着込んで、大荷物を持っていつもの踏切に集合した。ぼんやり明るい街灯の下で禰󠄀豆子ちゃんが小さく欠伸をする。かわいい。
「でも今日はこのために弟たちと昼寝してきたから、大丈夫です」
「俺も夕方寝てきたから元気だよ」
正確に言うと昨日の夜楽しみすぎて寝られなかったから、昼過ぎに力尽きた。結果オーライだ。まぁこんなに昼夜逆転生活してると学校始まってから大変なんだけど。
小高い丘に向かって歩き出す。この時間から明け方まで流星群が見られる。流星群のいいところは、望遠鏡がなくても見えることだ。むしろ望遠鏡があると視野が狭くなるから肉眼の方が良い。荷物がいつもより少ないけど、その代わり防寒のためにいろいろ持ってきたから、結局リュックはずっしり重かった。

開けた場所にレジャーシートを敷いて、とりあえず二人で寝転んでみる。流星群はとにかく上をずっと見るから、寝転ぶのが一番いい。今日はよく晴れて寒い日だから星がよく見える。澄んだ空に遠く光る星たちは、いつも見上げているはずなのになぜだか違って見える。
「綺麗ですねぇ」
ため息をつくように禰󠄀豆子ちゃんが言う。そうか、禰󠄀豆子ちゃんと一緒だからかな。
「綺麗だねぇ。禰󠄀豆子ちゃんと一緒に見れてよかった」
……私もです」
いひひ、と笑うとちょっと神妙な面持ちで返される。あっ、そうだよねえそう言われたらイヤだったとしても私もですって言うしかないよねぇ!?勝手に落ち込むとちょっと悲しくなってきた。
「なかなか、流れませんね」
「もう少しすると極大時間って言って、たくさん流れるかもしれない時間になるよ。それが終わったらコーヒー淹れようか」
「そう、ですね……
なんか今日禰󠄀豆子ちゃんテンション低いな。寒いからかなぁ。ゴソゴソと荷物を漁るとマフラーとブランケットを取り出す。
「マフラーもう一枚巻いておいたら?それと、ブランケットかけてあったかくしてね」
「これ以上巻いたら動けなくなっちゃいます……
確かにもうぐるぐる巻きの雪だるまみたいだ。あはは、と笑いながらブランケットをかけてあげる。再び禰󠄀豆子ちゃんの隣で横になると、ぽつりとマフラーの中で呟くのが聞こえた。
「先輩が」
「えっ?」
「先輩がくっついてくれたら、あったかくなると思います」
へっ?と声が裏返ってしまった。禰󠄀豆子ちゃんの鼻も耳も寒さで真っ赤だ。話すたびに息が白くなって、夜空に消えていく。
「えっ、あっ、えっと……じゃあ、失礼します」
ちょっとだけ空いていた二人の隙間、30センチくらいを少し詰めて10センチくらいにして、ブランケットを一緒にかぶる。
「もう少しくっつかないとあったかくないです」
「は、はい」
えっ、いいの!?調子に乗りすぎかなって思ったんだけど!?肩をぴたっとくっつける。といっても、上着が分厚いからあんまり感触はないんだけど。残念。
「あっ!流れ星!」
「みえた?一瞬だけど、これからたくさん流れるよ。あっ、あそこも」
「わぁ、あっふたつ!すごい!」
子供みたいにすごいすごいとはしゃぐ禰󠄀豆子ちゃんがかわいくて、横をちらっと見ると思っていたより顔が近くにあって心臓が跳ねる。ぐりん、と首を勢いよく180度逆に向けた。空に視線を戻すと、てっぺんから星が降り注ぐように流れていくのが見える。特別な景色に心が弾む。禰󠄀豆子ちゃんも楽しんでくれてるみたいでよかった、と安堵していると、なんだかぶつぶつ呟くのが聞こえてきた。マフラーに吸われてしまってなんて言ってるか聞こえない。しかもめちゃくちゃ早口。
