15歳みっぴきに当てられて、書いたお話です。
15歳みっぴきを実行するには?→吸血鬼アンチエイジングとミラさんを組ませる?ないない→幻覚見えるくんならどうだろう→そうなると、15歳時期の資料がいるよね?→ヒナイチくんの里帰りさせて、アルバムを見よう。
な展開で、こうなりました。
ご真祖様が、幻覚の世界で撮った写真についてのシーンを追加しました。このご真祖様が、二人を見送ったドラルクさんの未来の姿でない事を祈りつつ…。
2023/04/30に上げました。
@kw42431393
「では、試合始め!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
異様な光景だった。中央に剣道着で立ってる小柄な一人の少女に対して、その場にいる道場生達が一斉にかかっていく。
10人、1対10なのだ。しかも、子供ではなく鍛え上げられた屈強な男性達だ。しかし、その程度では吸血鬼対策課で19で副隊長を任されるヒナイチくんの敵ではない。
ルールは簡単。この中の誰かが、彼女に竹刀を当てれば終了。彼女は、ちゃんと全員から一本取らなければならない。
バシィ!
「次!」
バァン!
「次!」
小気味よい音と共に、迷いなく竹刀が胴に、面に、小手に打ち込まれる。一人一人脱落していく、かする事もなく軽やかに躱していく。
ほぅ…とうちのお嬢さんに、ジョンと見惚れていると、隣で正座しているゴリラが不粋な事をほざいた。
「いや、仕事柄知ってはいるけどよ。」
「何かね?」
ロナルドくんは、よく彼女と二人で退治に出ていく事がある。頭脳担当の私は、必要なければ留守番をしている事は多いのだが…
「とんでもねえ奴と、一緒に暮らしているんだな。俺達。」
ムッとなる。この5歳児に悪意は、全くない。分かっているし、彼も彼女を大事に思っている事は知っている。
でも、一言言ってやろうと思った。
「とんでもねえ奴…誰の事かね?」
首を傾げる彼を一瞥する。
「君にとっては頼れる仲間で妹で、ジョンにとってはおやつ仲間で、吸対と市民にとっては優秀な副隊長で、私にとっては…」
一瞬、口ごもる。簡単に言えない感情を自覚すると苦労するね。
「お前にとっては…何だよ?」
私好みのうなじを持つ女性で、美味しそうな獲物だった少女で、いつも私を守ってくれる王子様みたいな子で、太陽を体現した様に明るい昼の子、私の可愛いお嬢さん…とても一つじゃ絞れない。そして、まだ心を明かせない。
「…餌付けし甲斐のあるハムスターさ。」
「ヌー…。」
ダァン!
最後の一人が華麗に面を取られて、脱落する。そこに立っているのは、勿論…
「終了!」
「「「ヒナイチさん!ありがとうございました!」」」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
礼をしたヒナイチくんが、面を外す。汗ばんだ顔には、まだ戦士の気配が残っている。だけど…
「ヒナイチくん、お疲れさま。」
「知ってたけど、こうやって見るとすげえもんだ。」
「ヌヌイ!ヌヌイ!」
私達の声が届いた途端に、戦士の仮面が剥がれる。この輝く様な少女の顔を、やはり一番知っているのは私達だと確信する。
「ドラルク、ロナルド、ジョン。待たせたな。」
外した面を小脇に抱えて、小走りにやってくるヒナイチくんは、私にとって可愛い女の子だ。
「ほら、見給え。どこが『とんでもねえ奴』なのかね?ヒナイチくんじゃないか。見る目がないねえ。」
言った瞬間、私は塵になった。
「ゴールデンウィーク、帰省しないのか?」
少し前、いつも通りクッキーを食べに…もとい私の監視に来たヒナイチくんに、若造が言った。
「う~ん、どうしようかな。祝日は浮かれる連中も多いだろうから。」
隊長も休みを取って親に顔を見せてやれ、とは言ってくれるのだが…彼女は続けた。思わず、私達は顔を見合わせる。ロナルドくんの兄である、隊長さんは両親を早く亡くし、弟達を育てて苦労してきたのだ。だから、彼の言っている「顔を見せてやれ」は重みがあった。
「ご実家って埼玉の伊奈架町だったよね?」
「そうだが?」
