□誕生日だと聞いた修が二宮匡貴を祝おうとする話。他、東さん、犬飼先輩。
@wtkotaji
何だかんだと二宮隊との交流が始まったのは、やはりB級ランク戦後からだろう。特に修は二宮に質問する事が多かった。
二宮は木虎と同じく辛辣な物言いをするが嘘は言わない。事実だけを真っ直ぐに指摘する。
修の周りにいる人は皆優秀で優しい分、修に甘いところがある。
頼めば二つ返事で協力してくれるし、頼んでいなくても積極的に力になってくれようとする。
しかしそれは時に修の成長の妨げになることでもあった。だからこそ修にとって、そんな二宮の忌憚のない意見は貴重だったのだ。
「メガネくんは貪欲だなぁ」
いつだったか出水が苦笑していた。
そうなのだろうか。
今自分の師匠が何人いるか数えた事ある?と聞かれ、考えたことがなかった事に気付いた。それだけ人に恵まれているのだ。
このことに感謝しなければいけないだろう。それに気付かせてくれた木虎にも改めてお礼をするべきか。
(二宮隊の皆さんにも、何かするべきだろうか)
無難な菓子折りが喜ばれるかと考えた矢先に、自販機前にて修は東に呼び止められた。
今日はどうしたのか尋ね、行先が二宮のところだと聞いた東は思い出したように言った。
「二宮といえば、来週誕生日だったな」
「そうなんですか」
「焼肉でも奢ってやろうと思ってるんだが、毎回そうだと飽きるか?」
三雲ならどう思うと聞かれ、「恐らく東さんとの食事なら嬉しいだけかと」と素直に修は答えた。東がそうかと笑う。差程修の前で二宮と会話した覚えはないのだが。
(悪い気はしないな)
「参考になった、ありがとう三雲」
「いえ」
根付さんに呼ばれているからと礼を言った東と別れてから、二宮隊の作戦室に向かおうとした修はふと思った。
(ぼくも何か、二宮さんにするべきだろうか)
誕生日を祝う程近しい仲ではないが、お世話にはなっていることは確実だ。
質問や思いついたことは、正直しつこいぐらいに修は突き詰める。それにいつも二宮を付き合わせているのだから。
(食べ物、は、流石に普通過ぎるか)
菓子折り以上でそこまで負担にならない程度の何かがいいだろう。あの二宮匡貴に何かを贈るという時点で気後れしそうなものだが、それに関しては特に気にしていなかった。
(気にいらなければ処分されるだけだろうし、)
修は微妙な方へプラス思考を発揮した。
今更言えない、知らない感情
修は二宮に関してなんの嗜好も知らない。
普段から作戦や駆け引き、射手としての技術についてなど、仕事に以外の話を一切していなかったのだから、当然だろう。
なので参考にしたいと、修は二宮と近しい人達に二宮の好みを聞いて回ることにした。
普段、修が訊くとすれば一に仕事、二に技術。玉狛や自分の隊のこと以外は特に気にしたこともない。
それがランク戦に必要でもないことを熱心に訊いて回っているのだから、目立つことこの上ない。
しかも相手があの二宮匡貴という時点で炎上しそうな勢いだった。
それにザワついたのは主に修に過保護な面々。それと普段なら修を気にしている顔もちらほらといた。
「犬飼さん、二宮さんの好みってご存知ですか?」
「・・・は?」
作戦室にやって来た修に、ニコニコとお茶を出そうとしていた犬飼の手が止まった。
「ぼくは二宮さんが焼肉が好きみたいなことくらいしか知らなくて。恐らく二宮さんは年下にお金を出させてくれないでしょうし、」
「・・・・・待って三雲くん二宮さんと二人でご飯するつもりなの?」
「いえ、焼肉は東さんがご馳走されるでしょうし、ぼくは小物なんかをお渡し出来ればと考えてるんですが」
「──へぇ、そうなんだ」
珍しく二人きりだったのに浮き足立っていたのにこれである。
「詳しく聞きたいな、三雲くんの話」
にっこりと犬飼が笑った。
そんなフラグを乱立して歩き回る修に、二宮だけがそれを知らないでいた。
最近、二宮が知る限り、三雲修は何故か二宮隊の作戦室に来ていなかった。
別にそれは良いのだが、頻繁に足を運んでいたのが急になくなれば二宮といえど多少は気になる。ここ最近他の面々からの当たりが妙に強いことも二宮の神経を逆撫でしていた。口を開けば修に絡めて何がしか言ってくる。
