2023/08/06 床下クッキーパーティ参加作品です。
つき合い始めのΔドラヒナ(まだキス止まりの段階)で、ナイトビーチ…ではなく、チームΔで海水浴場で下等吸血鬼対策をしている時のお話です。
バカンスではないよ、ごめんね。
敵のイメージは、最初カツオノエボシにしようと思ったけど、ハコクラゲ科のあの辺のイメージでお願いします。自身に遊泳能力がないと、乗り越えは出来ないかなあ、とか…あとフォルムが好き。
あと、隊長が触手に捕まる話だけど、エロではないよ。むしろ痛々しいので注意して下さい。
@kw42431393
「い、いいよ。動ける様になったら、自分で…」
「ほら、じっとして。気持ち悪いだろう?我慢してくれ、隊長。」
元々虚弱体質なのもあるが、意外と無鉄砲&血液錠剤によるブーストの反動で、割とお世話になる病院の個室。検査着をはだけさせると、私は隊長の首元を濡らしたタオルで拭いた。
「ん…つめた…」
「気持ちいいか?隊長。」
骨と皮だな…とつくづく思う。コンプレックスなので、私どころか同性の前でも服を脱ぎたがらないのは知っている。
今も、私に見られたくないのかもしれないが…けど、私も看護師さんに隊長を触られたくなくて。隊長は自分の事を「独占欲が強い方」とよく言っているが、そこは私も同じなんだ。
「気持ちいいよ。ゲホッ…ヒナイチくん、すまないね…ぅっ!?」
胸元から、ボコボコに浮いた肋骨にタオルを這わせると、体が跳ねる。顔を逸らしているが、ダンピール特有の長い耳が赤くなってピクピクしている。
隊長はここが弱いのか。恥ずかしがってる隊長の顔、可愛いな。結構好きかもしれない。
「我慢っていうか、むしろ嬉しそうだな。ドラ…モガっ?」
「ヌー…。」
後ろで退屈そうに座っていたロナルドが茶々を入れるのを、ジョンが止めてくれた。吸対で、最近つまらない事を覚えてきたと思う。
「う、うるさい!仕事でこうなったんだから、5歳は黙ってなさい!」
「いいじゃん、ヒナイチとはつき合ってんだからさ。恥ずかしがる必要なくね?…痛っ!!」
ロナルドに肘鉄を喰らわせると。もう一度タオルを水に浸して絞る。まだ熱感を持っている隊長の首回りや腕や手首、足…赤くミミズ腫れになっていて痛々しかった。
『あぁ、せっかくのナイトビーチなのに。』
あの時そう嘆いていたけど、本当だな。点滴がキラッと、窓から差し込む日差しに反射していた。
「おっ、そこにもいるぞ。」
「今年は多いなぁ、殺鬼剤足りるかな。」
「あぁ、お嬢ちゃん。素手はだめだって。トング使いな、世話が焼けるぜ。」
確かに多いな…昼と違って熱気がないから、夜の作業は苦にはならないが…はっきり言ってあまりいい光景ではない。
ここはシンヨコから一番近い海水浴場。下等吸血鬼の異常発生による応援要請があったんだ。私達は明るい内から来て、まず防除ネットの設置を済ませておいた。日が暮れてから吸血鬼達も応援に来てくれて、さっきの騒ぎになる訳だ。
目の前には砂浜に打ち上げられた、あるいは、吸血鬼化した事で陸上での行動が可能になった、吸血カニや吸血ウミウシ、吸血クラゲ。これは、確かに観光に影響が出る…観光どころか海辺のホテルや人家まで移動したら大事だ。私はトングで、目の前で「ギィギィ」鳴いている吸血カツオノエボシをVRCのマークがついたゴミ袋に入れた。
「このクラゲの箱、すげえな。なぁ、この中飛び込んだら1回ぐらい死ねるかな?」
「バカめ!クラゲよりこっちの方がよく効くわ!!」
「なになに…ピミャー!!」
セロリを投げつけられたロナルドが、泣きながら逃げ惑う。仕事中だぞ、半田も。
しかし、去年までは吸対と退治人だけだったが、今年はさらに吸血鬼達も参加している。特に日が暮れて、吸血鬼のショットさん達と合流してからの方が、とても仕事とは思えないほど賑やかで、まるで清掃のボランティアにでも来た気分だ。
これが仕事でなかったなら…向こうでミカエラ副隊長とタブレットに何かを書き込んでいる隊長に目をやる。丁度、隊長も私の視線に気づいて苦笑いをした。言いたい事は察しがつく。それに、私も思う。