そこはドラルク城の近くなのだ。
「久しぶりに、私の城見たくなっちゃった。ね?私達と一緒に行かないかね?ヒナイチくんはご実家に泊まって、合流しよう。」
我ながらいい案だと思う。ワーカホリック気味の二人は、こういう風にもっていかないと息抜きもマトモに出来ないのだ。
「いいじゃん、レンタカーで俺が運転してやるし。」
「ヌーイ、ヌヌヌヌ。」
ロナルドくんも「よく言った」みたいな顔をしている。どうかね、伊達に長生きはしていないのだよ。
「あ、ありがとう。せっかくだから実家に寄ってくれ。父は仕事で会えないだろうが、母や師範にお前達を紹介したいんだ。」
はにかむ様に笑った君を見て、言って良かったと確信したものだ。とはいえ、ゴールデンウィークは混む…少し前に、私達は伊奈架町にロナルドくんの運転でやって来た。
ヒナイチくんの家は、道場をやっている。警察官の父親は不在がちなので、母親と師範が切り盛りしているらしかった。
「こんにちは、あなた方の事はヒナイチから聞いております。娘に良くして下さって、本当に安心しているんですよ。」
まさに和を感じさせる応接間に通された私達は、彼女の母親から歓迎を受けた。品のある淑やかなご婦人で、これがあのハチャメチャな本部長とクッキーモンスターの親とは、到底思えない。
「あ、ああ。いや…その。娘さんは…あ~。お世話になって…その~。」
うん、本当に若造、こういうのダメだな。幸い「勝手に床下に住み着いて困ってる」とか言い出す余裕はなさそうだ。
「こちらこそ、彼女のおかげで何度助けられた事か知れません。優しいお嬢さんに、育てられたましたな。」
聞いた彼女は、少し困った様に笑った。頭のアンテナが、くしゃりと垂れた。ヒナイチくんのアンテナは、母親譲りなのだろう。
「ウフフ、そう言われると…実は私も道場の事が忙しくて、幼いあの子には構ってやれない事が多かったのです。ほとんど、カズサに任せていた様なもので…。」
そうかもしれない。ロナルドくんは仕方ないが、ヒナイチくんもどこか両親の話題が希薄な所があった。
「だから、娘から連絡がある時はいつもあなた方の話題ばかりで…本当に感謝しております。」
「いや、俺達は全然。あいつもいて楽しいんスよ。」
「ヌンヌン。」
そう言われると、ますます嬉しい。やっぱり、帰省させて良かったのかもしれない。
「ところで、ドラルクさん。」
「どうかなさいましたか?」
クスリと上品に笑いながら、彼女は続ける。私が知っているヒナイチくんも、あと、何十年かしたらこんな風に笑うのだろうか…そんな事を考えた。
「ヒナイチは、食いしん坊な子でして…いつもあの子は貴方に作って貰ったお菓子の事ばかり話してるんですの。」
「ヒナイチくんらしい。私も嬉しいんですよ、あんなに美味しそうに食べてくれる子は中々いない。」
「…あの子は一途な子ですわ。これからも貴方にはご迷惑を…」
「ドラルク、ロナルド、ジョン。荷物を置いてきたぞ!」
そこで、噂のヒナイチくんが応接間に戻ってきた。手には何か衣類を持っている。着物の様な…。
「おう、待ってたぜ。ところで、何を持って…それは剣道着か?」
ロナルドくんが、衣類を覗きながら言う。それを抱き締めながら、ヒナイチくんの目がキラキラした。
「さっき、師範に会ってな。道場生に稽古をつけてやってくれないか、と言われたんだ。構わないだろうか?」
私達は顔を見合わせた。道中、車から故郷を見て、彼女は懐かしそうな顔をするが、さほど楽しそうではなかった。
『稽古は好きだったから苦ではなかったが…』
稽古に夢中で友達とあまり遊べなかった彼女にとって、故郷の記憶は道場にこそあったのかもしれない。
「おー、いいぜ。」
「勿論だとも。拝見させて貰っていいかね?」
我々がそう言うと、嬉しそうにこっちだ、と道場に駆けていく。後をついていくと、途中の廊下に家族全員で撮ったと覚しき写真が駆けてあった。
「あれ、この子は…」
写真の中には、ショートヘアの赤毛の少女。紛れもなく、ヒナイチくんである。撮影日時からすると、中学生ぐらいだと思われた。髪が短くて、男の子みたいだ…男の子?
