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鴉はここから動けない

全体公開 ドラヒナ以外のお話 2 29 3167文字
2023-07-12 08:31:54

25巻のヴェンタビに当てられて、衝動的に書いてしまったお話です。本誌より10年後ぐらいのイメージで書いてます。ピヨちゃん、素直でないから一緒にいる理由を作る為に、気づいても知らないふりをするんじゃないかな。
さらに、年月を重ねて二人の履いた靴下が絡み合うシーンを追加しました。
2023/05/11に上げました。

Posted by @kw42431393

 ドラウス達との会合に行ってきただけだぞ?それなのに、なんだこれは。    
 我が輩が出かける前に片付けた場所に、さらに積み重ねられた同胞達の靴下の山。   
 奪った吸血鬼の靴下の臭いを嗅ぎ、しゃぶり、コレクションするタビコの性癖は、貴様らも知っておろう。洗っては意味がないのだ。だから、またしても部屋に悪臭が漂っておる。
 「キイイ!急いで帰って、これか!我輩が泊まりでもしてたら、どうする気だ!」
 いつも通り、マントを脱ぐとさっさとエプロンを着けた。台所に向かい、冷蔵庫を確認する。作り置きの料理はなくなっていた。片付けより先に、次の食事を作ってやるか。
 靴下を奪われて間がなかった頃はまだここまで酷くなかったが、タビコは元々、家事が苦手いや、ダメな小娘だった。趣味に興味が全振りしていたあやつは、食生活も酷かった。
 靴下を探す為に、通いの家政夫となって、どれぐらい経っただろう。今やすっかり、我が輩を当てにして
 「ヴェントルー、帰ったのか?」
 「小娘、貴様またあー!やめんか!」
 後ろから現れたタビコを見て、飛び上がる。そう、この小娘。風呂上がりは裸族なのだ。バスタオルで頭をゴシゴシ搔きながら、逆に呆れた顔で我が輩を見おる。
 「何度言ったら分かるのだ。せめて、何か穿け。」
 「今更だろう履いてるぞ。ほら。」
 慌ててバスローブを羽織らせている、我が輩を尻目に下を指差す。
 「馬鹿者!何故下着は穿かずに、靴下なのだ!いつもいつも!」
 「なんだ、裸靴下派ではないのか。皆好きだろう?」
 飄々と躱す小娘に頭を抱える。そのまま、我が輩を無視してタビコは、ソファにうつ伏せに寝転んだ。携帯を弄りながら子供の様に、足をバタバタしてだから、やめんか。お尻が丸見えではないか。
 「全く、靴下さえ見つかればこんな小娘の世話なんぞ。」
 タオルケットをかけながら、ぼやくそうだ、一滴残らず吸い尽くしてやるのに。

 「小娘な。フフ。」
 タビコがムクリと起き上がった。なんだと言うのだ。
 「お前にとって、いつまでも私は小娘か。」
 そこそこいい年だぞ?と、タビコは続ける。何を言うか、貴様は我が輩の十分の一も生きておらぬクセに
 「ふん!貴様が何十歳になろうと、小娘よ!」
 ウフフと笑いながら、タビコは足を組み直した。ふわり、と何かが匂った。ダンピールほどではないが、我々吸血鬼も嗅覚は鋭い。
 そうなのだ、あやつといる時に、微かに漂う我が輩の匂い。この匂いは、我が輩がずっと探してきた物のはずだ。
 一応、靴下の山を片付けつつ探してはおるが本当はおそらくそこにはないのだ。



 「なあヴェントルー。」
 すっと、我が輩を覗き込む小娘の顔が柔らかくなった。どこか遠くを見る様な、それでいて甘えた子供の様な昔から、我が輩はこの顔が嫌いではない。
 「な、なんだ?」
 おそらく、人間共も同胞達もよく知るタビコは、自信を持って、自らの性癖に忠実なイカれた女だ。コートの裏に羽毛の如く奪った靴下をぶら下げ、イキイキとしたサディステックな笑顔でシンヨコの夜を飛び回る、変態であろう。