(どいつもこいつもメガネメガネと、)
これではどうでもいいと思考から切り離そうとしても眼鏡の話題が後からのこのこと付いてくる。誰があのメガネのことを四六時中考えたいなどと思うか。
『門発生、門発生。座標誘導誤差7.81』
二宮の苛立ちを表すように門からぞろりとトリオン兵が発生する。
真夜中の招かねざる客に、丁度いいとばかりに二宮が弧月のような視線を向ける。
数日後が自分の誕生日のことなどすっかり忘れている二宮の手元から、大量のトリオンの光が灯る。
『近隣の皆様はご注意ください』
皮肉のように、機械的なアナウンスが流れた。
*
そして10月26日、二宮匡貴が生まれた前の日のこと。二宮は久しぶりに三雲修を発見した。
相変わらず煮詰まった顔で思考を巡らせているらしい。今は検索でもしているのか、邪魔にならない壁際で携帯画面に集中している。
二宮が見つめたのは数秒だったが、携帯の画面からふいに顔を上げた修は、二宮に気付くと眼を丸くした。
それから何故かぱっと顔を明るくした。
「二宮さん」
「・・・・・」
小走りで駆け寄られ、「会えて良かったです」と顔を緩ませた修に二宮は固まった。
なんだその表情は。
向ける相手を間違ってやいないか。
そんな言葉を口走らないように無理やり飲み込む。
「・・・久しぶりだな」
様子が変だと思われないように、ぎくしゃくと返す。ちっとも気にしていないのか、そんな二宮には構わず、修は持っていた紙袋から何かを取り出した。
「いつもお世話になっています、今後ともよろしくお願いします」
お歳暮のようにずいと何かを差し出される。
時折二宮隊の皆さんでと渡してくるいつもの菓子かと、どんなタイミングで出すのかと訝しがりながらも受けとれば、それは細長い小さな小箱だった。
「開けてみてください」
「・・・・・・・」
修に促されるままに開けてみれば、黒蜜のように艶やかな黒のボールペンが入っている。
手にとれば真鍮製ペン軸の程よい重量感。ペン軸には精緻なシェブロン柄が描かれており、美しい外観を有している。ゴールド仕上げのトリムによってアクセントも加えられており、高級感もしっかりと感じられた。
「見た時に二宮さんのイメージにあっているなと思って。勿論見た目だけでなく、実用性もチェックしました。凄く滑らかに書けるんですよ」
最近のペンは性能が良いですねと言う修に、石像のようになっていた二宮が漸く尋ねた。
「これは、」
ペンなら幾らあっても困らないだろうと選びましたと修が見当違いのことを言う。
それから「少し早いですが、お誕生日おめでとうございます」という言葉が二宮の耳には上手く入ってこなかった。言われてから明日が自身の誕生日だということにやっと気付いたのだ。
つまりはこれは、修からの贈り物という事だ。
ぱぁと視界が急に明るく輝いたように二宮は感じた。ここ最近の溜まっていた苛立ちの澱が嘘のように消え去る。理由はわからない。わからないが、
「・・・・・・」
改めて貰ったボールペンを眺めた。
この感情が何なのか、二宮にはわからなかった。
一方、沈黙したまま反応が無い二宮に、幾許か待ってみた修は些か居心地が悪くなり身動ぎした。まぁ仕方がない。
(急にぼくから渡されても、困惑するか)
二宮隊や東達から祝われる誕生日当日よりも、邪魔をしないだろう前日に渡せればと二宮を探して本部に来たのだが。
(それなりに悩んで選んだし、喜んで貰えなかったのは残念だけど、渡せただけよしとしよう)
これ以上忙しい二宮の邪魔をするのも気が引けた。完全に自己満足に近いが、お世話になっている人にお祝いしたかったのは本当だ。
修は先程からボールペンを見つめたまま動かない二宮に、小さく笑った。
(少しでも使ってくれたらいいな)
「二宮さんにとって良い一年になりますよう」
「・・・・あぁ、」
では防衛任務があるので失礼しますと、修は足早にいなくなった。
それを見送った二宮は、そこで初めて自分がまだお礼も言えていなかったことに気が付いた。
「・・・・・馬鹿か俺は、」
流石に今更気付いたなんて言えるわけがなかった。
…end?