いつかの夏の日に、出会った小僧がフラッシュバックしたのは、何故だろう。
「え~と。どこに貼ってあるかな?」
帰ってきて、他の住人が眠り込んだのを確認すると、私とジョンはクローゼットからアルバムを取り出してきた。やりたい、と思うと止められない…厄介な吸血鬼のサガだと思う。
「ヌ~ン…ヌン!」
「ありがとう、ジョン。これで揃ったね。」
ジョンが差し出した写真を受けとる。そこに写っているのは、中学生時代のロナルドくんだ。同級生と思われる少年と学生服でじゃれあっている姿が写っている。
「あまり変わらないのだなあ。顔もやっている事も。」
5歳に縮んだ時を知っているから、性格や動き方のシュミレーションはしやすい。顔や服装も分かれば尚更だ。
「さてと、次はこっち…と。」
スマホを立ち上げる。中には、ヒナイチくんの実家で撮影した中学生時代の彼女が写っている。隣に写っている兄と比べて、さほど今と身長は変わっていないらしいと考えたので155cmぐらいにしておく。そして、性格や動き方はなんとなく…あの夏に会った小僧を参考にしよう。何故だろう、赤毛でピコピコ動くアンテナに翡翠の目…思い返せば思い返す程、あの子によく似ている気がする。
『ヒナちゃんも女の子らしくなってきたな。一人で森に遊びに行って、皆を心配させたのが、嘘みたいだ。』
『良平さん、やめてくれ。子供の頃の話たぞ。』
あの時、実家の師範と喋っているヒナイチくんを見て、モヤッとするモノを自覚した。彼女は私のだ、馴れ馴れしく触るな…そう言いたくなる感情を押さえ込む。告白も何もしていない、勝手な吸血鬼の執着心に過ぎないと分かっているからだ。
『男の子みたいだとずっと言われていたのに…彼氏を連れて来てくれて、お母さんも安心しただろうね。』
彼の視線の先にはロナルドくんがいた。普通に考えるとそうだ、種族的にも年齢的にも…ただ。
『違う、違う。あれは弟みたいなものだ。』
『いや、こいつは妹みたいなもんですよ。』
同時に二人は否定した。赤面もせずに、当たり前の様に…それに毎度安心している自分がいる。
年齢差が大きいから、出会ったのがつい最近だから、理解はしている。でも、私はこの事務所のメンバーに執着している…だから、赤の他人から彼らの知らない時代の話をされると、ムッとする事はあるのだ。
ジョンもその辺りは自覚している。あのヒゲに対して、ジョンが塩対応をするのは、自分が知らない時代の私を知っているから、でもあるのだ。
今いる予備室を軽く片付けると、私は真ん中に『幻覚見えるくん』を置いた。
幻覚でもいい…もし、私達が同年代でずっと昔から友達で…というのをやりたくなっただけ。設定は15歳にしておく、それこそ単にあの写真を見てから、動いている当時のヒナイチくんを見たくなっただけだ。
「ジョンは何歳ぐらいにしておく?」
ヌンはニュンの頃がいいヌ。だって、この頃のドラルク様を知らないのは悔しかったヌから。
「そうだね、ごめん。じゃあ、始めようか。」
私達は幼い頃に友人になって、毎日学校が終わったら二人はドラルク城に遊びに来る。毎日、私が焼いたクッキーを食べながら、クソゲーして、クソ映画見て…
「こんな幻覚でどうかね?」
まあ、いいと思うヌ。
「あと、写真も撮ろうか。お祖父様から、『幻覚の世界も撮れるカメラ』を送って貰ったのだよ。」
何で作ったヌ?