 おそらく、この顔を知るのは我が輩だけ。それに、がっしりとした体に、女性らしいラインを描く健康的な体は、我が輩が作ったものだ。初めて会った頃の、小娘とは比べ物にならない。
 だが、認めてやる訳にはいか
 「フッ!」
 「ぶわっ!?やめんか!ちゃんと歯を磨け!」
 不意打ちで息を吹き掛けられた。同胞達の靴下でツーンとした何とも形容しがたい臭いがして、思わず涙目になる。
 「アハハ。またかかったな。」
 「全く何を考えておるのだ!」
 さっきまでの儚げな笑顔は、変態の笑顔にコロリと変わる。全く忙しい娘である。
 しかし、実はこのイタズラをされる度、タビコと時を過ごす度に確信する事がある。
 正直、我が輩の靴下もあんな目にあっているのかと怯えてきたのだが、あやつの口から我が輩の匂いが漂ってきた事はない。我が輩の靴下をしゃぶったりはしていないのだ。

 『お前の靴下は、私にこの世界の素晴らしさを教えてくれたものだ。そんな扱いをするものか。』

 そう言われた時、悪寒と共に胸にこみ上げてくる何かがあったのを覚えている。
 どこに今、タビコは下着も身につけていない。着けているのは、我が輩が羽織らせたバスローブに自身の靴下だけ靴下だけだ。
 「分からないのか?」
 急にまた真面目な顔に戻った小娘に、動揺する。
 「なあ、大鴉。お前なら大事なものはどうする?」
 それは
 「誰にも触られないところ、盗られる事がないところ。どこだろうな?」
 やめよ。分かりつつあって、確信が恐ろしくて、蓋をしたのだ。だから
 「早く、髪を乾かして寝るがいい。もうすぐ夜が明ける。」
 窓の外が白み始めていた。昼の子の時間が、始まる前に食事の用意をして、片付けをやらねば。
 冷蔵庫にタッパに詰めた料理を入れると、片付けをする為に、我輩は靴下だらけの部屋の扉を開けた。
 「ヴェントルー。」
 止めよ、我が輩の心を乱すその声を出すでない。
 「日が暮れたら、来い。そろそろ衣替えを頼む。」
 「キイイ!仕事を増やすでないわ。日が昇ろうとしている時に、次の晩の注文とは気が早すぎるぞ!」
 「あと、食事は小松菜をドロドロにしたのを頼む。」
 「ああ、分かった」と靴下の部屋に入る。その時、後ろからポツリと小娘の独り言が聞こえてきた。

 「無理矢理捕えていた鴉を外に放してやるつもりだったのに。」

 聞かなかった事にする。我が輩の執着はもはや靴下ではなく、靴下を履いた貴様なのだ。
 明日もここに来る理由が必要なのだ。
 だから靴下は絶対見つけてはならない。



 「ヴェントルー
 何十年経とうと、貴様は我が輩にとって小娘よ。誇り高き翼の血族の当主を、顎で使おうとするイカれた我が輩の大事な片割れだ。
 「フフフッ、分かっていてやっているのだろう?」
 「何の話だ?」
 我が輩の下で笑う貴様は、年を重ねる度に妖艶になっていって、我が輩を絡めとっていく
 「お前が探していたものは、再び再会出来て喜んでいるぞ?」
 左足が我が輩の腰を巻く。靴下を履いた右足が我が輩の左足に絡み付いた。
 「勝手にほざくがむっ!?」
 今宵は歯を磨いてくれていたらしい。頬に手を添えて唇を重ねてくる。口からあのムッとする臭いはしないだから、我が輩も安心して奴に応える。
 「ふっ、うくっ
 あぁ、こんな声も出せたのだな。この恍惚とした顔、満足気な声これを知っているのは我が輩だけだ。我が輩だけのものだ。

 「ウフフッ、どうした?お前も嬉しいのか?」
 右足だけ履いた靴下が、スリスリと我が輩の左足の靴下を撫でる。こうして、対面して抱き合って長年離されていた靴下はやっと揃ったのだ。

 「なあ、大鴉。」

 あぁ、もう戻れまい分かっていて我らはこの関係を続けるのだろうか。それとも
「お前を放してやろうと、考えていた事もあったのだが
 快楽に蕩けていたタビコの瞳が、こちらを向く。ニイッと口角を上げたその顔は、昼の子というより我らに近かった。
 「やめた。執着心は、吸血鬼だけの特権ではないのだからな。」

 それを聞いて安心した。今では、貴様が納得するまでその奇行をやり尽くした後、翼の血族に迎え入れても構わぬと思っている。

 「そうであろうよ。靴下は揃ってこそ意味がある。我らは、とっくに揃っておったのかもしれん。」


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