「三雲、二宮にボールペンあげたって本当か?」
「? はい、そうですが。あ、やっぱり、二宮さんが困っていましたか?」
「いや本人は至って満足して気に入ってるみたいだったから良いんだが」
「はぁ」
焼肉屋で胸元に差して身に付けてくるくらいには気に入っていた。
脂が跳ねないようにと気にしているようだったので、「貰い物か?」と尋ねた時の何ともいえない二宮の顔が、未だに東の網膜に焼き付いて困っているとは言えなかった。
(まさか二宮の照れる顔を見ることになるとはなぁ、)
何やら言い淀んでいる東に修は首を傾げた。
二宮の誕生日から数日後。とある話を聞いた東が修の元を訪れた。
偶々修しかいなかった玉狛第二の作戦室にて訊かれた事に、修は不思議そうにしながらも茶菓子を差し出した。何か問題があったのだろうか。
わかっていない修に東が曖昧な表情を浮かべる。
「三雲は、ボールペンを贈る意味は知っているのか?」
知らないと首を振る修に、検索してみるように東が促す。素直に自分の携帯で検索し、検索記事を読んだ修の顔から血の気がみるみるうちにさぁと引いていく。
「・・・こ、これは」
「気付いたか?別に三雲がいいなら構わないんだが。少し気になってな」
東としては当人達の問題なのであまり口を挟みたくなかったのだが、周りの反応と修がもし知らなかった場合困ったことになるなと念の為聞いてみたのだ。
予想通りの反応に、東はこれは聞いて良かったかと苦笑した。そんな東には気付かず修は戦々恐々としている。
「まったく、良くないです・・・・、まさかぼくが二宮さんに対してこんなこと思わないです」
「まぁ、二宮も気を悪くなんてしないだろうが、」
「東さん」
「ん?」
「・・・ぼくは、ぼくは、射手ランクトップの二宮さんに、仕事を頑張って欲しいだなんて偉そうな上から目線の意味合いでペンを贈ったりなんかしません!」
「・・・・うん?」
狼狽して携帯画面を見せた修の手元を覗きこんだ東は、暫し沈黙する。
"上司や年上の人などにプレゼントすると失礼に当たってしまう可能性がありますので注意が必要です"
違う、そうじゃない。
そんな言葉と鈴木雅之の姿が浮かぶ。
「・・・・あー、確かにそういう意味合いもあるが。多分皆違う方の、」
「東さん、お願いです!噂の訂正に協力してください!」
やや青ざめた必死の様子の修の表情に、東の頭の中で天秤が揺らいだ。
元東隊である二宮の幸せをとるか、可愛い後輩の泣き顔を晴らすか。
あまりに必死な修の様子に天秤が完全に傾き、東は仕方ないかと嘆息した。小さく胸中で悪いなと二宮に詫びを入れておく。
(お前よりも三雲は幼いからな、こっちをフォローさせてもらうよ)
「──まぁ、構わないよ」
「ありがとうございます東さん!」
早速二宮隊に訂正してきます!と部屋を飛び出した修をどうフォローするかと考えつつ、東もゆっくりと後を追う。それほど慌てなくてもいい気がするが。
そもそも物の元の意味合いよりも、こういった場合は気持ち自体が嬉しいものだと東は考えている。
二宮だってそれくらいの気持ちは汲むだろう。
修が二宮の為に真剣に選んだのなら尚更だ。
(まぁ、俺が懸念したのは元々そっちの意味じゃないんだが、)
東は「ボールペン 意味」で検索した携帯画面を改めて眺めた。
そこには仕事を頑張って欲しいの他にもう一文書かれていたが、今更だなと東は画面を閉じた。
あなたは自分にとって特別な存在である。