グエスレ現パロ転生シリーズ①-2
転生後世界のグエルとスレッタの出会いのお話。
ミオリネらとクワイエット・ゼロによって世界を創り変えたグエルは、新しいこの世界で以前の交友関係を絶ち、普通の学生として過ごしていた。しかしある日目の前に現れたのは――。グエルside。
@CChacoru

「スレッタ・マーキュリー…」
かつて恋に落ちた女の子。
もう二度と、この世界では出会うはずのないと思っていた姿が、目の前にあった。
赤い髪。丸っこい可愛らしい眉。青碧色の瞳。
もうずっと、何年も見ていないはずなのに、間違いない、と思ってしまう。
彼女だ。
動けなかった。
何故か彼女も同じように驚いて、こちらを見つめ返している。
ピタッと固まっている姿が、まるで人間に見つかった小動物みたいだな、なんて場違いな感想が、つい頭をよぎる。
手を伸ばそうとして――
音がよみがえった。
雨とバスの扉が開く音で、我に返る。
バス停。
列にならんでいる数人の視線。
俺は列の先頭だった。
「す、すみません…!」
慌てて傘を折りたたみ、乗り込もうと乗降口の段差に足をかけた時、後ろからぐいと腕を掴まれた。
思いの外力が強くて、バランスを崩しそうになる。
振り返ると彼女が問い詰めたそうな表情で、こちらを見ていた。
さっきは小動物みたいだななんて思ったのに、今は絶対に逃すまいというような力強い瞳でこちらを捉えている。逆に自分が獲物になってしまったような気さえした。
思わず唾を飲み込む。
彼女は口を開いた。
「名前――」
「…?」
「名前…!私の、名前。なんで知ってるんですか…?!」
***
以前の世界――アド・ステラ世界は、クワイエット・ゼロによって再構成された。
スペーシアンとアーシアンの根深い確執など存在しない、そもそも人間が宇宙にほとんど進出していない世界に。
そのことを知っているのは、計画の最終段階、書き換えの場に居た三人。
ミオリネ・レンブラン、エアリアル――エリクト・サマヤ、そして俺。
計画の日、時間を二年前に巻き戻し、その上で世界を再構成させた。
だから、あの惨劇の日々で傷を追った人々も、元気に生きている。以前の記憶はなく、はじめからこの世界で生きていた者として。
この世界での二年前、つまり世界を書き換えた直後、俺たち三人は取り決めた。
これから先、誰も交わることなく、悲劇を起こさないために生きていこうと。
特に、俺たちの想いの中心にいた――スレッタ・マーキュリーには接触することなく、彼女には今度こそ、平穏な日々を過ごしてもらおうと。
あの約束をした日から、ミオリネにもエリクトにも、一度も会っていない。
もちろんスレッタ・マーキュリーにもだ。
俺は一人の学生として、この世界で静かに生活していた。
そのはずだったが――
***
小さな二人がけの席。
右側に窓、左側にはスレッタがいた。
俺は夢でも見ているのか?
一体、何が起こっている……?
当然のように隣に座ってきた彼女に退路を塞がれ、俺は心の中で眉間を揉んでいた。
そのままバスに揺られていると、ガタン、と大きな揺れがくる。
横に体を持っていかれ、彼女と肩がぶつかる。
「す、すまない!」
「い、いえ」
水色のスカートが、ぶつかった弾みで俺の足にかかる。真新しそうな布は、雨で少し濡れていた。
俺は足をそっと狭めて、スカートから離れる。
いたたまれなくなって、つい口を開いた。
「その…名前は」
「スレッタ・マーキュリーです。…あの、さっき、呟いてました、よね。私の、名前…」
「あ、ああ…」
しまった…。
訝しげにこちらを見てくる。さっきバスの入口でかけられた質問には、まだ答えてなかった。
「生徒会長、だからな。学園の生徒の名前は、把握している」
とっさに思いついた言い訳。左腕の腕章を見せる。実際、嘘じゃない。生徒会長という部分は。
苦しいか、と思ったが、
「ほぇ…。生徒会長、さん。…そうだったんですね」
納得してくれたようだった。
「…すごいです。転校生の名前まで覚えてるなんて」
「え…あ、ああ!うちの学園に転校生なんて、そういないからな」
俺の通う学園は、そこそこ名の通った名門校だ。転入試験もそれなりの難易度だろう。
「実は、学業を支援してくださっている方がいるんです。アシナガさん、て私は呼んでるんですけど。その方が、私のことを色々見込んで、手続きしてくださったんです」
「そうなのか。すごいな」
そう声をかけると、スレッタは遠慮がちに、しかし嬉しそうに、えへへっ、と口元を緩めてはにかむ。
その笑顔を眺めていると、彼女は膝の上で両手をもじもじさせて、やがて意を決したように、こちらを向いた。
「えっと、その…」
どうやら俺の名前を聞きたいらしかった。
俺は躊躇した。
ミオリネやエリクトと交わした約束のことが頭をよぎる。
――今後、誰とも交わらない。悲劇を繰り返さないために。スレッタとも。
スレッタは、何故か俺の前に現れた。俺の方から探したりなんかはしていない。彼女の方からやってきた。これは偶然なのか。
いや、どんな理由にせよ、彼女らとの約束を反故にして、このままスレッタと関わりを持っていいのか?ダメだろう?