うん…せっかくのナイトビーチなのに。
『海水浴場に大量の下等吸血鬼なぁ。観光客で賑わう搔き入れ時に、大損害だわな。』
『そういう事だ。防除ネットの設置と海岸に打ち上げられた下等吸血鬼の駆除、危険区域の調査に私も赴こうと思う。ついては、吸対職員だけでは手が回らない。』
『了解。うちから何人か回そう…うちの妹も必要か?』
『そういう当て擦りやめてくれないかね。ヒナイチくんとは、ちゃんと許可を得てつき合って…。』
まぁ、そういう一悶着があった事は置いておこう。
『日が暮れてからになりますが、私達の方からも何人か必要ですかな?』
『うむ…ネット自体は明るい内に設置するが、砂中に潜んでいた吸血鬼達が浮上して侵入してくる可能性もある。回して頂けると助かる。』
『決まりだな。隊長さんが留守の間、シンヨコは俺とゴウセツさんが守っておく。駆除が終わったら、チームΔでナイトビーチと洒落こんで来ても構わんぞ?』
こういう経緯で来ているんだ。だから、残念な事にバカンスでなく、仕事だ。それでも、皆の顔が綻んでいる。いつもより、駆除も早く終わりそうだ。
「な、ヒナちゃん。後で、皆で泳がね?」
「う~ん、いいのかなぁ。」
「防除ネットの中なら、構わないある。ドラルク隊長がチェックした後入るから、安全ね。」
…実は水着は持ってきてるんだ。隊長は、まだ仕事だろうから見せられないのが残念だな。
「あぁ、イタタ。クソッタレ、勤労勤労。」
ドラルク様、日焼けしちゃって大変ヌね。
ちゃんと日焼け止めクリームで対策はしてあるのだが、ダンピールの上に元々私は色白なのだ。昼間の防除ネットの設置作業で、直射日光に晒されて皮膚がヒリヒリする。
シャワーを浴びてケアをしながら、さっきまでタブレットに書き込んだ、下等吸血鬼の反応がある場所とそこに行うべき対策をさらに追加していく。明日までには、ここの管轄にこれを提出しなければならない。焦るとつい、片手がポケットを探っている。もう少しでやめられそうなんだけどな。
「ジョン、ちょっと一服してくるよ。」
仕方ないヌねぇ…
ポケットから取り出した煙草を持って、ベランダに出る。シュッとライターが音を立てる。フーッと煙を吐き出しながら、さっきまで私達が騒いでいたビーチを見下ろした。
「まぁ、苦労の甲斐はあったよね。」
ピューッという音と共に小さな火花が上がる。よく見ると、浜辺にいる面々にはうちのフォンくんや、マナーくん、吸血鬼のマリアさんやショットくん、それに半田くんやヒナイチくんの姿がある。
去年の彼らが、仕事の後もこんなに楽しそうだっただろうか。チームΔが発足した時はとんだ厄介事だと思ったものだが…。
「お~い、ドラ公。お前も行こうぜ!」
「やれやれ、せっかくこの風景に見入っていたのに。このゴリ…」
その瞬間、私は妙な気配を感じた。大型の下等吸血鬼の気配…しかも、そこにいたはずのない気配を。
「どした?ドラルク。」
無邪気に首を傾げるお子様に視線を戻す。いや、彼ならひとっ飛びだろう。
「悪いね、おつかいに行ってきて欲しいのだよ。」
ロナルドくんをおつかいにやると、私は防除ネットを張った区域に足を向ける。後で考えると、隊員か退治人の誰かに声をかければ良かったのだが、下見程度で楽しんでる彼らを邪魔するのは、憚られたのだ。
「大きいな…駆除は本格的にロナルドくんが帰ってきてからするとして。」
ネットに隙間がなかった事は昼間確認しているし、さっき皆で駆除していた時に砂中に反応はなかった。考えられる事は、皆が帰った後に乗り越えて入ってきたか…。
バシャバシャと音を立てて、シーカヤックを操る。ベランダで察知した時は、小さな下等吸血鬼の反応はなかったのに…下を見る。
「これは…おかしい。」
おぞましい程の吸血クラゲの群、群。もしかして、あの大型の吸血クラゲが防除ネットに入ってから、大量に増えのか。
「…下見はここまでにしよう。一人では危険過ぎる。」
そう思って、岸に戻ろうとした時…
「…っ!?がっ!!あああぁ!?」
バシャアァァン!!
