@azisaitsumuri
孤軍奮闘、仲間の存在に鼓舞される性格のくせにいつもそんな戦い方ばかりする男だった。まあ、現地で協力を得ることも有るらしいが。
どちらかと言うと我々は救助隊の立場なのだ。現地の協力は、火力的な戦力とはまた別物だろう。救助のために自ら前線に出てしまう男からすれば特に?
そんな男に無理矢理持たせた防犯ブザー、もとい救難信号を出す装置は、もはやただの御守りである。使われない。分かって居る。もう持って居るだけマシだと思うことにした。
そして、そんなふうだから、ほら、言わんこっちゃ無い。男からの通信が途絶えた。
通信機は防犯ブザーなんかよりそれは高性能で、御守りなんかよりよほど丈夫だが、ようやっと届いた男からの連絡は、救難信号だった。
なぜ。
先方がどういった状況なのか考えもせず、立ち上がってひとり信号元を辿った。これではあの男を笑えないな。けれど良いのだ、今からあの男を笑いに行くのだから。たったひとりで突っ走るおまえを迎えに来てあげましたよ、って。
しかし辿り着いた地は既に壊滅状態。何も無かった。見たところ焦土と化して幾らか経って居る。これでは救難信号の発信時刻と合わない、それに、あの男ならこれくらいのことでは助けを求めない。そもそも奴の任務は、紛争地での一般市民の避難誘導だった筈。動かない人型を見るに、避難率は八割程か。けれどこの地の彼ら自身が自分達の領土をそのように扱った結果がこれなら、そもそも部外者で有る我々としてはなすすべ無く、戻って来るしか無い。これはこれで任務の完了なのだから。ではこの救難信号はいったいなんなのか。
信号の発生源は、ここより更に進んだところだ。歩みを進める。奴はそこに居る。
焦土と化した領土を進む。この辺りでは珍しく無い構造の一般的な家庭の建築物が並ぶ中、目的地もそこであった。
不思議に思いながらも進むことは決定事項だ。崩れた家屋の扉をくぐる。
家庭だって社会の縮図だ。家の中も荒れ放題だった。住人は一人暮らしのように見えるが。しかし、そのたった一人のために兵隊が屋内に侵入して迄害を成そうとするだろうか?疑問はそれだけじゃ無い。屋内の傷は、今よりもっと古いものも有るようだった。
倒れた家財を跨いで進む。目的の部屋はその特性から、濡らした靴の足音をぴちゃんと立てた。
「……ずっと、自分の意思じゃない、こんなことは本当はしたくない、って言って居た。」
良く知った声が浴室にこだまする。探していた男は、この家の中で、最も血生臭い場所に居た。
「自分の体を勝手に使う、自分じゃない者のせいだと言って居た。」
男はこちらを振り向かずに続けた。
「だから本意ではない行動を取る自分の体を止めるために、」
その視線の先は、濁った水で良く見えないが、切り落とさんばかりに抉ったであろう腕を浸けた、一人の人物の姿が有った。
「……助けたかった。」
その人物は、紛争で死んだ訳ではなかった。否、ひょっとしたら紛争が一因には成って居たかもしれないが、直接の原因は、本人自身だ。
「……おまえに似てたから。」
救う対象は、その信号を発したこの男ではなかった。
しかしいずれにせよ、わたしが手を差し伸べに来たのは、この男に対してなので。
はあとついた溜め息さえ反響する。
「おまえは救難信号の出し方を間違えて居る。」
ぞんざいに取った男の冷たい手には、拠り所のように御守りの装置が有った。それごと上から握り締めてその場を去る。
これにて任務完了。