『いいよ、ドラルク。でも、後で返して。』
お祖父様はそう言った。私は『作れますか?』と電話で聞いただけなのに、『あるよ、すぐ送る。』と言われたのだ。
『幻に過ぎないと分かっても、残したいものもある。だから、いいよ。』
「お祖父様には幻覚と分かって、会いたい人、写真に残したい人がいて作ったんじゃないかね?」
血液剤を垂らしてから、スイッチを入れる。部屋は鍵をかけてるし、声が聞こえても実況動画を撮ってるとしか思わないだろう。花粉が周りに漂い、目の前の景色が変わっていく。
「おーい、ドラ公。遊びに来てやったぞ!さっさと開けろ~!」
「ドラルク、クッキー!」
気がつくと、私の姿は15歳頃に、ジョンは南米にいた頃ぐらいになっていた。扉の向こうで、昼の子達の声がする。
「ピスピス。ロナルドくん、ヒナイチくん、いらっしゃ~い。今日は何をして遊ぼっか?」
「ニュンニュンニュ!」
賑やかに始まる、ドラルク城での小さなみっぴきのお茶会。また一つ、足りないと不満に思っていた事が満たされていく。
「ね?皆で写真を撮ろうじゃないか?」
「何だよ、改まって。しかも、お前が真ん中かよ!」
「ピスピス、一番可愛い私が目立って当たりまえ…スナァ」
「こら、ロナルド。まあ、いいんじゃないか?えっと、ここでいいのか?」
カシャッとカメラの音が鳴る。この写真は、現実に戻っても彼らには見せられない。
そう…今いるこの二人も幻覚だ。でも、この頃の二人と共にいたという、紛い物の記憶でも欲しくなっただけなのだ。
「さっ、次は何をしようか?」
「んー。じゃあ、ヴァリオカートにすっか。」
「それより、クッキーもうないのか?」
「まだまだあるよ、持ってくるね。」
そうだ、今宵一晩だけの夢だ。存分に楽しもうじゃないか。
『なあ、✕✕✕✕✕!今夜も楽しかったな。』
アルバムを捲る。そこに写っているのは、私の大事な昼の子の写真、写真。
自由の女神の肩で撮った写真。
南米の洋館で撮った写真。
アフリカのサバンナで撮った写真。
ルーブル美術館で撮った写真。
君に今の世界を見せてやりたかった。色んな場所に連れていって、色んな事を教えてやりたかった。
紛い物でも、君が世界中を旅をして、この素晴らしい世界を謳歌している証拠を残したかった。
『お前は十分見せてくれたじゃないか。それに、今も見ているぞ?お前の目を通じて…だ。』
アルバムを閉じて、心臓に手を当てる。
「ミナ、分かってる。でも、分かってても違う。」
強大な力を持つと言われる私でも、『誰でも幻覚見えるくん』を使って、出来なかった事を『あった事』にしたい時もある。
写真に残して、こうして見返したい時もある。
「ドラルク、ちゃんと使えてるかな。」
知らず、独り言が漏れる。儚い者達と共にいる事を選んだ孫は、あのカメラをどう使うのだろう…たぶん、私と同じ使い方をしてると思う。
「お父様、どうなさいましたか?」
ガチャっと音を立てて、ドラウスが部屋に入ってきた。不思議と、私は今までドラウスをこの幻覚の旅行に誘った事はなかった。
「ねえ、ドラウス。お…」
「え゛っ?」
そこまで言いかけて、取り止める。
「ううん、別に何でもない。」
ドラウスには、ミナの記憶がない。私がやろうとした事は、とても酷な事…なにより。
「ミナは私だけのモノだから…永遠に。」
ミナは、ドラウスを産んですぐに亡くなった。母親になった時間もほとんどなく、私に血を全て吸う様に頼んで息を引き取った。
私は、永遠にミナだけのモノになった。それは、私が望んだ最高の束縛だった。
『すまないな。お前もだけど、僕も独占欲が強いみたいだ。』
君は、困った様な顔でそう言ったね。
だから、この私達の時間は誰にも秘密だ。この写真もドラウスにさえ見せられない。友人にあげたバンパイアキラーが、私の心臓を貫くまで…私達の執着心が尽きる事はないのだろう。