25巻のヴェンタビに当てられて、衝動的に書いてしまったお話です。本誌より10年後ぐらいのイメージで書いてます。ピヨちゃん、素直でないから一緒にいる理由を作る為に、気づいても知らないふりをするんじゃないかな。
さらに、年月を重ねて二人の履いた靴下が絡み合うシーンを追加しました。
2023/05/11に上げました。
@kw42431393
ドラウス達との会合に行ってきただけだぞ?それなのに、なんだこれは…。
我が輩が出かける前に片付けた場所に、さらに積み重ねられた同胞達の靴下の山。
奪った吸血鬼の靴下の臭いを嗅ぎ、しゃぶり、コレクションするタビコの性癖は、貴様らも知っておろう。洗っては意味がないのだ。だから、またしても部屋に悪臭が漂っておる。
「キイイ!急いで帰って、これか!我輩が泊まりでもしてたら、どうする気だ!」
いつも通り、マントを脱ぐとさっさとエプロンを着けた。台所に向かい、冷蔵庫を確認する。作り置きの料理はなくなっていた。片付けより先に、次の食事を作ってやるか。
靴下を奪われて間がなかった頃はまだここまで酷くなかったが、タビコは元々、家事が苦手…いや、ダメな小娘だった。趣味に興味が全振りしていたあやつは、食生活も酷かった。
靴下を探す為に、通いの家政夫となって、どれぐらい経っただろう。今やすっかり、我が輩を当てにして…
「ヴェントルー、帰ったのか?」
「小娘、貴様また…あー!やめんか!」
後ろから現れたタビコを見て、飛び上がる。そう、この小娘。風呂上がりは裸族なのだ。バスタオルで頭をゴシゴシ搔きながら、逆に呆れた顔で我が輩を見おる。
「何度言ったら分かるのだ。せめて、何か穿け。」
「今更だろう…履いてるぞ。ほら。」
慌ててバスローブを羽織らせている、我が輩を尻目に下を指差す。
「馬鹿者!何故下着は穿かずに、靴下なのだ!いつもいつも!」
「なんだ、裸靴下派ではないのか。皆好きだろう?」
飄々と躱す小娘に頭を抱える。そのまま、我が輩を無視してタビコは、ソファにうつ伏せに寝転んだ。携帯を弄りながら子供の様に、足をバタバタして…だから、やめんか。お尻が丸見えではないか。
「全く、靴下さえ見つかれば…こんな小娘の世話なんぞ。」
タオルケットをかけながら、ぼやく…そうだ、一滴残らず吸い尽くしてやるのに。
「小娘…な。フフ。」
タビコがムクリと起き上がった。なんだと言うのだ。
「お前にとって、いつまでも私は小娘か…。」
そこそこいい年だぞ?と、タビコは続ける。何を言うか、貴様は我が輩の十分の一も生きておらぬクセに…。
「ふん!貴様が何十歳になろうと、小娘よ!」
ウフフ…と笑いながら、タビコは足を組み直した。ふわり、と何かが匂った。ダンピールほどではないが、我々吸血鬼も嗅覚は鋭い。
そうなのだ、あやつといる時に、微かに漂う我が輩の匂い。この匂いは、我が輩がずっと探してきた物のはずだ。
一応、靴下の山を片付けつつ探してはおるが…本当はおそらくそこにはない…のだ。
「なあ…ヴェントルー。」
すっと、我が輩を覗き込む小娘の顔が柔らかくなった。どこか遠くを見る様な、それでいて甘えた子供の様な…昔から、我が輩はこの顔が嫌いではない。
「な、なんだ?」
おそらく、人間共も同胞達もよく知るタビコは、自信を持って、自らの性癖に忠実なイカれた女だ。コートの裏に羽毛の如く奪った靴下をぶら下げ、イキイキとしたサディステックな笑顔でシンヨコの夜を飛び回る、変態であろう。
おそらく、この顔を知るのは我が輩だけ…。それに、がっしりとした体に、女性らしいラインを描く健康的な体は、我が輩が作ったものだ。初めて会った頃の、小娘とは比べ物にならない。
だが、認めてやる訳にはいか…。
「フッ!」
「ぶわっ!?やめんか!ちゃんと歯を磨け!」
不意打ちで息を吹き掛けられた。同胞達の靴下でツーンとした…何とも形容しがたい臭いがして、思わず涙目になる。