腕に何かが巻き付いたかと思うと、そのまま海中に引きずり込まれた。目の前にあるのは…予想通りだ。大型の行灯の様な形をした吸血クラゲ。
「ゴボッ!!ゴブゴブッ!!」
息が出来ない。首に、手首に次から次に巻き付かれる度に、走る耐え難い激痛に意識が飛びそうになる。
(やっぱり、誰か隊員を呼ぶべきだったか…)
もがけばもがく程、次々触手は絡み付いてくる。ズルズルと相手の中に引き込まれていく。
「ガボッ!!ゴボゴボッ!!」
(せめて、ちゃんと装備だけでもしておけ…ば…)
潜るつもりがなかったので、ボンベもレギュレーターなんて持って来ていない。ラッシュガードどころか、ただのシャツにライフジャケットを着けただけ…毒針を防いでくれるものは何もなかった。
「…ッ!…ゴボッ!」
何も考えられなくなってきた。ただただ、苦しかった。シュルシュルとさらに絡み付いてくる触手の感覚だけは感じるのは、不幸としか言いようがない。
酸欠に加えて、全身を刺される痛み、心臓も破裂しそうだ…このまま喰われて、最悪な死に方をするのか。
(ああ、ざんぎょ、う…なんて、するん…じゃなかっ…クソッタレきん、ろ…)
「ゴボリ…」
最後の空気の泡が海上に上がってくのを、ボンヤリと眺める。すると、上から大量の何かが飛び込んできた。魚に見えるその何かは、迷いなく私を捕らえているクラゲ達に向かっていく。
(じょう…でき…だ。ロナルドく…、あと…すこし、はやか…た、ら)
私を拘束している触手もそれらに喰いちぎられる。そこで、私の意識は途切れた。
「ヌヌヌヌヌヌ…」
ああ…ごめ…んね。ジョン、しんぱ…いさせて。
泣いているマジロの頭を撫でる、真っ赤に腫れ上がった我ながら酷い姿だ。
「隊長…。」
霞んだ視界に手を伸ばす。包んでくれた小さな手は温かかった。
「気負うなって、人に言うくせに!一人で!!か、勝手に!!私達を頼ってくれ!」
ごめ…んね、ていさ…つのつも…りだった、か…ら。
ゲホッと咳が出る。声も上手く出せない。
「ドラルク、起きたな。なあ、あれでよかったのか?」
おつか…いごくろ…うさ、ま。たすか…もうすこ、しはやくきて…ほしかっ…
「あぁ…ゴホッ!せっかく…のないとびー…ちなのに。」
あのエセ昼行灯のセリフでないけど、入院ではなく、少しぐらいバカンスしてから帰りたかったものだ。
「しかし、あれは圧巻だったよなあ。」
ロナルドが、頬杖をつきながら隊長を覗き込む。体を拭き終わって、私は検査服の前を合わせると、椅子に腰かけた。
「それは思うな。ジョンが『防除ネット区域に行って帰って来ない』って私達を呼びに来て、マリアさん達と近くまでシーカヤックで来てたんだ。ロナルドが空中から何かを撒いているのを見た時は驚いた。」
隊長にVRCにおつかいを頼まれたロナルドだが、彼が渡されたコンテナの中には大量の「吸血鬼化したウマヅラハギ」が入っていたらしい。
「あれは、ハコクラゲの類いだったのだね。ネットを乗り越えて侵入してきたらしい。ネットの中がクラゲだらけになったのは、突然変異体で分裂でもしたか、産卵してすぐに孵化させた、としか思えないんだけど。ケホ、ケホッ!駆除してしまってはもう分からないね。」
声が掠れてきたので、隊長の口元に吸い飲みを宛がってやる。喉仏がゴクゴクと動いているのを、確認してから離してやると、隊長がホッと息をついた。
「あんな魚がよってたかって、3mぐらいあるクラゲまで喰っちまったんだもんな。」
「ウマヅラハギは、クラゲの天敵でね。例年、防除ネット内に侵入してくる吸血クラゲ対策に、改良を依頼していたものなのだよ。亀やマンボウ、ペンギンと違って、飼育は容易だし、誘引剤で回収もしやすい。」
「えっ!?ぺ、ぺん…いや。何でもない。」
吸血ペンギンの大群を離すのだけは、勘弁して欲しい。想像するだけで、怖気が走る。
「へえ、ペンギンもクラゲ食うのか。それもおもしろそ…痛ぇ!?何だよ、つねるなよ。」
しかし、あれは地獄絵図だったぞ。入れ食い状態で、喰われていくクラゲ達…何より。
「その中から、隊長が呼吸が止まった状態で浮いてきたんだ。肝が冷えたぞ。一人で背負わないでくれ。」
「ごめん…まさか海上の人間を引きずり込む様な知能があると…んぐっ!?」
ごめんですませないからな。私は、言い訳をしようとした隊長の口を塞ぐ。ショック症状が尾を引いてるのか、いつも私を捉える貴方の長い舌は熱を持って腫れぼったかった。
「…ふっ…は…ぁ。」
ああ、貴方のその声。生きてくれている。それで十分だ。心肺蘇生をしていた時の、あの冷たい感触は思い出したくもない。
「ぷはっ…ヒナイチくん?」
チラリと後ろを確認する。気が利くジョンが、咄嗟にロナルドの目を塞いでくれていた。すまないな。
「隊長…元気になったら、今度こそゆっくり海に行こうな?それとも、川の方がいいか?」
「いや、君達とならどちらでも。」
その時は、マリアさん達と選んだとっておきの水着…貴方に見せたいと思うんだ。
泳いで、バーベキューをして、そして、花火をして…今回作り損ねたチームの思い出をいっぱい残そう。