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守護霊の呪文について歴史から考察する

全体公開 4 3097文字
2023-07-09 20:11:12

考察としては緩めでざっくりしてる、ほぼ妄想、かなり雑、いずれ整理する予定

1. 守護霊の呪文とその語源
 守護霊の呪文は非常に古い呪文である。過去に発売されたゲーム "Wonderbook: Book of Spells" の描写に従えば、守護霊ははるか昔から使われている魔法のひとつであるということになる。
 その古さを意識すると、呪文を構成するラテン語には若干の違和感が見える。
 "Expecto Patronum" 、日本語では「守護霊よ、来たれ」と訳されるこの呪文は、それぞれ以下のように分解できる。

Expecto: exspectō(待ち望む、期待する)
Patronum: pater(父、祖先、保護者)

 原作者のJKRはPatronus(守護霊)について "spirit guardian" とも説明している。一見、このpaterは説明に適さないようにも思える。
 しかし、ブリテン島にラテン語を普及させたのがキリスト教であることを加味すると、paterの持つニュアンスが大きく変化する。キリスト教ラテン語においてpaterは教父、または父なる神そのものを意味するからだ。
 もちろん、魔法によって呼び出されるのはキリスト教が言うところの神ではない。守護霊を招来する魔法がキリスト教の伝来以前から使われていた可能性は十分にありうる。その場合、呪文は既存の魔法に後付けされたことになる。

2. 本来の守護霊
 では、呪文によってpaterとされる以前に招来されていた守護霊とは一体どのようなものだったのか。
 闇の魔法使いラクジディアンが守護霊の呪文で蛆の軍勢を呼び出し、それに食い尽くされることで死亡したという逸話がある。これは先述の "Wonderbook: Book of Spells" に登場し、闇の魔法使いや魔女には守護霊の呪文が使えないことを示す。
 原作ではドローレス・アンブリッジ、セブルス・スネイプが守護霊の呪文を使っている。何をもって闇とするかの定義が曖昧なため完全な反例とすることはできないが、両者が善性に満ち溢れた人物でないことは確かである。
 そもそも、ラクジディアンの例は本当に失敗だったのだろうか。蛆の軍勢に食い尽くされて死ぬというのはもっともらしい失敗例だが、呼び出された。それが守護霊ではなかったということにはならない。
 守護霊の呪文は幸せな記憶を必要とする。しかし、守護が必要となる場面で抱く感情が幸福なものであるとは考え難い。文字通りの守護霊であればむしろ恐怖や絶望に応じて駆けつけるべきだ。
 ここからひとつの仮説が浮かび上がる。守護霊の呪文に幸せな記憶が必要なのではなく、幸せな記憶を導線としたときにのみ守護霊と呼べるような存在が招来されるのではないか。
 キリスト教以前、さらに言えばローマ以前のブリテン島ではケルトのアニミズムから出発したドルイド教が一般的だった。自然の神格化から発展していき、多神教として成立したドルイド教についてはカエサルが多くの記述を残している。中でも今回注目すべきは霊魂転移説である。
 霊魂転移説とは、肉体の死後に霊魂が他の生物に乗り移って生き続けるということである。原始宗教一般に見られる信仰ではあるが、これがドルイド教の自然崇拝と結びつく形でケルトでは多くの動植物が信仰の対象となった。
 もちろん、自然崇拝には荒ぶる自然も含まれる。ラクジディアンの例は守護霊の呪文に失敗したのではなく、荒ぶる霊を招来したと解釈することもできる。
 父祖の霊であり、神である霊魂。これにpaterの語をあてるのはかなり相応しいのではないか。

3. ラテン語の導入と呪文化、改善
 キリスト教以前の守護霊がこれまで見てきたような自然霊の招来であったとして、なぜ現在の「幸福な記憶によって呼び出される守護霊」が一般化したのだろうか。
 paterの語がブリテン島で広まったきっかけはローマでのキリスト教迫害にある。通説ではブリテン島へのキリスト教の布教は597年にグレゴリウス一世の命に基づきアウグスティヌスがブリテン島に渡ったことからはじまるとされているが、接触自体はさらに昔、弾圧から逃れブリテン島に渡ったキリスト教徒が最初である。
 ブリテン島の隠れキリシタンたちは下記の暗号を秘密の祈祷所に用いた。

ROTAS
OPERA
TENET
AREPO
SATOR

 ラテン語では「種をまく人は鋤車を注意深く動かす」という意味になり、一見ただの警句に見える。
 しかし、これをA(アルファ)から始まりO(オメガ)で終わる形で並び替えると、その内側に "Pater Noster" (われらが父)という祈りの言葉で組まれた十字が現れる。
 多神教であるドルイド教は異教の神に対し寛容であり、隠れキリシタンが崇拝する「父」を神として受容した。これにより、ドルイド教の中でpaterは単に父祖というだけではなくなり、救い主の意味が加わった。
 荒ぶる自然霊が救い主の神として招来されるべきではない。原作の作中でも描写されているとおり、魔法は研究によって改善・洗練されていくものだった。「幸せな記憶」という導線はこの改善によって付け加えられた部分なのではないだろうか。
 作中では主に吸魂鬼への対策として描かれる守護霊だが、吸魂鬼はエクリジスが生み出した人造の魔法生物であり、守護霊よりも新しい存在である。アルバス・ダンブルドアが守護霊に改善を加え、伝言機能を追加したことからも、守護霊が本来持つ多様さ、柔軟さが伺える。

4. 余談と雑記
 キリスト教化が最も早く進んだのはアイルランドである。サラザール・スリザリンはアイルランドの出身であることが示唆されており、時期も考えると彼が修道院で教育を受けた可能性はかなり高い。解釈によっては闇の魔法使いとされるスリザリンが守護霊の呪文を扱えたかは興味深い問いだ。
 守護霊の呪文を唱える際の「幸せな記憶」を上記の通りセーフティーと解釈するのであれば、アンブリッジが守護霊の呪文を扱えたのは彼女の理解が高度なものであったからという説明がつく。
 なぜ闇の魔術師には守護霊の呪文が扱えないとされていたかについてだが、これはトム・リドルが愛の魔法に価値を見出さなかったこと、ダンブルドアが闇の魔法を劣ったものと見なしたことが説明になりうる。魔法界においては明確に力を示す魔法であっても感性に合わないものを低く見る傾向があり、「幸せな記憶を必要とする魔法」を嫌う魔術師が闇の魔術師に多いのではないか。
 正直に言うと "Wonderbook: Book of Spells" の情報はネット頼りなのでこれを考察と呼ぶのはおこがましい気がする。でも実機でプレイできる環境を構築するのは無理だ。PS3を今から入手するだけでも大変なのに、PS3のVR環境を構築するのはすごく、すごくお金がかかる。

参考文献など
『イギリス宗教史』(浜林正夫、大月書店、1987年)
『アイルズ 西の島の歴史』(ノーマン・デイヴィス、共同通信社、2006年)
『イギリス史』(トレヴェリアン、みすず書房、1978年)
「3. ラテン語の導入と呪文化、改善」で引用した暗号については "Discovering English Churches" (R. Foster, London, 1981, p.11.) に詳しく記載。


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