「アハハ。またかかったな。」
「全く何を考えておるのだ!」
さっきまでの儚げな笑顔は、変態の笑顔にコロリと変わる。全く忙しい娘である。
しかし、実はこのイタズラをされる度、タビコと時を過ごす度に確信する事がある。
正直、我が輩の靴下もあんな目にあっているのかと怯えてきたのだが、あやつの口から我が輩の匂いが漂ってきた事はない。我が輩の靴下をしゃぶったりはしていないのだ。
『お前の靴下は、私にこの世界の素晴らしさを教えてくれたものだ。そんな扱いをするものか。』
そう言われた時、悪寒と共に胸にこみ上げてくる何かがあったのを覚えている。
どこに…今、タビコは下着も身につけていない。着けているのは、我が輩が羽織らせたバスローブに自身の靴下だけ…靴下だけだ。
「分からないのか?」
急にまた真面目な顔に戻った小娘に、動揺する。
「なあ、大鴉。お前なら大事なものはどうする?」
それは…
「誰にも触られないところ、盗られる事がないところ。どこだろうな?」
やめよ。分かりつつあって、確信が恐ろしくて、蓋をしたのだ。だから…
「…早く、髪を乾かして寝るがいい。もうすぐ夜が明ける。」
窓の外が白み始めていた。昼の子の時間が、始まる前に食事の用意をして、片付けをやらねば。
冷蔵庫にタッパに詰めた料理を入れると、片付けをする為に、我輩は靴下だらけの部屋の扉を開けた。
「…ヴェントルー。」
止めよ、我が輩の心を乱すその声を出すでない。
「日が暮れたら、来い。そろそろ衣替えを頼む。」
「キイイ!仕事を増やすでないわ。日が昇ろうとしている時に、次の晩の注文とは気が早すぎるぞ!」
「あと、食事は小松菜をドロドロにしたのを頼む。」
「ああ、分かった」と靴下の部屋に入る。その時、後ろからポツリと小娘の独り言が聞こえてきた。
「無理矢理捕えていた鴉を…外に放してやるつもりだったのに。」
聞かなかった事にする。我が輩の執着は…もはや靴下ではなく、靴下を履いた貴様なのだ。
明日もここに来る理由が必要なのだ。
だから…靴下は絶対見つけてはならない。
「ヴェントルー…」
何十年経とうと、貴様は我が輩にとって小娘よ。誇り高き翼の血族の当主を、顎で使おうとするイカれた…我が輩の大事な片割れだ。
「フフフッ、分かっていてやっているのだろう?」
「…何の話だ?」
我が輩の下で笑う貴様は、年を重ねる度に妖艶になっていって、我が輩を絡めとっていく…。
「…お前が探していたものは、再び再会出来て喜んでいるぞ?」
左足が我が輩の腰を巻く。靴下を履いた右足が我が輩の左足に絡み付いた。
「勝手にほざくが…むっ!?」
今宵は歯を磨いてくれていたらしい。頬に手を添えて唇を重ねてくる。口からあのムッとする臭いはしない…だから、我が輩も安心して奴に応える。
「…ふっ、う…くっ…」
あぁ、こんな声も出せたのだな。この恍惚とした顔、満足気な声…これを知っているのは我が輩だけだ。我が輩だけのものだ。
「ウフフッ、どうした?お前も嬉しいのか?」
右足だけ履いた靴下が、スリスリと我が輩の左足の靴下を撫でる。こうして、対面して抱き合って…長年離されていた靴下はやっと揃ったのだ。
「…なあ、大鴉。」
あぁ、もう戻れまい…分かっていて我らはこの関係を続けるのだろうか。それとも…
「お前を放してやろうと、考えていた事もあったのだが…」
快楽に蕩けていたタビコの瞳が、こちらを向く。ニイッと口角を上げたその顔は、昼の子というより我らに近かった。
「やめた。執着心は、吸血鬼だけの特権ではないのだからな。」
それを聞いて安心した。今では、貴様が納得するまでその奇行をやり尽くした後、翼の血族に迎え入れても構わぬと思っている。
「そうであろうよ。靴下は揃ってこそ意味がある。我らは、とっくに揃っておったのかもしれん。」