…………せんぱいと……
確かにそう聞こえた、気がする。思い上がりだろうか。俺じゃなくて別の人かもしれないし。
……もしかして、願い事?」
「はい。流れ星速すぎませんか?全然間に合わないです」
「そうだねぇ、願い事をできるだけ短くするしかないんじゃない?」
「先輩は、何かお願いごとないんですか?」
「うーん……
ある。星の数ほどある。けど星に願いも月に祈りも捧げたことがなかった。一番純粋な願いを口にする。
「また、禰󠄀豆子ちゃんと星が見たい……かな。禰󠄀豆子ちゃんは?」
……いっぱいあって、短くならないです」
「そうなの?意外と欲があるね?」
「先輩と手を繋ぎたい」
「えっ?」
えっ今なんて?目が点になったまま禰󠄀豆子ちゃんを凝視する。耳まで真っ赤なのは、寒さのせいか。禰󠄀豆子ちゃんにはふいっと目を逸らされてしまった。
「先輩って、俺?」
「そうです」
……星じゃなくて、俺に言えばいいんじゃない?」
左手の手袋をすぽん、と外すと一気に冷気が手の甲に触れて震える。禰󠄀豆子ちゃんの手を探り探り握ると、禰󠄀豆子ちゃんも右手の手袋を外して迎えてくれた。きゅ、と握られて心拍が倍速になる。
……他には?」
「先輩と、ごはん食べたり出かけたりしたい」
「うん、明日いこ。他には?」
「先輩と、もっと星が見たい」
「うん、また見に行こう。連れてくよ。他には?」
「先輩と、もっと一緒にいたい……っ!」
喉が詰まったように震えた声で言われて、くるりと体を起こして禰󠄀豆子ちゃんに覆い被さる。やべ、押し倒したみたいになっちゃって冷や汗が出る。握ったままの手に力が入って、指を絡ませる。ちゃんと、俺から言わないと。心臓ひっくり返りそう。すう、と深呼吸する。
「俺は……禰󠄀豆子ちゃんが、好きです」
「ずるいぃ……ひっく、私も、すき、好きです」
顔の半分を覆っているマフラーを右手でちょい、とめくると、小さなかわいらしいピンクの唇が見えた。
……キスしていい?」
……はい」
目をきゅっと閉じて待ってくれるのがあんまりにもかわいくて、思わずじっと見つめてからそっと唇に触れる。ふたりとも寒さでひんやりしていたけど、唇はあたたかかった。目尻に溜まる涙をそっと拭って頬を撫でる。
「先輩が卒業するの……いやです……
「留年するわけにはいかないかなぁ」
苦笑いすると今度は頬にちゅ、と唇で触れて、耳元に近付く。
「かわいい、禰󠄀豆子ちゃん……そう言ってくれるの本当に嬉しいよ」
「先輩と、もっと、いろんなことしたいです」
「うん、いろんなことしよ。今度はデートでね」
禰󠄀豆子ちゃんがようやく嬉しそうにニコッと笑ってくれた。うう、かわいい。
……ごめん、俺がここにいたら星が見えないよね」
「先輩がよく見えて嬉しいです」
「なんか恥ずかしい」
元の位置に戻ってブランケットをかぶり直す。繋いだ手を絡ませて、上着のポケットに一緒に入れると禰󠄀豆子ちゃんがふふっと微笑んだ。なんか恋人っぽい、と思って心臓がバクバク音を立てる。
「あったかい」
「よかった」
なんか緊張しすぎて心臓バクバクになったせいか身体がぽかぽかする。また空を見上げると、大きく一筋の光を残して流れていく星が見えた。
「わぁ……!綺麗」
「綺麗だねぇ」
ひとりで見ているときの何倍も綺麗に見える。さっきより近くなった体温を感じながら、星の降る空を二人で眺め続けた。


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