そう考える一方で、周りを見渡すと見知ったクラスメイトたちがこちらをチラチラと見ていた。拒絶しようにも、既に人の目がある。
それに俺は生徒会長だ。彼女がこれから同じ学園で生活するのならば、今ここで名前を明かさずとも、いずれ知ることになるだろう。
「…グエル・ジェタークだ」
「グエル、さん…。…グエルさん、あの、さっきはありがとうございました」
「?」
「傘、拾ってくれて…」
「ああ、大したことじゃない」
「いえ、それでも」
スレッタはそう言うと、前に向き直して、伏し目がちに黙り込む。
…一体何故、彼女が転校生として俺の通う学園に?
ミオリネか、エリクトの差金か?
いや、しかし…。
俺は彼女のことを、横から観察した。
スレッタの赤い髪は、ヘアバンドでまとめられていた。以前の世界で見たものとは違ったが、同じ髪型だった。ヘアバンドで上がった前髪の束が、バスの揺れとともにひょこひょこと揺れている。
白と水色の新しいセーラー服は、赤香色の肌とよく似合っていた。血色づいた、綺麗な肌色だな、と思う。かつて、その肌に触れたいと切望したことを思い出し、胸がカッと熱くなる。
横から見た、深い森林のような色の瞳。意外とこいつ、まつ毛多いんだよな。くりっとした丸い形の目で、背は結構高いはずなのに、小動物みたいに思えて…。
ふと、いつの間にか、彼女と目が合っていた。
気づかないまま、じっと見つめてしまっていたらしい。
「かっ!勘違いするな!」
「ほぅえぇえ!?」
「っ、これは別に、見惚れていたわけじゃないからな!」
「み、みみみみと…!?」
「あ、ち、違う!」
大声を上げてしまった。周りの生徒たちに全部丸聞こえだった。
「す、すまない…」
「は、はい…」
くっ、なんで、わかりません、とか前みたいに言わないんだ、こいつは…。
ダメだ、絆されるな。
俺には約束がある――。
窓際に肘をかけて外の風景に視線を向ける。
外は相変わらず雨模様で、白い灰色の世界。
時々、桜の風景が流れていく。
二、三分程お互いに黙り込んでいたが、再びスレッタは話しかけてくる。
「あの、どうかしたんですか?」
「ん…?」
俺は観念して彼女の方を向く。
「つらそうな顔、してたので」
そんな顔をしていただろうか。
「…雨、よく降るなと思ってな」
「雨、すごいですね」
実際、さっきより激しくなっていた。
「転校初日から、残念だったな。この学園の桜並木は綺麗だから」
「そうですね、それは残念です…でも、」
スレッタは突然、俺の肩に優しく触れた。
「そのおかげで、バスに乗ったおかげで、グエルさんとお話できました」
彼女が手に持っていたのは、一片の桜の花びらだった。
俺の肩についていたのか。
「今日私、ピンクがラッキーカラーなんです。それに、グエルさんの前髪も、ピンクだし」
それで、俺にやたらと絡んでくるのか?
思わず苦笑する。
「ぐいぐい来るな…?」
「逃げたら一つ、だからです」
「!?」
その言葉は――
「さっき言った、アシナガさんが教えてくれたんです。逃げたら一つ、進めば二つって。だから、その…」
スレッタはスマホを取り出して、俺の方へ差し出した。
「あの…!連絡先、交換しませんか!?」
選択を迫られる。
名前だけならまだしも、なんでこんなに踏み込んでくるんだ。
彼女は以前の記憶を覚えているのだろうか。いや、そんなはずはない。
忘れるな、俺には、あいつらとの――。
返答に迷っていると、スレッタはあからさまにしょんぼりと落ち込む。
「やっぱり、ごめんなさい…いきなり、変な子でしたね、私」
「いや、違う!ただ、驚いただけで…!その、女の子から、そんなふうに言われたこと、なかったから」
「そ、そうなんですか」
なし崩し的に、スマホを取り出し、連絡ツールのIDを教えた。
半ばヤケだ。
「へへ…」
なんでそんなに嬉しそうに笑うんだ。前の世界では、俺の側では、見せたことないくせに。そんな、無防備な笑顔。胸がギュッと苦しくなる。
「進めば二つ…、」
進めば二つ、なのか?
「…いい言葉だな」
戸惑いを打ち消すように、声をかける。
「はい、私も、大好きな言葉です」
彼女はそう言ってふわっと、花の開花のように笑った。
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アシナガさん=エリクトです。
スレッタとは手紙でのみやりとりしています。