@azisaitsumuri
逃げた民衆に残された夜の路地にひとり追い込まれて、他の味方とは逸れてしまった。
多勢に無勢は痛いが、こちらは所詮雇われた傭兵、援軍はハナから期待して居無い。西の国を観光して居る暇の無い中、土地勘も不利だが、夜も更けた、あちらさんもこんな雑兵に割いて居る時間も弾丸も無いだろう。
どうにか成らんもんかと思考と視線を巡らせて居るところに、それは突然現れた。
暗い夜にいっそ灯りのように立ち込めた白。
霧だ。
夜の街と追っ手の見える視界に、霧が入って来る。
敵は何故だか慌て慄き、恐怖に目を血走らせて、もうこちらのことなど忘れてしまったようだった。霧は上空にも広がり、それをただただ見上げるしか出来無いこちらの視界も、敵の視界も等しく覆って行って居るようで、へる、へる、言葉は分から無いが、緊急性を感じさせる声を上げてじたばたと退避行動を取って行く。
どうして、こんなにもきれいなのに。
霧は敵が多少散らしたところでその効果など有る筈も無く、寧ろ奴らを呑み込んでしまった。恐慌状態に陥った連中が滅茶苦茶に発砲したところで、霧は緩慢に振り下ろした爪で薙いで仕舞うだけだ、慌てず騒がずの落ち着いたその様子はよっぽどこの国の紳士らしい。そして暫くもし無い内にその姿も悲鳴も発砲も、そして気配すら消えた。
敵は居無く成った。
この綺麗な景色を邪魔するものは消え去った。
ただ残された傭兵の自分と、のっぽの霧の紳士だけだ。
霧はやはりゆったりと余裕の有る動きで、月夜の街を見下ろして、ちっぽけなこちらのことなど全く意に介さ無い。ただその儘通り過ぎてゆくだけだった。
だからおれも、ただそのきれいなものを、じっとみおくるだけだった。
そうして夜が明ける。