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全体公開 神無三十一受け 16 41 2827文字
2023-07-07 20:00:02

七夕企画 第四弾
カルみと 宵の口
シナリオネタバレあり

 

 「織姫と彦星の話ってさ、」

 止まない雨をぼんやりと眺めていた縞斑は、背後で椅子に座り黙って作業に勤しんでいた神無から発せられた声を振り返った。
 白い布を手にして、ごそごそと作業の手を止めないまま、縞斑の視線がこちらに向いたことに気付いた神無は話を続ける。

 「実はそんなに言うほど感動的じゃないの、知ってる?」
 「というと?」

 縞斑が問えば、一度手を止めた神無は顔を上げて縞斑を見上げた。何かの機会に調べて覚えたらしい彼は、憂うように瞳を伏せたまま一つ息を吸うと口を開く。

 「……昔々、天の川の東に織物を織るのがとても上手な織女がいました。しかし、織女は年頃になっても、化粧もせず遊びにも行かず織物ばかりを織り続けるので、織女の父である天帝は不憫に思い、婿探しを始めます。」

 神無の言葉を聞きながら、縞斑は窓辺からソファーに戻ると、彼の隣に腰を下ろして昔話の続きに耳を傾ける。

 「一方その頃、天の川の西には真面目に働く牛飼いの青年、牽牛がいました。天帝は牽牛の噂を聞きつけ、「是非娘と結婚してくれ」と願い出ました。牽牛はその話を有り難く引き受け、二人は結婚することになったのです。」

 話される織姫彦星の昔話は、思い返せば子供の頃からあまり詳しく聞いたことがなかったなと縞斑は頭の隅で考えた。
 縞斑の記憶に残るのはせいぜい、小学校の頃に目にした教科書の片隅程度の情報量だ。

 「……ところが結婚してからというもの、あれだけ一生懸命に働いていた二人は、毎日天の川のほとりで話をするばかりで全く働かなくなってしまったのです。これに激怒した天帝は二人を引き離し、「前のようにしっかり働くのなら、年に一度、7月7日の夜だけは会ってもよい」と告げたのでした。」

 話し終えた神無は顔を上げて、めでたしかな、と笑う。縞斑は小さく目を瞬くと、素直な感想を口にした。

 「そんな話だったんだ、単に恋人が離れ離れになるって話だと思ってた。」
 「そう。そもそも夫婦だし、怠けたから引き離されただけなんだよね。」

 縞斑の話に返事をした神無は、止めていた手を再び動かし始める。
 彼の作業が気になった縞斑は横から僅かに身を乗り出してその手元を覗き込んだ。随分可愛らしいものを作っていたのだと、縞斑は思わず笑みを漏らす。

 「その話と、神無ちゃんがさっきから作ってるそれと、直らない君の機嫌には、関係があるのかな?」

 神無が作っていたのは、小さなてるてる坊主だった。縞斑が揶揄うような声音でそう尋ねれば、殆ど完成に近づいたそれを握った神無は、不機嫌そうに唇を突き出してぽそりと呟く。

 「……二人が真面目に働かなかったせいで雨が降って、出掛ける予定がダメになった。」
 「あはは、織姫と彦星関係無いでしょ。」

 窓の外は、朝からひどい雨が降っていた。
 本来なら今日は、朝から二人で買い物に出掛けて、神無が気になっていたらしいカフェに寄って、予約していた店で晩御飯にありつく予定だった。
 低気圧によって神無は朝から具合が優れず、雨では更に体を冷やしてしまうからと、当初の予定を諦めて家でのデートに変更したのである。
 ずっと楽しみにしていたらしい神無は縞斑の提案に落ち込み、それでも互いに風邪を引いては大変だと諦めたのだ。
 とはいえ行き場の無い苛立ちが募ってしまったらしく、思いの外冷めていた織姫彦星伝説にその矛先が向けられたらしい。

 「まぁまぁ、晴れたら改めて行こうよ。その時は神無ちゃんの行きたいところぜーんぶ行こう。」

 縞斑はそんな神無の頭をぽんぽんと撫でる。神無が今日という日を楽しみにしていたことはもちろん縞斑も知っていたが、無理をして体調が悪化するくらいならば日を改めるべきだとどうにか説得したのだ。

 「……うーん。」

 未だ不満げながらも仕方ないとは思っているのか、神無は渋々頷く。
 神無の手の中のてるてる坊主は無事に完成したらしく、ソファを立った彼は真っ白なそれを窓辺に吊るした。
 相変わらず雨は止む気配がない。おそらく、今日は夜までこの調子なのだろう。

 「明日は神無ちゃん、用事無いんだよね?」
 「うん、非番だよ。」

 緊急事態があれば招集があるが、現在ドロ課では大きな事件を追っているわけではないため、計画的な休暇が取れていた。
 特にスケジュールを管理しているディーノ伝手に、神無が縞斑と過ごしていることを知っている青木は、気を遣ってよほどの事態でもない限り呼び出さない。

 「じゃあ今日は泊まっていきなよ。アサギリちゃんには明日の昼に戻るって伝えておくから。」
 「え……いいの?」

 明日は縞斑は昼から仕事が控えているため、デートの後は解散して直接アジトに戻る予定だった。だから神無は、家デートになった今日も夜になったら自宅に帰らなければならないと思っていたのだ。
 驚いた様子で顔を上げた神無の沈んでいた表情に、ようやく僅かな光が差す。縞斑はその様子に少しだけ安堵しながら頷いた。

 「いいよ。明日は夜には帰ってくるだろうし、神無ちゃんが大丈夫ならそのままここに居ていいからさ。」
 「うんうん!そうする!!」

 明日の仕事はスパローのリーダーである縞斑にしか務まらず、どうしても家に居られない。
 しかし神無は、少しでも長く恋人と過ごせることが嬉しかったのだろう。ぱぁと花が咲くように表情を明るくさせた彼の気持ちを、更に持ち上げようと縞斑は言葉を続けた。

 「実は冷蔵庫に、昨日買ったケーキがあるんだなぁ。」
 「ケーキ!?」
 「そう。好きなの持ってきていいよ。」
 「やった!ありがとう!!もってくる!!」

 先ほどまでの不機嫌が嘘のように、神無は瞳を輝かせながらいそいそとキッチンの方へ走っていく。神無の鼻歌を聞きながら、縞斑は笑顔を見せてくれた彼の様子に一安心していた。
 アサギリから『こちらは任せて、どうぞごゆっくり』という気遣いのメッセージを受け取った縞斑は、どこまでもよくできた相棒に感謝を送ると席を立つ。
 たまにはこんな日もいいかもしれない、そう考えながら縞斑はキッチンの神無の元へ向かおうとした。

 「ん?」

 その時ふと、窓辺で揺れていたてるてる坊主の端に何かが覗いた気がして、彼はぴたりと足を止めた。
 首を傾げた縞斑は、キッチンに向かおうとした足をそのまま窓の方へと向ける。
 てるてる坊主の裾裏を指でつまんだ彼は、不思議に思いながらそっと覗き込んだ。

 「……ふふ」

 そこに小さく書かれた文字を見た縞斑は、思わず小さく笑みを漏らす。
 そうして彼は今度こそ見えないように裾裏を隠してやると、雨にも関わらず願いが叶ったらしい恋人の元へ向かった。
 

 『だらだら先輩と、もっと一緒にいたい。』




 


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